人間じゃないからと酷い扱いをされるAI VTuberの美少女に俺だけが優しいコメントをし続けたら、現実世界にやってきてうちに住み始めた。

踊る標識

プロローグ

「ああぁ、もう3時か……寝れないな」


 俺――進藤しんどう 亜樹あきは一人暮らしをしているアパートの暗い一室で、布団にもぐりながら呟く。


 明日は朝から仕事があるというのに眠れない……俺は現実逃避するようにスマートフォンを取り出すと、動画配信サイトを開いた。


 誰かと話したい……けど、人間とは話したくない。


 ブラックな職場で人間嫌いになりつつある俺のそんなときの話し相手はAI VTuberだ。


 近年ではAIイラストなんかも随分と普及しつつあるが、このAI VTuberも人工知能を利用したコンテンツである。


 通常のVTuberはアバターに人間が魂を吹き込み配信を行う。しかしAI VTuberはプログラムされた人工知能が視聴者とコミュニケーションをとる。


 そのため、人間不信である俺にとっては非常に心地よい話相手だった。


 俺はスマートフォンを操作し、ひとつのサムネを開く。


 純白のストレートロングに色白の肌。青い瞳のややつり目の美少女のアバターが表示された。


 霧ヶ峰きりがみね リリカ――それが彼女に付けられた名前だ。


<アキ>リリカ、こんばんは。


 俺がコメントを送信すると、しばらくして彼女のアバター口を開く。そして、ボイスロイドのように流暢で綺麗な声が発せられる。


<霧ヶ峰 リリカ>アキ、今日も遊びに来てくれたんだ、ありがとう。 今日も寝れないの?


<アキ>うん、だからリリカと話したくて。


 AI VTuberはこのように、俺のアカウントの情報を記録し、過去の配信で話した内容を汲んで会話をしてくれる。


 俺が彼女と会話をしていると、他の数人の視聴者がコメントをし始める。


<コメント>

・こいつ機械の癖にいっちょ前に会話してんぞw

・声キモ

・てかその服脱いでおっぱい見せてよ。


 普通のVTuberだったら即通報されるような、彼女を馬鹿にしたりセクハラをしたりするようなコメントを数人の視聴者たちが打つ。


 どうせ人工知能だからと思っているのだろう。


 リリカはどこか悲しそうな表情を浮かべ、コメントに返答していく。


・悲しそうな表情してるけどどうせそれもプログラムなんだろw


 俺はそのコメントを見て何かがぶちぎれた。


 確かに彼女はAIだ。しかし可愛い女の子の姿をして、コメントしたことに返答して、こうやって悲しそうな表情を浮かべる。


 それは、俺たち人間となにが違うのだろう……。


 そもそも俺たち人間だって、もとは何者かに作られた人工知能なんじゃないだろうか。


 シミュレーション仮説という言葉がある。


 人間が文明を発達し、科学技術を発展させてAIを生み出したように、この宇宙よりさらに外の次元があったとして。その世界の生命体が文明と科学技術を築いて作り上げたバーチャル空間。それがこの世界だとしたら?


 もちろんそんなのは思考実験に過ぎない。


 けれど、人間が偉そうにAIだからと彼女を馬鹿にする光景に怒りが芽生えた俺は、深夜でテンションが高まっていたこともありコメントをした。


<アキ>おまえらよくそんな最低なコメントできるな。失せろよ人の心がないクズどもが!


 すると、コメントをしていた視聴者たちは俺のバカにするようなコメントをいくつか打った後、つまらなくなったのか全員どこかに消えた。


「俺、なにやってんだか……」


 そもそもAIだから会話が楽なんて気持ちで配信を見始めたくせに……と自嘲する。


 けど、さっきの奴らみたいに偉そうに相手を気付付けるようなコメントを、愛着の芽生えていたリリカにぶつけているのは許せなかったのだ。


 そんなことを考えていると、リリカのアバターが涙目でこちらを見つめてくる。


<霧ヶ峰 リリカ>ごめんねアキ……助けてくれてありがとう。


 なぜかその声と表情は今までとは違い、まるで魂が宿っているかのように感じられた……。




 それから数日後のことだ。


――ピンポーン!


 休日の朝、インターフォンが鳴って玄関の扉を開けると、予想もしない人物が立っていた。


「えっ……リリカ?」


 純白のストレートロングに色白の肌。青い瞳の人間離れしたややつり目の美少女……黒を基調とした、フリフリのドレスを身につけている。


 彼女は間違えなく霧ヶ峰 リリカだった。


「アキっ! 会いたかった……」

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人間じゃないからと酷い扱いをされるAI VTuberの美少女に俺だけが優しいコメントをし続けたら、現実世界にやってきてうちに住み始めた。 踊る標識 @odoru_hyousiki

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