~夏~
朝の日差しに誘われて、蝉たちがけたたましく鳴き始める。
気温の上昇と相まって、蝉時雨が夏の蒸し暑さを人々に告げ知らせている。
縁側に座り、団扇片手に涼を取っているトトさま。
庭ではアユムが虫網片手に、蝉を探している。
蝉も賢いもので、アユムが近づくと鳴き止み、彼が遠のけば、さかんに鳴き始める。
アユムの傍には、カカさまが立っている。
しばらく頑張ったお陰で、何とか一匹の蝉を捕まえることに成功したアユム。
嬉しそうにカカさまやトトさまに捕まえた蝉を見せてまわるアユム。
そんなアユムの肩に手を置き、寂しそうな眼差しを向けるカカさま。
「アユム、その蝉を放してあげなさい。」
トトさまは、神妙な顔でアユムに促す。
「え~、折角捕まえたのにぃ?」
不機嫌になるアユム。
「いいかい、アユム。
蝉は7年間土の中で生活するんだよ。」
「うん。」
「そして、大人になった蝉は7日間しか生きられないんだ。」
「!!!」
トトさまの言葉にビックリするアユム。
「だから、その蝉には時間が無いんだよ。」
「…」
トトさまの言葉を反芻し理解したアユムは俯いてしまう。
「さあ、アユム。」
「…うん。」
捕まえた蝉を放つアユム。
アユムの所作に満足したのか、カカさまは膝をかがめ、アユムをギュッと抱きしめた。
虫取り網を縁側の端に立て掛け、トトさま、カカさまと一緒に縁側に座り蝉時雨を聞いているアユム。
「トトさま?」
「何だい?」
「蝉はどうして七年間も土の中にいるのに、7日間しか生きられないの?」
「う~ん、それはよく分からないんだ。」
「本当?」
「ああ。」
納得行かないアユムは、トトさまからカカさまに視線を移す。
「カカさま、蝉はどうして七年間も土の中にいるのに、7日間しか生きられないの?」
アユムの質問に困ったような顔をするカカさま。
アユム君、納得行かない顔をしますが、カカさまの顔を見て、そういうものなんだと不承不承納得するのでした。
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