四季

たんぜべ なた。

~春~

 のどかな春の光が縁側に降り注ぎ、辺りには菜の花の甘い香りがふわふわと漂ってくる。

 木陰を見上げれば、我が世の春と言わんばかりに咲き誇る桜が春の光を背に受けて、花びらの一つ一つが透き通るように輝き、それは薄紅の絨毯のようにさえ見える。

 そんな風景に溶け込んでいる縁側に、一人の幼い男の子が足を投げ出して座っている。


 時折り吹き込んでくる風が、一枚また一枚と桜の花びらを男の子の手のひらへ運んでくる。

 運ばれてくる花びらをマジマジと見つめている男の子。

 そんな男の子の所作を知ってか知らずか、一陣の強い風が、桜と男の子の間を駆け抜けた。

 類まれな強風に煽られて、地面に散った花びらも含め、盛大な桜吹雪が巻き起こり、ヒラヒラと舞いながら落ちていく桜の花びら。

 強風では、一瞬目を瞑った男の子も、今は舞い落ちる桜の花びらを愛おしそうに眺めている。


 「どうしたアユム?」

 突然男の声が、背後から聞こえ、声の方へ振り返るアユム。

 「トトさま。」

 アユムの返答を聞いた後、アユムの隣に座る神職衣装のトトさま。

 「トトさま、桜の花はとても綺麗だね。

 でも、桜の花が散るときの方が、もっと綺麗なのは何故?」

 アユムは目をクリクリさせながら、トトさまに質問する。

 「それはね…」

 そう言って、トトさまはアユムに桜の木を見るように促す。

 「人は花の散る姿に、侘しさを感じるとともに、散り際の潔い姿や、華々しく散る姿に敬意を感じるんだよ。」

 「ワビシサ?ケイイ?」

 桜を見ながら首を傾げるアユム。


 そんなアユムの背中から正面に手を回してくる巫女服姿の女性。

 「カカさま!」

 カカさまの方へ振り返るアユムと、微笑を湛え、軽く頷くカカさま。

 カカさまも、アユムに桜の木を見るように促す。

 カカさまに促され、桜の木を再度見るアユム。

 「!!!」

 桜の木の袂には、桜色の絣に茶色の袴を履いたおかっぱ頭の少女が立っている。

 「か…カカさま!」

 改めてカカさまの方へ振り返るアユムと、変わらず微笑を湛え、軽く頷くカカさま。


 アユムの上にゆっくりと手を置くトトさま。

 「人は、桜の散る姿に、淋しい中にも美しさを感じるんだよ。

 今、アユムが見た少女のようにな。」


 もう一度、桜の木へ視線を送るアユム。

 そこに少女は居なかった、ただ、穏やかな風に促され、一枚また一枚と桜の花びらが舞い散るだけだった。

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