第3話 ダンジョン

 あの後、どうにかリンファ先生に付き合ってもらって魔法の練習をした。


「〈氷掌フロスト〉!〈刺胞氷掌フロスト・スパイク〉!」

「きゃあああああああああ!」


 ……うん、協力してもらって。


 とはいえ、一番面白かったのが氷魔法だったかもしれない。


 何せ火魔法は完全な物量だし、風魔法はカス、一応竜巻とかも作れるっぽいけど、戦争にしか使わなさそうだし、土魔法に至ってはモロ錬金術だった。


「氷魔法は氷を操るからその名がついたんだよな?」

「は、はい……」

「土魔法と違い一つの物質を操ることに重きを置いた魔術……ならば、他もできよう」

「他? 他とは一体……」


 僕は徐にそばに置いてあった甲冑の剣に手をかける。そして、僕がある言葉を放つと剣がグニャグニャに踊り始めた。


「〈アイアン〉」

「あいえええええええええええ!?」

「おい、ピーピーギャーギャーうるさいぞ」

「剣が……剣が曲がって、こんなの──」

「こんなの発想次第でいくらでもできるだろう。ほら、こういう風に」


 今度は鉄の剣から鉄の結晶が生み出される。それらはそれぞれ暑かったり冷たかったりして、不穏な蒸気を巻き上げていた。


「もういいです、わかりました。分かりましたから!」

「おそらく全ての物質に応用が可能だぞ」

「魔法使いの三大難問をこうも易々と……ええ、分かりましたとも。貴方がどれだけ規格外かということが」

「え?」


 これぐらい……みんな出来るよな?


 だって、無茶苦茶簡単だったぞ。


「はん、こんなこともできない無能が魔法使いを名乗っていいものか」

「ぐふっ」


 ごめんなさい、「本当に皆はできないんですか?」の略です。


「さて、そろそろ飽きてきたな」

「は? 飽き……」

「飽きてきたと言ったのだ。聞こえてないのか、このウスノロ」

「……ひっく」


 ごめんなさい、本当にごめんなさい。


「次回は【迷宮ダンジョン】で腕試しだな」

「ダンジョン……そんな! 危険です!」


 リンファさんの言いたいことも分かる。やはり、ここは慎重に行ったほうがいいのかもしれない。


「はん、お前のそのウスノロ加減に付き合っていては日が暮れるわ」

「うぅぅ……!」

「出発は明日だ。目的地は近郊の【鉄と悪貨の祭囃子】。馬車を用意するから、いいな?」

「ぐすん……はい」


 ……


 というわけで、イエメールくん判断によりいくことが決定してしまいました。


 僕の意思じゃない……


 ◇◆◇◆◇◆◇





 屋敷から20kmちょっと、馬車で1時間ほど揺られて着いたのが初心者向けと名高いパスカル領の【鉄と悪貨の祭囃子】だ。


 当然、ここを選定したのは僕であって僕じゃない。おそらくイエメールくんの元の人格と、それに引き継がれていた記憶だ。


 ここは洞窟型のダンジョンになっているが、中は広くてモンスターもそこそこ弱い。魔法の腕試しにはうってつけの場所だった。


 執事に明日ダンジョンに行くと伝えたところ護衛をつけるから三日待って欲しいと言われてしまった。その間、リンファさんを文字通り振り回しながら四大魔法の練習に励んでいた。


「そこ、魔物の死体がある。気をつけろ」

「ふぇーふぇふぇふぇ!」

「何の鳴き声だ、それは」


 これは素で言ってしまった。


 どういう泣き方なんだろう、それは。


「おい、いたぞ」

「ふぇ!?」


 驚愕を隠せないリンファさんの前に出る。


 奥にはそれはそれは獰猛そうな獣がいた。


 ゴブリン、緑色の肌をした人型の魔物だ。背は小さい。


「本来はこいつ程度、魔法を使う必要もないんだが……」

「GUGYA!? GYAAAAAAAA!」

「業腹だが……〈氷掌フロスト〉」


 その瞬間、僕の手のひらから氷が生み出される。


 それはこちらに飛びかかってきたゴブリンの体を氷漬けにし、更に霜のような氷の棘が無数に肉体の細胞を串刺しにしていく。


「〈刺胞氷掌フロスト・スパイク〉」


 それは氷の結晶に含まれる鋭利な棘を人工的に生み出し、触れた者を物理的に蝕んでいった。


「GUGYAAAAAAA!」

「ひえっ、凄いですね」

「おい、お荷物。お前はダンジョンにきたことがないのか」

「い、いえ、私はそんな機会などなく……」

「貴族の子弟なら皆通る道だぞ……」


 嫌味ったらしくイエメールくん(僕)は言い捨てる。


 血を出しても赤く染まった氷の彫像がそこに立っている。僕はそれに蹴りを放って最後のとどめを刺した。


「初討伐、お見事でした……それも詠唱破棄で」

「詠唱? ああ、あのお前がぶつぶつ言っとるやつか。あんなもんやって意味あるか?」

「とんでもない! 魔力の操作とは本来抽象的で覚えづらく、その上魔法の手順は複雑なんです! それを覚えやすくするために魔術操作の一つ一つに〈言霊〉を当てはめることっで覚えやすくする、そして最終確認の意味を込めて発動する魔法の名前を叫ぶのが慣わしなんです!」


 どこか誇らし気にリンファさんは語る。凄いなぁ、そんなに奥が深いのか。


(凄いですね、尊敬です!)

「ふん、凡人は大変だな」

「くっ……それを、無詠唱で使ったり、詠唱破棄したり、あまつさえ見ただけで覚えるという方が異質なんです」

(そうなんですか……大変ですね)

「俺にはお前らがスットロイようにしか見えんがな」

「ぐぐっ……」

 

 本当にごめんなさい。この子(イエメールくん)は反抗期なんです。


 ともかく、敵を倒したので先を進むことに。


 道中さまざまな敵がやってきたが、その尽くを一発の魔法で沈めていった。


「〈氷よアイス〉!」


 僕から離れた位置に氷塊が現れ、それは射出される。


「〈氷河グレイシアー〉!」


 僕の足元から氷が現れ、その鋒が敵の喉を貫く。


「〈静止フリーズ〉!」


 敵を極低温に冷やして動きを止める。


「〈吹雪ブリザード〉!」


 範囲内の全ての敵の行動を遅くし、凍てつかせる。


「パスカル様……寒いですぅぅぅぅ」

「む、そうか。お前らにも〈吹雪ブリザード〉は効くのか」


 指を鳴らして火魔法で火炎を出現させる。リンファさんや護衛の人たちはそれでありがたそうに暖をとっていた。

 

 その時だ。


「きゃああああああ!」


「なんだ」

「女性の悲鳴?」

「行くぞ」

「あっ、イエメール様!」


 僕は護衛達を置いて脱兎の如く駆け出した。

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2024年12月30日 12:00
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2025年1月1日 12:00

ダンジョンで助けた白銀の美少女とベッドインしたら敵国の巫女だった 〜破滅を逃れるために軍人として出世します〜 どうも勇者です @kazu00009999

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