第3話
図書室で調べた結果、幼い頃に見たあの国は実在していた。
───シャイナー王国
それがその国の名前で、太陽神シャイナーに最も愛されている国と呼ばれ、神の名がそのまま国の名になっていた。
年中汗ばむほどの気温で「常夏の楽園」、「太陽に愛される南国」として近隣諸国からとても人気のあるリゾート地として栄えているそうである。
しかし、我が国からはとても遠すぎるため全く交流がなく、情報として少しは入ってくるがそれだけ。
「追放されるのだとしたら遠くに行かされるはずよね? やっぱりこの国に行きたいとお願いしてみましょう」
自身の結婚生活に関しては全く想像が出来ないのに、シャイナー王国のことを考えるだけで心が浮き立つような高揚感が湧き上がってくる。
シャイナー王国は褐色の肌を持つ者がたくさんいるそうで、挿絵に描かれていた王子もまた褐色の肌を持つ美丈夫だった。
「素敵ね……」
我が国の国民は肌の色が雪のように白いため見ようによっては病弱に見えるのだが、それとは異なる褐色の肌はいかにも健康そうである。
常に夏のような気温、陽気な人々、健康そうな褐色の肌。
「魅力的すぎるわ……」
まるで天国のような場所だと思うのだ。
寒さに震えることなく過ごせるだけで私にとっては天国でしかないのだから。
追放を言い渡された際にはシャイナー王国に追放してもらおうと心に決め、いよいよ結婚式当日を迎えた。
殿下とは城に来てから一度もお会いしていない。
そのことからも私が捨てられて追放される未来が濃厚な気がしている。
父に伴われ、式が行われる王宮に併設している教会へと馬車で向かった。
流れとしては教会で式を行った後に国民にお披露目するためのパレードが行われることになっていたが、きっとそのパレードは中止になるのだろう。
「お父様? 私が遠くへ行っても心配なさらないでくださいね?」
「確かにアスター領から王都は遠いが、早馬を走らせれば四日で着くんだ。それほど遠くはないよ」
確かにアスター領からは馬車ではなく馬で行けば四日程で王都まで来れるだろうが、私が行く予定の地は海を越えたずっと先の国。行ってしまえば簡単に戻ってくることも出来ないし、もしかしたら国外永久追放なのかもしれないため二度と戻れない可能性もある。
だけどまだ確定しているわけでもないため不用意にそんなことも言えない。
教会に到着すると、教会の前の道には赤い絨毯が敷かれており、その両端に騎士がずらりと立ち並んでいた。
その中を父の腕を取り歩いていると、ダーズロー男爵令嬢の姿を見つけた。
彼女も参列者なのか、教会の一番最後尾の椅子に座ってこちらを勝ち誇ったような顔で見ている。
今日も相変わらず化粧が濃くて残念だ。
教会の最奥の祭壇前では殿下が待っており、祭壇の階段前までやってきた私の手を取りゆっくりとした足取りで階段を上った。
いつ追放を言い渡されるのだろう?
式の緊張感よりもそのことばかりが頭をよぎっている。
結局何も起きないまま式は婚姻誓約書へのサインを残すのみとなった。
「あの、殿下? 私、追放はシャイナー王国でお願いしたいのですけれど」
言い出すタイミングを逃してしまったのかもしれないと思い自分から言い出すと、殿下が目を見開いている。
「何の話だ?」
「私、捨てられて追放されるのですよね?」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食らった顔とはこんな顔だろうか?
「そんな事実はない!」
「そうなのですか?」
「そうだ!」
もう心は南国のシャイナー王国に向かっていたため非常に残念だ。
そのまま婚姻誓約書にサインを済ませ、殿下と二人で教会を出ようとした時、ダーズロー男爵令嬢が声を上げた。
「ちょっと待ってよ!」
思いのほか大きな声だったため皆の注目を一手に集めてしまっている。
すぐに騎士に止められたダーズロー男爵令嬢だったが、その後何か叫んでいたようだ。
「あの方は殿下のお知り合いですか?」
「……学校に通っていた時に付きまとわれていた」
御学友のお一人だったようだが、付きまとわれるとはどういうことなのだろうか?
「行く先々に出没し、商家の手形を使い城の中にまで勝手に入り浸るような女だ」
「まぁ! 行動力がおありなのですわね。それに入り浸るなんて、余程お城が好きなのですわね」
「……君は……」
呆れた表情をされてしまったが、何かおかしなことを言っただろうか?
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