後輩佐藤と大雪予報

そばあきな

素直に喜べない大雪予報


 どうやら、今年の冬は例年より雪が積もるらしい。


「これからやってくる寒波の影響で……」と朝のニュースで気象予報士が伝えていた。

 小学生だったら大雪の予報に喜ぶのだろうが、高校生__しかも通学に電車を使用しているとなると、喜べない部分の方が多かった。


 地面にうっすらと積もる程度なら季節を感じるくらいで終わるのだが、降りすぎると電車が遅延したり、最悪止まってしまうこともある。雪の影響なので自分のせいではないにせよ、遅刻や欠席はあまりしたくなかった。


 何事もほどほどが一番だ。大雪は勘弁してほしいと思いながら今日の朝は家を出た。

 しかし授業を受けている間に、いつの間にかそのことは頭から抜けてしまっていたらしい。


「そういえば先輩、聞きました? 今年は雪がいつもより積もるらしいですよ」

 放課後の帰り道、後輩の佐藤に言われて、そういえばそうだったと思い出す。


 今年の冬は例年より雪が積もるという気象予報士の予測。

 そこらにいる一般人の予測よりは確かなものだろう。

 別に精度を疑うつもりはないが、何事もほどほどが一番なので外れてほしいと願ってしまっていた。


「らしいな。電車が止まらないことを願うばかりだよ」

「まあ、俺たち電車通学組にしてみれば、そこが一番気になるところですよね」

 そう言って佐藤が笑う。


 乗る電車は違うものの、佐藤も自分と同じで電車通学組だ。

 だから自分の話にも共感してくれるようだった。


「でも、久しぶりに雪合戦とかしてみたいですよね」

 こちらを見る佐藤の目がきらりと光る。何かを期待するようなその目が、よくないことを考えているぞと暗に示していた。


「小学生に混ざってやるつもりか?」

「まさか。体格差があるのでしませんよ。だから先輩が付き合ってくださいね」


 ほらみたことか、と心の中の自分がツッコミを入れる。

 腕をブンブン振り回しながら、佐藤は自信満々な表情を浮かべた。


「当時は結構強かったんですよ。あらかじめ大量に雪玉を作っておいて、嫌がらせみたいに間髪入れずに雪玉を投げ続ける戦法が一番得意でしたね」

「どうやら性格の悪い子供時代を送っていたみたいだな」

「戦略的と言ってください。……ねえ、先輩」


 そこで言葉を区切り、一歩先の地面を踏み締めた佐藤が笑顔を向ける。



「これから冬になって、雪がたくさん積もって。そうして電車が遅延したら、学校を休んで雪合戦しましょうね」



 大雪で電車が遅延して途方にくれる人たちが近くにいる中、全力で雪合戦を始める自分たちを思い浮かべる。


「小学生かよ」

 そうは返したが、想像をしてみると楽しそうだった。


 それまでは遅延したら憂鬱だなんて思っていたのに、佐藤と話していると、良い方に気持ちが向くから不思議だ。


「行きの電車で遅延しないといいな」

「そうですね。帰りじゃないと俺は先輩と遊べないですから」

 

 大雪で電車が遅延しているという事実は同じはずなのに、考え方を変えるだけで途端に気分が明るく変化してしまう。

 やはり佐藤と話しているのは楽しいなと改めて思えた。


 そんな自分の考えを見透かすように、佐藤がこちらに向けて笑みを向ける。

 少しの恥ずかしさも感じつつ、今更誤魔化しても仕方ないと、目を細めて自分も笑い返しておいた。

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