END OF THE WORLD

ERROR

序章 滅びゆく世界で

 その戦いは、誰が始めたのかすら忘れ去られていた。

 記録に残るのは、あまりにも長く続いた破壊と憎悪の歴史だけ。

 二つの勢力は互いに相容れることなく、終わりなき戦争を繰り返してきた。

 彼らは己の正義を掲げ、他者の罪を糾弾し、世界を二つに分断したまま、数世紀にわたり命を散らし続けている。


 この戦いが特異なのは、力そのものにあった。

 彼らが振るうのは、剣や矢ではなく、天を裂く雷、山を砕く炎、そして闇そのものを刃とする異形の力。

 古の秘術から生まれた魔法と、人間の身体を超えた能力は、世界を変え、戦場を地獄へと変えた。

 その結果、戦争はもはや人間同士の闘争ではなく、天災と見まがう破壊の連続だった。


 村々は焼き尽くされ、森は消え失せ、大地は荒廃し続けている。

 残されたのは無数の廃墟と、そこに息づく汚染された生命の残滓だけだ。

 中立を誓った都市すら例外ではなく、どちらかの勢力に「解放」されるたびにその繁栄は失われ、ただの戦場と化していく。


 そして人々は問うことをやめた。

「なぜ戦うのか?」

「何のために命を散らすのか?」

 戦争の理由はあまりにも歪められ、誰も真実を知ろうとはしない。

 ただ敵を倒し、生き延びる。それが日常であり、唯一の現実となったからだ。


 だが、争いの中心に立つ者たちは知っている。

 この戦いに意味などないことを。そして、それでも止めることができないことを。

 なぜなら、この二つの勢力は互いに存在を否定しあう、鏡像のような存在だからだ。

 片方が生きる限り、もう片方は滅びることを受け入れられない。


 夜空には、いまだ炎が昇り続けている。かつての星明かりは、もう何年も前に見えなくなった。

 血と灰が降り積もり、風がそれを運ぶたび、人々の心の中にわずかに残された希望すらも吹き飛ばされていく。


 そして今夜もまた、一つの都市が消えるだろう。

 どちらの旗が掲げられるのか、それすら重要ではない。

 朝が来る頃には、その場所は地図から消え、歴史の中に埋もれるだけだからだ。


 戦いは止まらない。

 何百年も続く争いは、この世界そのものを蝕み、破滅へと導いている。

 それは誰の目にも明らかだった。

 大地は割れ、空気は魔力に汚染され、命を育むはずの水は黒く濁っている。

 かつて豊かな緑が広がっていた場所は、今や荒野となり、生命の息吹はすっかり掻き消された。


 力を使うたびに世界は悲鳴を上げた。

 魔法の炎が森を焼き払い、大地を裂く呪文が川を蒸発させる。

 戦争が始まる前、この世界には何千年も続く自然の調和があった。

 だが、調和は壊れた。

 破壊の連鎖は誰にも止められず、このままではやがて、空さえも崩れ落ちるだろうと予言者たちは語る。

「もしこの争いが終わらなければ、世界そのものが死ぬだろう」

 そう忠告する者は数多くいた。しかし、誰も耳を貸さなかった。

 平和を求める者たちは、戦争の炎に飲み込まれるだけだったからだ。


 大地の裂け目から吹き出す黒い霧は、世界の終焉の兆しだとささやかれていた。

 誰もその霧の正体を知らない。ただ、霧の中に足を踏み入れた者は戻ってこない。

 荒れ果てた空に漂う赤い雲は、血のような雨を降らせ、土はもはや命を宿すことを拒絶している。

 生き残りを求めた民たちは土地を捨て、さまようだけの日々を送るが、たどり着く先もまた戦火の只中だ。


 そして、ある時点を超えたとき、人々は気づくだろう。

 この争いを続ける限り、世界にはもう平和が訪れることはないと。

 憎悪が憎悪を呼び、復讐が復讐を生む。

 二つの勢力が互いを完全に滅ぼし尽くすその日が来たとしても、世界には何も残らない。

 かつてこの地に存在した緑の草原も、穏やかな空も、すべては灰と化し、消え去るのだ。


 もしその時が訪れたなら、誰も口にする言葉はないだろう。

 そこにいるのは、最後に立つ者と、崩壊する空の下で滅びを迎える世界だけだ。

 平和は、ただの幻だったと悟るだろう。

 希望という言葉が嘲笑に変わり、夢がただの苦痛へと変わる未来が、すぐそこに迫っている。


 戦争の終焉が訪れる時、それは世界そのものの終わりだ。

 人々は二度と、平穏な朝を迎えることはないだろう。






 運が良かったのか、あるいは悪かったのか――この世界を観測した者がここに一人。

 その男は、星々の彼方からこの荒れ果てた地を見下ろし、黙したまま長い時間を過ごしていた。

 ただ「ERROR」と呼ばれるその存在は、無感情ともいえる冷たい目で、崩壊する大地と、終わりを迎えようとするこの世界の姿を見つめていた。


 ERROR

「これが…人々が築いた未来の形だというのか。」


 彼は低く呟いた。その声には、憤怒でも悲哀でもない、ただ深い虚無だけが宿っていた。

 戦いは止まることなく続いている。

 魔力の閃光が空を裂き、大地は崩壊し、命が無数に散っていく。

 彼は、そのすべてを目にしていた。

 それは無力な神のように、ただ観ることしかできない立場だった。だが、今は違う。


 ERROR

「総員、来い。これは全員で行く必要があるものだ。」


 その言葉は、どこか遠くに潜む無数の影を揺り起こした。

 彼の命令は、星々を渡る彼らに届いた。

 かつて幾多の世界を巡り、数々の命運を見届けてきた彼ら。

 彼らはその命令に疑問を挟むことなく応じた。


「了解。」


 彼らの声は一つではなく、多くの声が重なり合い、世界の裂け目から響くようだった。

 その音は冷たく、しかし確かに意志を持っていた。

 彼らは戦う者ではない。

 だが、必要であれば剣を取ることをためらわない者たちだ。


 光の柱が生み出す眩い輝きの中で、彼らは次々とその姿を現した。彼らの間に交わされる言葉には、緊張感とともに確固たる覚悟が宿っていた。


 ゼエル

「様子から見るに、やばいようだな。」


 彼の視線は鋭く、光の柱の向こうに広がる未知の世界を想像するかのように遠くを見据えていた。


 ERROR

「まぁね、さすがにこれは全員要るよ。」


 その声には珍しく重みがあった。

 彼のいつもの軽口とは違い、今回の事態の深刻さを物語っていた。


 炎牙

「お前がそこまで言うなら疑う余地はないな。」


 彼の言葉には信頼が宿っている。炎のごとき熱意を抱えつつも、その瞳は冷静だ。


 神威

「さーて、やるとしますか。」


 軽快な口調だが、その拳は既に握り締められていた。彼の中で高まる闘志は隠しようがない。


 レイジ

「だが、滅びを受け入れるのもまた選択だ。その判断については……」


 途切れる言葉の中に、彼自身の葛藤が垣間見えた。滅びと向き合う覚悟、それでも抗う意志を選ぶ苦悩があった。


 ERROR

「無論、向こうについてからどのように行動するかはお前らに任せる。」


 淡々とした口調ながら、その言葉には全幅の信頼が込められていた。


 レイル

「とりあえず、行ってみないと分からないですね。」


 柔らかな笑みを浮かべながらも、彼女の声には緊張が混じっている。それでもその目は真っ直ぐだった。


 怜

「できる限りの準備は済ませた、いつでも行ける。」


 鋭い声が響く。準備を万全に整えたという言葉は、仲間たちを安心させるようでもあった。


 業

「いっちょ行きますかね。」


 肩を軽く回しながら、彼は気楽そうに見せたが、その足元には揺るぎない自信が漂っている。


 蒼司

「準備はできている。」


 短くも力強い言葉が、彼の揺るぎない決意を物語っていた。


 白玖

「あぁ、少なくとも、悔いは残すまい。」


 その声には静かな覚悟が滲んでいた。迷いの一切を断ち切り、前を向くその姿勢は頼もしかった。



 ERROR

「あらかじめ言っておくが、今回行く世界は今までのような一時の平和などは存在しない。あるのは完全な地獄…いや、虚無だ。覚悟しておけ。」


 その一言が、彼ら全員の心に重く響いた。

 だが、全員が静かにうなずき、それぞれの意志を胸に秘める。


 光がさらに強く輝く。

 ERRORが見守る中、彼らは一人ずつ光の柱に足を踏み入れ、地獄へと向かう準備を整えていく。

 彼らの出撃が、この虚無の世界に何をもたらすのか――それを知る者は、まだいない。


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END OF THE WORLD ERROR @tomotomo1122

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