第8話 非日常しか歩めない

「ん? サクラさん、それは?」

「あっ、これはセッカさんから貰ったんです」


 サクラの手の中には小さなスノードームが、ちょこんと置かれていた。

 帰り際、セッカから貰った物だ。

 中には小さな雪の花を模した、透明な花弁の花が気泡で彩られていた。


「ふぅーん、そんなの貰ったんだな」

「綺麗ですね」


 ヒマワリとツキカもサクラの手の中を見た。

 スノードームに視線を奪われると、美しくて欲しくなる。


「いいな。そんな物貰ったのか」

「どうして私達にはくれなかったのでしょうか?」


 確かにサクラにだけしかスノードームは渡されていない。

 けれどその理由がイマイチピンと来ない。


「そんなの言われても……あげないよ?」

「別に欲しくはねぇよ。けどよ、なんでサクラにだけなんだ?」


 サクラはスノードームをチラッと見回す。

 けれど特に怪しい部分は見当たらない。


「もしかして仕掛けがあるのかもしれないわね」


 ポプラさんはそう言ってくれた。

 けどサクラには分からない。

 不思議な部分を見つけようとする中、ポプラは思い付いたように、スノードームに触れる。


「サクラさん、少しだけ貸してくれる?」

「は、はい」


 サクラはスノードームを手渡す。

 すると右手の甲が光り出した。

 時計の魔法紋章が現れると、ポプラの魔法が発動される。


 ピカァーン!

 聞いたことある効果音が何処からともなく鳴り出し、ポプラの手だけが変身する。

 魔法少女の格好になると、スノードームを両手で包む。


「うわぁ、手だけ変身した」

「巻き戻しなさい」


 ポプラが唱えると、スノードームの上に時計が浮かび上がる。

 クルクルと逆回転を始めると、スノードームの中の光景が変化する。

 透明な花弁が人の形になると、セッカの姿になった。


「セッカ?」

「なるほどな。このスノードームはメッセージボックスだった訳か」


 ヒマワリの言う通り、メッセージボックスで間違いない。

雪をイメージするとなれば、セッカらしい魔道具だった。

 

『このメッセージは電車の中で見ているんだよね?』

「うん、見てるよ」

『ううっ、寒い。とりあえず簡潔に説明するよ。私は警察に事故のことを伝えに行く。それからこのスノードームを恋人に届ける。それが発見者である私の役目だと思うから』


 それはセッカからの告白だった。

 どうして一緒に電車に乗っていないのか。

 その理由は二つ。アルバイトと警察に事情を伝えるためだ。


 結局あれは事故だった。いや、誰が如何見ても事故だった。

 しかしスノードームのことは、魔法を信じてくれないと分かって貰えない。

 だから伝えないことにしたらしい。それが的確だった。


「そうだね、それがいいよね」

『きっとサクラなら背中を押してくれる。だけど心配しなくてもあれは事故。私達はただの目撃者だから』

「うわぁ、裏がありそうで怖い」

『裏なんて無い』


 完全に先を読まれていた。

 メッセージボックスなのに、通話しているみたいに錯覚する。

 サクラは面を喰らってしまうと、気が付けばスノードームの効果は消え、透明な花に戻っていた。


「まさかこんなことになっちゃうなんてね」

「私達が見つけなかったら、春まであのまま、いや、もっと時間発見されなかったかもしれないわね」


 恐ろしい話だけど、雪山だと珍しくもない。

 積もった雪に遺体を隠されれば、春になるまで分からない。

 しかも場所は雪山。雪崩ともなれば積雪量も多くて、見つからないまま何年も過ぎることもあるだろう。


「これでよかったのかな?」

「よかったと思うしかありません」

「そうだぜ。あたし達が気にしても仕方ないっての。それより、とんだスキー旅行になっちまったな」

「そうだね。今度は、もっと普通に過ごしたいよね」


 それができれば魔法使いになんてなっていない。

 誰もが思うことなのだが、魔法使いに日常流行って来ない。

 何処でも非日常になってしまう。この雪も嘲笑うみたいに、ポロポロと降り始め、電車に揺られるサクラ達を見送った。

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【短編】魔法少女は辞められない〜スノードームの告白〜 水定ゆう @mizusadayou

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