第2話
「由紀。メリークリスマス」
私が起きるのが待ちきれなかったのか、父と母は私の布団を挟むようにして座っており、定番のクリスマスソングを歌い続けた。
父の置いたクリスマスプレゼントはまだ枕元に置かれていた。昨夜、ごとりと動いた気がしたが、気のせいだと思い、頭まで布団をかぶってそのまま眠ってしまっていた。
「開けてみてっ」
母はいつもの優しい笑みを浮かべて私の目を見つめていた。私は口の端の持ち上げ方に気をつけながら頷いて、ラッピングを剥がした。白い箱はリボンが十字に結ばれていた。それも解いて蓋を開けると、私は「ひっ……」と小さな悲鳴をこぼしてしまった。
「すごいだろ」
父が鼻の穴を膨らませながら自慢げに言った。私は箱を落とすと母は露骨にあたふたした。
「生き物なんだからっ。大事にしてあげてね」
母が箱の中身から赤ん坊を抱くようにして持ち上げた。その体はそのまま赤ん坊だったが、頭部だけは四十代の中年の男だった。
「ついに、小人をわけてもらったんだ。しかもクリスマスにだよ。うちで大切に一緒に暮らせば、きっと幸運をもたらせてくれる」
父は母に抱っこを代わるようにせがんだ。小さな中年の男は目をつむったまま、母と父に頻繁に交代させられながら抱っこされている。
「こ、これなに? 本当に生きてるの? 怖い」
私は我慢できずに言った。
「小人の償いの話は散々して来ただろ。実は一昨日、会社帰りに集まりに行ったときに壇様がおられたんだ。そのときに『あなたは熱心だから特別に小人を授けましょう』ということでいただけたんだよ。由紀にバレないようにするのが大変だったよ」
中年の小人は薄めを開けた途端、抱っこしていた母の顔を覗き込み、にやりと口の端を歪ませた。
「かわいい」
「どこが……」
母の呟きに、つい本音を漏らしてしまった。そのときに母は見たこともない厳しい目線を私にぶつけた。
「由紀ちゃん、小人のことを悪く言うのはダメだよ。我が家に幸運を授けてくれるんだからね」
「でも……」
私は反射的に口を閉ざした。これ以上反発すれば両親が私に何をしでかすかわからない。
「名前は何にしようか」
父が小人の青くざらりとした頬を指先で撫でながら言った。
「幸人なんてどう? 幸せを運んでくれる人、だから」
「すごくいい。由紀、この小人は幸人にしよう。いいよな」
父が言うと、私は頷くしかなかった。母は自分が名付け親になれたことが嬉しかったらしく、幸人の禿げあがった頭を優しく撫でた。幸人の股間に備わった陰茎は小さいものの、情けなく屹立しており、母に対して明らかに欲情していた。その様子を見て、私は一刻も早く家を出ていきたいと強く思うようになった。
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クリスマスの小人たち 佐々井 サイジ @sasaisaiji
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