~秋~

 豊作と豊漁のお礼を神々に捧げる為に、猿楽を舞うトトさまとカカさま。

 山野に向かって開かれた神社の能舞台で舞う二人の姿は、紅葉を始めた山野に映えている。


 能楽装束の一つである、白い大口を身に纏うトトさま。

 白一色に紅い留紐が映える巫女姿のカカさま、千早ちはやには流雲に白狐の姿が描かれている。

 そんな夫婦が、舞台の上を所狭しと踊り続け、手にした三番叟さんばそう鈴を鳴らすと、涼やかな音色に合わせ、黄色が主体だった山野の紅葉が徐々にくれないに染まっていく。

 鈴の音に合わせ、鮮やかな紅に変わる山野の風景と舞踊を舞う夫婦の姿に、ため息をつく者、拍手喝采を贈る者、来観者は三々五々に紅葉と演舞を愉しむのだった。


 舞踊が終わり、すっかり汗だくになっているトトさま。

 「トトさま、カカさま、とてもステキな舞いでした。」

 「ありがとう、アユム。」

 アユムの言葉に笑顔で答えるトトさま。

 カカさまも嬉しそうな顔になっている、日頃は隠しているケモミミが顔を出している。


 「トトさま、カカさま。

 どうして二人で踊って鈴を鳴らすと、紅葉が進むんですか?」

 「それはな…。」

 アユムの質問に答えかけたトトさまの唇を人差し指で塞ぐカカさま。

 どうやら、アユムには秘密の事らしい。

 アユム君、納得行かない顔をしますが、カカさまにギュッと抱き寄せられると、何だかウヤムヤになってしまうのでした。


 さて、三人が能舞台の袖口で語り合っているうちに、いよいよ紅葉は赤味を増し、夕日に照らしだされ、あかのグラデーションに染まっています。

 カカさまがあけに染まる紅葉に気付き、トトさまとアユムに風景を眺めるように促す。

 「わぁ~~、とっても綺麗!」

 アユムは手をバタつかせて感動し、トトさまとカカさまは寄り添ってアユムの背中と息子の前に広がる紅葉の赤を眺めるのでした。

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