~冬~

 凍えるような冷たい夜空、針のように細く青白い月が中天に架かっている。

 縁側に座るトトさまとアユム、吐く息は白く二人は身体を寄せ合っている。

 「トトさま、寒いね。」

 「ああ、そうだね。」

 夜空を見上げ、嬉しそうな顔のトトさま。

 「トトさま、何か嬉しいことがあるの?」

不思議そうな顔のアユム。

 「寒くなったおかげで、お星さまがよく見えるようになったのさ。」

 ホクホク顔のトトさま。

 「ふ~ん。」

 関心が薄いアユム。

 「見てご覧、お月さんの右隣。」

 アユムの肩を持ち、月の右隣を見るように促すトトさま。

 「土星だよ!」

 「ええっ?」

 トト様の言葉に思わず星を凝視するアユム…ぼんやりとではあるが、輪っかの付いた星の輪郭が見えてくる。

 「ホントだぁ!」

 言葉は弾み、足をバタつかせるアユム。

 「寒くなると、空気がピリッと引き締まるんだ。

 お月さんも寒さのあまりキュッと細くなるからね。」

 トトさまの言う通り、冬のお月さまは、他の季節のそれと比べて、幾分細身に見える。

 「それに、お月さまも寒さの影響で青白くなって、他の星の輝きの邪魔をしなくなるんだよ。」

 「ふ~~ん。」

 トトさまの言葉を聞いて、月のイメージを反芻するアユム。

 春の月は、桜の花を思わせる薄紅色に柔らかく輝く。

 夏の月は、盛夏の太陽のように、カンカンに大地を照らし、色味も夕焼けのように赤味がかっている。

 秋の月は、黄色くて大きくて丸々と太って見える。

 そして、冬の月は、眼前にあるように細身で青白く輝く。


 やがて、二人の背後からカカさまがやって来て、アユムの背中に抱きつく。

 「カカさま。」

 アユムはカカさまの温もりにホッとして、身を委ねる。

 カカさまも夜空を眺めている。

 星の降るような、満天の星空。

 今日のお月さんは、脇役に徹している。


 完

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四季 たんぜべ なた。 @nabedon2022

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