第4話
結婚式から一ヶ月が過ぎたが、私は相変わらず殿下の妻で、城での生活にもすっかり慣れていた。
「城の中はいつもとっても暖かいわね」
私付きの侍女ナボリーにそう声をかけると、「そりゃ、大改造しましたからね」と笑って話してくれた。
殿下と婚約して数年した頃、突然殿下が「城を改装して欲しい」と願い出たのだそうだ。
「どうして?」
「そりゃあ、スザンナ様のためですよ」
寒さが苦手な私のために自分の私的財産を全部投入してでも寒くない城にして欲しいと願い出たそうなのだ。
「でもおかげで殿下はスザンナ様に会えなくなってしまわれて、しばらくの間沈んでいらしたんですけれどね」
以後、質素倹約に、公務以外では遊ぶこともせずに結婚式まで耐え忍んでいたらしい殿下。
「毎日でも手紙を出したくても代金が勿体ないと我慢なさっておられましたし」
「もしかしてそれで手紙が少なかったの?」
「はい、そうなんですよ」
ナボリーは私と殿下が婚約した頃から城仕えをしているらしく、殿下のこともよく知っていたためあれこれ教えてもらったのだが、その内容に頭が混乱してきた。
「自分のためにはお金は使わないと倹約を務めていらっしゃいましたが、スザンナ様への誕生日プレゼントだけは自らあちこち出向いて選んでいらっしゃいました」
城の改装にはその当時の殿下の私的財産だけでは足りず、結婚するまで質素倹約を務め、何かで利益を上げるとそのお金も改装費用にと回していたらしい。
「スザンナ様のおかげで一年中寒さとは無縁の城になり、皆喜んでいますよ」
「私なんかのためにどうしてそこまで……」
「愛しているからでしょうね」
「愛?!」
思わぬ言葉に心臓が跳ね上がった。
思い返してみてもそんな素振りなど見たこともなかったのに。
「会いに来てくださることもなかったし」
「視察でアスター領の方面に行く時以外は我慢なさっていらっしゃいましたから」
「妃教育も城では行われなかったし」
「あー……あの頃はちょっと厄介な人が城に入り浸ってましたからね、スザンナ様を近付けたくなかったのでしょう」
城に入り浸るといっても使用人塔だけだったそうだが、殿下に懸想した女性が自分が主人だといわんばかりの顔をして使用人塔に連日押しかけていたそうだ。
「もしかしてダーズロー男爵令嬢?」
「ご存知でしたか!」
知っているがよく知らない人物、それがダーズロー男爵令嬢である。
「あのご令嬢は本当にとんでもなかったので……万が一スザンナ様と鉢合わせでもしたら何を言い出すか、しでかすかも未知数でしたからね」
「ここに来た初日にお会いしたわよ、この部屋にいらしたから」
「はぁ?! 何でここまで入り込めたんですか?!」
その後分かったことだが、あの日ベルで私の部屋に来た女性はダーズロー男爵令嬢に買収されていたそうで、彼女の手引きで令嬢はこの部屋までやってきたらしい。
「この城全てが殿下からスザンナ様への愛の巣、ということになりますね」
「あ、愛の巣?!」
確かに結婚もしたし、これまで一切喧嘩もせず過ごしてきたが、会話らしい会話もあまりなく、お世継ぎのために夫婦の営みはそれなりにあるものの、小説で読んでいたような甘い夫婦生活なんて何もない。
愛の巣なんて言われても全くピンと来ない。
「殿下は不器用なのですよ。スザンナ様の前ではカッコイイ王太子を演じることで嫌われないようになさっているおつもりのようですけれど」
「好かれているなんて少しも感じたことがないわよ? 嫌われているとは思わないけれど」
「好きなんて言葉では表せないとおもいますけどね、殿下のスザンナ様への想いは」
「そうなのかしら?」
「では今度……」
ナボリーに耳打ちされたことはすぐに証明されることとなった。
『では今度殿下にお会いした際は殿下の耳にご注目ください。スザンナ様の前でだけ真っ赤に染まっていますから』
毎回食事は共にとり、寝るのも一緒なため機会はすぐにやってきたので、私は殿下の耳を注意深く観察していた。
私が傍に寄ると赤く染まる耳。
表情は何一つ変わらないのに面白いほど真っ赤に染まるのだ。
「こんなの分かるはずがありませんわ……」
「何か言ったか?」
「殿下は思った以上に不器用な方なのですね」
「……私達はもう夫婦なのだから、そろそろその殿下というのをやめてくれないか?」
「では……」
殿下を初めて名前で呼ぶと、彼は蕩けるような笑みを浮かべ、私をそっと抱きしめた。
「私、存外愛されておりますのね……」
真っ赤になった耳を間近で見て、初めてこの人を愛おしいと感じた。
追放先は南国でお願いします~寒がり令嬢は不器用王子の愛に鈍感 ロゼ @manmaruman
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