《第一章》 再会。だけどあくまでも上司と部下です!①
「今日から
人事を担当する上司がウェンディにそう言った。
ウェンディ・オウルはその日、やる気に満ち満ちて初出仕となった王宮の公文書作成課で、かつての恋人であるデニス・ベイカーと再会した。いや、してしまったのだ。
人事の文官はトラブルを未然に防ぐ目的か
ウェンディは
だって、向こうはまったく表情を変えずにこちらを見ているのだから。
まるで知らない他人のように。
(……他人か。そうだ、もう私たちは他人なんだから)
「承知しました。はじめましてベイカー卿、今日からよろしくお願いします」
ウェンディは
「……よろしく」
デニスは
三年ぶりとなるかつての恋人は、当然ながら三年前よりも
相変わらずくそムカつくほど整った顔。ただ少しやつれているようにも見受けられる。
(苦労してるの? ちゃんと食べてる?)
そんな考えが
デニスは呼び寄せた文官にウェンディに細かな仕事内容等を教える
ウェンディも何食わぬ顔をして様々な説明を受け、実際に仕事をして早く慣れるようにと、簡単な公文書の清書書きを担当してその日の業務を終えた。
(何事も起きなくて良かった)
それはそうだろう。向こうにとっては何事か起きたら困るに決まっているのだから、このまま素知らぬふりをして仕事をしてゆけばいい。
そう思ったウェンディが帰宅するために部屋を出ようとしたその瞬間、ガチャリと
「……!?」
大声を出して
そして
ウェンディは激しい
「……突然こんな……何かご用でしょうか? ベイカー卿」
彼に聞かせた事のない
「ここに……来たのは
互いに無関係を装っていくのかと思いきや、デニスの不可解な言動にウェンディは
「これは一体何の
「質問に答えて欲しい、ここで勤め出したのは偶然なのか?」
ウェンディの心の奥底まで
(この人は、私が未練がましく近付いて来て、今の生活を
そんな事する訳がないのに。
別れた男の家庭を
つきん、と痛む心を
「……痛いです」
「あ、ごめん」
デニスは掴んでいたウェンディの手首を
ホントに痛いのは心だけど。
今後
「もちろん偶然です。もう二度と会いたくもないと思っていたのに。そんな風に思われるのは心外です」
「偶然……もう二度と……心外……そうか……」
心なしか力なく感じるデニスの声を無視してウェンディは更に言葉を重ねる。
「安心してください、貴方との事はもう
「大切な生活……」
「ご理解頂けましたか? ではもう
「いや、俺は……」
何かを言い
そして
「それでは急ぎますのでこれで失礼します。今後もうこんな不適切な
「……」
何も言わないデニスを残し、ウェンディは彼のオフィスを出た。
拘束からすんなりと逃れられて良かった。
彼が何を考えているのかはわからないが、もしまだ逃す気がなかったのならデニスには勝てない。
デニスは文官にしておくのは
昔はわんぱくなデニスだったとよく話してくれた。
部屋に引き込まれた時からなかなか鎮まらない速い鼓動を無視して、ウェンディは何かを振り切るように足早に歩いた。
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政略結婚したはずの元恋人(現上司)に復縁を迫られています キムラましゅろう/角川ビーンズ文庫 @beans
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