第3話 聖夜の魔法にかかるまで

※名前の読みについて※

雨谷虹実(あめやななみ)/天野桜楽(あまのさくら)

深坂幸司(みさかこうじ)/橘司(たちばなつかさ)


 ついに、二十四日になりましたとさ。なんともあっさりイヴになってしまった。猶予期間が短かった。こんなに早く来るなんて聞いていない。そんなわけないと何度スマホを確認しても十二月二十四日としか表示されず頭がついていかない。

『ついに来たか』

ベットから体を起こし一度伸びた。

不安しかない、というとウソになるだろう。でも不安だ。

だって二人だもん。朝からこの調子では持たないだろう。

集合は夕方十七時からとのこと。日中は用事があること、プレゼントは買ってこないことの二点が結構な長文で送られてきていた。この内容以外は蛇足みたいな感じだ。文の最後には噛みしめて読むように! と書いてあり、別に噛んでも味はしないよと思った。


そんなこんなで十六時になっていた。

知ってはいたがさすがクリスマスイヴという感じだ。人多いし、ピカピカ光ってるし星大きいし。改めて凄いなと感心した。空は快晴? と言う表現が適切かどうかは分からないが星がよく見えて雪やら雨やらは降らないように思える。

「お~い、幸司くーん!」

聞き慣れた声がした方へ顔を向けると僕は、一度目を疑った。可愛すぎて。童話の中かと勘違いした。そんなことも知らん顔してこっちに駆け寄ってくる雨谷さんはずっと笑顔だ。

「どう? どう? かわいいっしょ!

かわいい虹実ちゃんがより一層かわいいっしょ!」

『あ、あぁ……』

僕は開いた口がふさがらず呆然と目の前のシンデレラに目を奪われていた。

「ほら、行くよー!」

『ちょ、ちょっと』

雨谷さんは勝手に僕の手を取って歩き出した。

周りの視線を集めながら最初に向かった場所はアイスクリームを売っている某BRだ。

『なんでアイスなのさ寒いのに』

「ん〜私が食べたいからだけど」

『左様ですか姫様』

「お、姫様いいね! そこに虹実を付け足そうよ」

『虹実姫様いかがでしょうか』

「ん〜虹実姫でいいや」

『今日だけならいいですよ』

「うん、今日だけ…ね」

一瞬だけ虹実さんの表情が曇った気がしたけど、すぐにいつもの顔に戻った。少し気にかけながら過ごしてみよう。


あれからアイスクリームを食べて二人してくしゃみして何やっているんだと少し冷めた目で自分を見てしまったり、虹実さんがイルミネーションに向かってずっとあればいいのにね。と少し遠い目でつぶやいていて、まるでここからいなくなっちゃいそうな雰囲気を感じた。

気づけば、二十二時を回っていた。そろそろ前夜の魔法から聖夜の魔法にかかるころだろう。けれど解消しなきゃならないことが一つあった。

『あの、虹実姫一つ質問してよろしいでしょうか』

「言ってみなさい幸司くん」

『どうして今日は時折悲しそうな顔をされるのでしょうか

理由があるならお聞かせ願いたいと思いまして』

「やっぱりバレちゃってたか、話すしかないよね」

『できれば話してほしいです』

「わかった、話すよ。私が幸司くんと会える日が今日で終わることを。」

『え、どうして…』

「それを今から話すんでしょ、ここからは口を挟まないで私の話を聞いて。」

『わかりました』

「結局ここまで敬語が取れたのはメッセージの時とあの一回だけだったよね。姫呼びもここで終わりでいいよ。

それじゃあ話すね、私のことを。

私は雨谷家の養子として引き取られたんだ、引き取られる前の旧姓は天野。私には、引き取られる前に一緒に遊んでいた幼馴染がいた。中学の頃まで一緒にいた男の子がね。でも、あの頃の天野家は大変でその過程で私は一度記憶をなくした。高校二年のころだったかな、そのことを知った両親は私を入院させる決意をしたらしいの。そこから私は天野の家から一度出されて父の知り合いだった雨谷さんに私を預けたらしい。そのことも私は曖昧なんだけど。そこで虹実の名前をもらったんだ。私はね一度記憶をなくしたけれど、過去の記録が私を救ってくれたの。大好きな幼馴染がくれた桜色のノートに。」

『それって、もしかして』

「あ、口を挟まないでって言ったのに。まぁ、もういいか。天野桜楽、私の幼馴染の名前は橘司。まさか、深坂幸司になっているとは知らずに転校場所を探し出すのに苦労したんだよ。」

『ずっとずっと探していた桜楽がこんな近くにいたなんて。なんで気づけなかったんだ』

「ねぇ幸司くん、違うねここではもう司だよね。続きを話してもいい?」

僕は無言で頷いた。

「私が司と会えなくなる理由は私がまた天野の家に戻るから。私はまた司から離れてしまうことが本当に嫌だけれど仕方がないんだ。私じゃどうにもできないの。雨谷の家に居られる期間はおよそ四年と決められていたの。今年がその四年目なんだ。」

『だからって急すぎる』

「違うの、私はあえて急になるようにしたの。すぐに雨谷を名乗らずに生きるために。」

『じゃあ僕がなんで深坂幸司になったのかも知ってるってことか?』

「知ってるよ」

『なら、なんで隣の席だってわかったときに桜楽は僕に正体を明かさなかったんだ。声だって虹実のときより高い気がするし。』

「私と雨谷家の決まりだったからだよ。司が幸司を名乗るように、私も虹実を名乗っていた。声を変えていたのもその決まりを忠実に守るため。」

『じゃあ僕が夏祭りの時に言ったことも忘れたのか?』

「それだけは忘れないわよ。だってその言葉があったからここまで生きてこれたんだもの。クリスマスまであと四十分だね。

ねえ司、最後に聞かせて。まだ私のこと好きでいてくれる?」

『あぁ、当たり前だ桜楽姫』

「ありがとう、司。私も好きなままでいたから再会を果たせたんだと思う。神様に感謝だね。また再会したときにまた神様に感謝できたらいいな。」

『そうだな。』

「私はこれから飛行機で移動しなきゃならないの。だからここで私が飛んでいくのを見届けてほしい。これが聖夜の魔法にかかるまでの最後のお願い。」

『まかせろ、桜楽への愛を叫んでみせるよ。』

「ふふ、やっぱり司だね。私の大好きな司だ。

でも、恥ずかしいから心のなかで叫んでね。」

『これは光栄だな、世界一美しいシンデレラ。』

「零時になっても忘れないからね。」

『当然だ。』

「また巡り会えるその日まで」

『あなたに愛を届け続けよう』

「最高のクリスマスイヴをありがとう。」


この言葉を最後に桜楽の姿は見えなくなり、程なくして一機の飛行機が上空を切り開いていった。

さすが雨谷家の財力だ。プライベートジェットとは。

本当に聖夜の魔法にかかる前に飛んでいった。

またどこかで逢えることを願って、メリークリスマス。

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聖夜の魔法にかかるまで〜 I scream love for you.〜 柚月まお @yuduki_25nico

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