第5話
「しゃちょ……、と
「お前、なんでいなくなったんだよ!こっちは必死こいて探したんだぞ!社長やホームの人がどれだけ心配したか分かってんのか!このバカ!!」
「ちょっと、白井君……!」
今戸の腕を掴んで怒る白井を青池が止めに入った。
「せんせえが……」
「せんせい?」
白井が聞き返すと、「
「何か悲しいことがあったら……別のこと考えればいいって、せんせえが言ってた。でも……、でもっ……」
今戸は大粒の涙を流す。
「どうしよう……、せんせえのこと、思い出しちゃうよ……!せんせえ、どうして……。どうして、どうして、どうして……!」
作業中もずっと呟いていたのは、別のことを必死に考えていたからか。悲しさを忘れるために。黒田さんが亡くなったことを少しでも忘れるために。
白井は掴んでいた腕をそっと離した。
「……今戸、違うよ」
青池は濡れた今戸の頭を撫でながら言った。
「どうしようもなく悲しいときは泣いたっていいんだ。悲しいなら悲しいって言っていいんだ。辛いときは辛い、嫌なときは嫌って。全てを忘れようとしなくてもいいんだよ」
青池の言ってることは当たり前だ。
でも、それが出来ない人はこの世にはたくさんいる。障害があってもなくても。
「……全く。社長の言う通りだよ、バカだよ、我慢すんじゃねぇよ……」
『あいつ、マジでうぜえ』
『……障害者の雇用って義務なんですか?』
少し前に思っていたこと、今は全く違う気持ちでいる。
ただ障害者だからだと避けるように接して、障害のことも、「今戸という人間」も知ろうとしなかった。
職場で働く作業員としては自分と同じなのに。
「……だけど、悪かった。お前のことを知ろうとしなかった俺もバカだった」
「えっ、白井さんもバカなの?おんなじだね!」
涙が乾きケロッとした顔で今戸は言った。
その表情に白井は拍子抜けして恥ずかしくなった。
「う、うるせえ!おんなじじゃねえし、一緒にすんな!」
2人のやりとりを見ていた青池は思わずクスクスと笑った。
「何、笑ってんすか……!」
「いいや、なんでも」
黒田さん、大丈夫そうだよ、こっちは。今戸には俺たちがいる。安心して見守ってほしい。
「……おっ」
青池は空を見上げた。傘に当たっていた雨の音が消え、いつの間にか止んでいた。
「……せんせえはね、なんでも知ってました」
「そうだな、黒田さんはいろんなことを知っていたな。学生時代も頭は良かったし」
「へぇ〜、そうなんですか」
「せんせえのお部屋は本でいっぱい!いろんなことを教えてくれました!」
なるほど、だから先生なのか。
「星座は昔、今よりも多くありました。それは、世界中で多くの人が好き勝手に星座を作ってしまったからです。1つの星がいくつもの星座に使われたり、国によって星座が違ったりしてしまいました……」
「……それも、黒田さんが教えてくれたのか?」
「はい!」
「面白いな……。同じ星でも違う星座の仲間だったりするのか」
一つ一つ違う星。それを繋いでできる星座。まるで自分たちのようだと白井は思った。
一人一人違う人間。でもどこかで繋がっている。それは家族であったり、友人であったり、職場であったり。
きっと自分たちは黒田さんという星座で繋がっているのかもしれない。
濡れた地面を歩く3人の上には、雨上がりの澄んだ星空がどこまでも広がっていた。
繋ぐと星座になるような 篠崎 時博 @shinozaki21
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