先輩のことが好きでした
久良紀緒
後輩から先輩への届かない思い
私がはじめて先輩をお見掛けしたのは、高校に入ってすぐに行われた部活説明会でした。
体育館の壇上で、様々な部活の説明が行われる中で、部長とお二人で理科部の説明を去れている姿を拝見して、気になってしまいました。
本当は、中学時代に入っていた茶道部に入るつもりだったんですよ。
でも、先輩の姿をお見掛けして、是非お話ししてみたいと思って、友人と一緒に体験入部させていただきました。
そこで先輩は、私たちに非常に優しく接してくださったことを覚えています。
そのおかげで、私の気持ちは一気に傾いてしまいました。
入部したてのころは、理科部というのがどういう部活なのか、正直よくわかりませんでした。
それでも、先輩にお会いできる部活が楽しみで、毎日が幸せでした。
途中から部活の一環で始まったバードウォッチング。
先輩と一緒にいたかったから、ずっと参加していたんですよ。
気づいてくれてましたか?
バードウォッチングで先輩といっぱいお話できたこと、今でもうれしかったことを覚えています。
ある日、私の友人たちに、先輩への思いがばれてしまって・・・
本当はずっと心の中で一人で思い続けているつもりだったんですが、友達が私のことを応援するって言ってくれたんです。
それで、先輩を私の家にさそって、みんなで一緒に遊ぼうという計画を立ててくれました。
土曜日に先輩が学校から出てくるのをみて、みんなで先輩の後を追いました。
みんなで先輩に話しかけるつもりだったんですが、私たちよりも先輩の方が歩く速度が早くて、なかなか追いつけなくて・・・
自転車を押してたんじゃ話しかけられないからと、私だけが先に自転車に乗って、先輩を追いかけました。
すぐに追いついたものの、私一人で先輩を自宅に誘う勇気はなくて、思わず後ろの友達が話しがあるということを言ってしまいました。
先輩を自宅に誘うと思うと、心臓がドキドキしてしまって、ちゃんとお話できませんでした。
先輩が、後ろから来る友達と話しをしてくれるとおっしゃったので、私はすこし恥ずかしくなって、自転車で先に家に戻りました。
一応、あの日の学校へ行く前に、部屋を片付けていたんです。
でも、最終的な確認をするために一人で帰ったんです。
だって、先輩を呼ぶのに、部屋が散らかってると、恥ずかしいから。
部屋も綺麗になっていて、後は先輩が来てくれるだけだったんです。
でも、先輩は来てくれませんでしたね。
なぜ来てくれなかったんですか、先輩。
せっかくみんなが頑張って立ててくれた計画なのに、あの日はちょっとショックでした。
次の日、何とかいつもどおりにお話しましたが、心の中ではすこし悲しかったんですよ。
体育大会の日、先輩が男女混合リレーに出たので、一生懸命に応援しました。
先輩が走る姿は、かっこよかったです。
あの日、友達が走っている先輩の姿をカメラで撮ってくれました。
その写真をプリントして私にくれたんです。
でも、私がこっそりと持っているのもすこし後ろめたく感じたので、もう一枚プリントして、先輩にもお渡ししましたよね。
あの時、「先輩にも渡しておきますね。」と言ったのは、一枚は私が持っていたからなんです。
先輩は気づいてくれましたか。
天体観測の日のことは、覚えてらっしゃいますか?
友達が途中でお父さんに連れて帰られてしまって、泣いてしまった日のことです。
普段はあまり泣かない彼女が、彼女の好きな先輩と天体観測をできなかった気持ちを考えると、胸がいたみました。
そのやり取りの矢面に立っていた先輩が、ぐったりと疲れているように見えたので、心配して声をかけさせてもらいました。
でも、その時は気分が高まってしまって・・・
彼女の気持ちを考えていると、ついつい私の気持ちも先輩に知ってもらいたくなって、勇気をふりしぼって告白っぽいことをお伝えしたんですよ。
でも、それでも先輩は、何も気にしてくれませんでしたよね。
全然伝わらなかったのか、分かっていて流されたのか・・・
多分、私の好きという気持ち、分かってくれてましたよね?
それとも、本当に分かってなかったんですか?
すっごく頑張って、告白したんですよ。
あれで分かってもらえないなんて、あまりにも鈍くないですか?
それとも気づいていて、わざとはぐらかしたんですか?
そして、文化祭の準備が始まっていた日。
私、クラスの男子から好きだって告白されたんです。
彼は私のことを大好きだと言ってくれました。
でも、私は先輩のことが好きでした。
だから、断ろうと思っていたんです。
でも、先輩は私のことどう思ってるんだろう?
もしかして、私のことを何とも思ってないのかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうになりました。
先輩の本当の気持ちが知りたい。
でも、どうやって?
文化祭の準備が続いていて、先輩だけが書類の提出で帰宅時間が遅くなったあの日。
私は先輩の気持ちを知るために、お芝居をしました。
先輩が帰る時間まで、校門で待つことにしたんです。
不審者がいたという嘘をついて、先輩と一緒に帰るつもりで。
帰り道で、先輩の気持ちを聞きたかったから。
先輩が出てきて、私の話しを聞いて、一緒に帰ってくれると言ってくれたこと、うれしかったです。
そして、帰っている道中でも、周囲に気を配りつつ、ずっと私を気遣って話しかけてくれた優しさ。
あの時、私は心の中で叫んでました。
先輩のことが大好きです。
私の気持ち、気づいてください・・・と。
でも、一向に気づいてくれませんでした。
家の前まで送ってもらって、先輩が帰ろうとした時、気持ちが先走ってしまって、つい先輩の手を握ってしまいました。
何とか私の気持ちに気づいてほしくて・・・
「大丈夫?」
と声をかけていただいた時も、心の中でずっと叫んでいたんです。
少しでも、気持ちが伝わればと、先輩の手をおでこに当ててみたりもしました。
自分から、好きですと言えば良かったんでしょうか。
でも、私にはそんな勇気がありません。
できれば、先輩の方から告白してほしかった。
そして、長い時間、ずっと心で叫んでいましたが、結局それは叶いませんでした。
やはり、先輩は私のことは一人の後輩としてしか、見てくれてないのですね。
いくら、好きだという気持ちを見せても、こっちを向いてはくれないんですね。
私と一緒に付き合ってくれるということは、ないんですね。
私一人の気持ちだけが、空回りしていたのかと思うと、やるせない気持ちがこみ上げてきます。
今まで、勝手に先輩のことを好きになってしまって、ごめんなさい。
今まで優しくしてくれて、ありがとうございました。
先輩への思いは、今日限りであきらめます。
私は思いを断ち切って、先輩の手を放しました。
本当に、今までありがとうございました。
大好きだった先輩。
憧れだった先輩。
明日からは、一人の後輩として、先輩のことを見るようにします。
すぐにというのは難しいかもしれませんけど、頑張って普通の先輩・後輩の間柄になれるようになります。
今まで本当にありがとうございました。
さようなら、私の先輩への思い・・・
こうして、私の先輩への片思いは終わりを告げたのでした。
告白してくれたクラスメイトの彼についても、交際はお断りしました。
それでも彼はめげずに、何度も告白してくれました。
最初は、何とも思っていなかったのですが、彼から愛されていることに嬉しさを感じるようになり、時とともに気持ちがゆらいでいきました。
バレンタインデーの日。
私は友達と一緒に先輩たちのチョコレートを用意しました。
それとともに、告白し続けてくれている彼にも。
ただし、それはどちらも感謝の義理チョコです。
本命チョコを贈れるほど、私は強くはありませんでした。
それでも、好きだった先輩に、チョコをお渡しするときは、まだドキドキしてました。
そして、先輩たちが受験に備えて学校に来なくなってから数日たったあの日。
先輩からの呼び出しに少しドキドキしました。
そして、お会いして、告白してくれましたね。
正直、うれしかったです。
もっと早くに告白してくれていれば、きっとすぐにOKを出していたと思います。
でも、あの時にはもう、私は先輩よりも、彼の方が好きになっていました。
まだ付き合ってはいませんでしたが、気持ちはもう彼の方に向いていました。
それに、先輩には受験が控えてます。
私なんかにかまって、受験を失敗したら大変です。
そういう思いで、お断りしました。
そして、先輩は断った理由を何も聞かれませんでした。
理由を聞かれても、果たしてその時に答えられたのかはわかりません。
でも、あれから時が過ぎて、今ならわかります。
私は、誰かを愛するよりも、誰かに愛されたかったのだと思います。
もし、先輩がもっと前に私のことを愛してくれていたらという思いは、今でもたまに考えることがあります。
私が先輩を好きだった時、一歩を踏み出すことができていれば、結果は変わっていたのかもしれません。
しかし、今となっては、過ぎてしまった青春の思い出として、いつまでも心に残しておきます。
いい思い出をありがとうございました。先輩。
先輩のことが好きでした 久良紀緒 @okluck
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