惜しげもなく歌う人々
エリー.ファー
惜しげもなく歌う人々
私は、ずっと、ここで生きていく。
ここは、楽園だ。
何も心配することがない。
政治家がすべてを考えてくれている。
私はいつまでも赤ん坊でいることができる。
楽しくなってきた。
この考え方自体が、私をハイにしてくれる。
私が私を見失わずに済むのは、私のことを、私以外が一番に考えてくれているためだ。
私は、この音の中で生きている。
私の顔色をうかがうために生きている人々。
最高だ。
次から次へと湧いて出てくる。
楽園ではないか。
夏も、秋も、春も、冬も、ない。
すべてに個性はない。
寂しくない。
冷たくもない。
何もかも満ち足りていて、私という存在が常に肯定されている。
言わずもがな。
私は神様。
私のために用意されたものしかない。
激しく生きて、ピアノの中に生まれて、トランペットのように死んでいく。
いや。
嘘だ。
今のは、嘘だ。
悲しさは存在しない。
だから、死もない。
陽気な気持ちが私を私らしくしてくれている。
お願いだから、私を見捨てないでくれ。
手紙の中に私を住まわせてくれ。
何を。
今、私は何を言っていたのだろう。
どうして、そんなことを一瞬でも考えてしまったのだろう。
私は、私のことを愛していて、それは満ち満ちているはずだというのに。
涙は、常に嬉し涙。悲しみの涙など存在しないはずなのに。
そう、私のための世界が、ここで築かれて、夢の中に消えていくはずなのに。
私は、どこに向かっているのだろう。
いや。
どことか、そんなものは考える必要がない。
私には、幸せがある。
無限の幸せである。
何の問題もないはずだ。
だって、私なのだから。
私と世界が作りだした、私のためだけの幸福なのだから。
何の心配もいらないと、誰かが言っていた。
でも、その誰かはどこかに行ってしまった。
私は取り残されている。
でも、幸せなのだ。
何故。
どんな理由で、どんな理屈で、どんな証拠があって。
私は、私の人生で何を証明できたというのだろうか。
静かで、悲しい、私と私以外のためのジャズ。
聞かせて欲しい。
私の声を。
私の耳に。
私の言葉を。
私の心に。
私の性格を。
私の中に。
私以外が作り出した、私という私が独り歩きして、消費されていく。
そのうち、私という存在の不確かさが、私をより遠くへと連れ去って、涙声で作り出した憂鬱の中に浸してくれるだろう。
何を言っているのだろう。
私は、こんなことを言う人間ではないのだ。
もっと陽気で、もっとポジティブで、もっと素晴らしい何かなのだ。
私は、私という存在の消費期限など知らないし、興味もない。
少しずつ、私は、音の中に消えていく。
いや、命の中に紛れ込んでしまう。
きっと、私ではない、私がいて、私という存在の疑問点を洗い出しているに違いない。
あぁ。
この不安だ。
この不安の中にいさせてくれ。
私は、今、私であろうとしている。
私は、私の中に私を見ている。
私が、私を見限ることができないように。
世界が、私を捨てることはない。
これは、希望的観測ではない。
事実だ。
紛れもない、事実だ。
さようなら、私。
こんにちは。
私。
世界はどこですか。
あぁ、そうですか。
世界はここにあったのですね。
もう、寂しくない。
本当の意味で寂しくない。
私は幸福を手に入れた。
そして。
きっと、これもまた仮初なのだ。
でも、それが嬉しい。
私はまた、その瞬間、真理だと思ったものを掴み。
また、手放すのだ。
この繰り返しで、私は、私を好きになっていく。
他の誰でもない、私であるために。
世界の中に潜む私であるために。
音を浴びて生きる私であるために。
私にしか見えない世界の主人公である私に向かって、手紙を書くように生きていく。
心臓と、脳と、肺と、腕と、目と、指と、腕と、膝と、骨と、肉と、耳と、血と、髪の毛と、眉毛と、睫毛と、皮膚と。
そう、一緒に踊っている。
何もかも、消え去って欲しい。
私の意思だっていらないのだ。
寂しい。
でも、いつか、みんな、寂しくなるのだ。
だから、強くなってしまった方が良い。
これが、成長なのだ。
これが、私なのだ。
これが、命なのだ。
これが、人間なのだ。
惜しげもなく歌う人々 エリー.ファー @eri-far-
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