魔女学校の落ちこぼれマギーは魔法が使えない

竹神チエ

雪よ、振りたまえ‼

 魔女学校に通うマギーは13歳。赤毛はパッサパサ、目玉はギョロギョロ、やせっぽちで魅力ゼロの女の子だ。


 それでも魔力たっぷりなら、魔女学校の人気者になったはず。


 でもこのマギー。箒には乗れるようになったけれど、他の魔法はちっとも使えない落ちこぼれだ。


 今日の杖の授業でも一人だけ雪を降らすことができず、気取り屋ダイアナからは、「マギーったら、もしかして間違って普通の木の枝を持ってきたの?」と言われ、クラス中の笑いものになった。


 マギーの杖はもちろん偽物じゃない。魔女学校の校長でもあるマチルダおばさんから入学祝にもらった本物の杖だ。


 初心者用の杖だけれど品質は十分。硬くしなやかで長持ちする高級品だ。悪いのは杖じゃなくマギー。魔力がほとんどないから、せっかくの杖も効果を発揮できないのだ。


 そんなマギーが魔女学校に入学しているのは、校長であるマチルダおばさんのおせっかいのせいだった。


「かわいい姪っ子にはわが校の素晴らしい教育を受けて欲しい」


 そのせいでマギーは周りから、特別入学のずるっ子マギーと呼ばれ、惨めな学校生活を送る羽目に陥っている。こんな学校、早く退学になっちゃいたい! 


 そう願っているマギーだが、実は最近、少しだけ魔法に興味を持ち始めている。

 なぜなら箒に乗って飛ぶ楽しさが、やっとわかるようになったからだ。

 でも箒の乗れるようになった理由が、ちょっと複雑。


「主君よ、さっきから枝を振って何をしとるのだ?」


 寮の部屋。他の子は四人部屋だがであるマギーは特別に一人部屋を使っている。こういうところでも、やっかみポイントをしっかり稼げるマギーなのだが、友だちも同部屋の子もいないのに、話しかけてくる相手がいる理由は……。


「ボーボー! あんたまでこの杖を侮辱する気? 私は今、魔法の練習をしているの、邪魔しないで!」


 ボーボー。それは箒につけた名前だ。


 あらあらマギーちゃん、友だちがいないからって箒に話しかけて会話してるの、大丈夫?なーんて気取り屋ダイアナに言われてから、マギーは絶対人前でボーボーと会話しなくなっているのだけれど。


「主君、その枝では魔力を発揮できないはずだ。我に任せろ」


 この箒、本当にしゃべる。

 ただし、声が聞こえるのはマギーだけ。


 箒の送り主であるマチルダおばさんですら、「マギー、想像力が豊かなのは結構なことですよ。でも人間のお友だちも作りましょうね」と言ったほどで、この声はになったマギーにしか届かない不思議な声なのだ。


 ついでに付け加えると、マギーが乗れる箒はボーボーだけ。他の箒ではいくら念じても、ちっとも浮遊しない。ただの箒と化してしまう。


 さて。マギーがさっきから枝——失礼ね、だから杖だってば!——を振り回しているのは、自主練のため。今度の授業では絶対に雪を降らして見せると、がんばっているのだ。


「えいっ、やあっ、とうっ!! 雪よ、降りたまえっ。ドカ雪、ボタン雪、みぞれ雪っ。パウダースノーに猛吹雪っ!! えいっ、やあっ、とうっ!!」


 唱えるたびに足を踏み出して気合十分、集中たっぷりなのだが、杖の先っぽからは雪の結晶一粒すら落ちてこない。うんともすんとも。本当にただの枝みたいだ。


「どうしてわたしってこうなのっ。これじゃあ落第しちゃうっ」


 頭を抱えるマギー。いっそ退学になるなら本望だ。でもあのマチルダおばさんの調子では、落第し続け、卒業できるまで永遠に魔女学校に縛り付けられそう。


「だからな主君よ。我に任せろ!」


 マギーが泣きべそをかきながら、えいえいと杖を振り回していると、箒のボーボーが一本足(?)の柄で、ぴょんぴょん跳ねて近づいてきた。


「主君、見ておれっ」


 ぼふんっ。


 白い煙が出現し、箒のボーボーがいなくなる。マギーが「エッ⁉」と驚いていると床から声が聞こえてきた。


「主君、こっちだ、下を見ろ。我は箒だけでなく杖にもなれるのだ。我を使ってみよ。必ずや雪を降らして見せようぞ!」


 わわわっ。マギーは腰を抜かしてしまった。

 箒が変身した、いや、杖がしゃべってる……いや何かもうどうでもいいっ。


 マギーは杖を拾い上げると、ひゅんっと一振り。


「雪よ、降れっ!!」


 ドサッ。

 マギーの頭の上に、雪のかたまりが落ちてきた。

 プルプルッと赤毛の髪を振るうマギー。


「だめだめ、もっと優雅に降らせたいの。雪よ、降れっ!!」

「了解だ、主君っ!!」


 ふわふわー、ふわふわー。

 羽根のような綿雪がゆっくり舞い降りてくる。


「うーん、良い感じだけど、もっと『雪』って感じにしたいな」

「がってんだ、主君っ!!」


 こうして二人の雪降らせ特訓が続く。


 マギーが納得する雪の降り方になる頃には、部屋には雪が降り積もり、凍えるような寒さになっていた。


 マギーは温かくする呪文を唱えてみたけれど、ボーボーは「今日の魔力は使い果たしてしまったぞ」と言って睡眠モード。動かなくなってしまった。


 マギーは、杖のボーボーをクッションの上に置くと、そっと部屋を出る。そうして用務員さんを見つけると声をかけた。


「シャベルを借りられますか? 雪かきしたくって」


 マギーの部屋の窓から外へ向かって、雪がどんどん投げ捨てられていく。


 月明りの聖なる夜の出来事。


 そんな珍妙な光景を見て微笑んだのは、空飛ぶトナカイとそりに乗るおじいさんだけだったのは、ちょっと幸いだったかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女学校の落ちこぼれマギーは魔法が使えない 竹神チエ @chokorabonbon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画