刀剣と幼馴染〜王都に行った幼馴染と再開する為に刀剣術を極めたらいつの間にかめちゃくちゃ強くなってました〜

ダクテュロス

第1話 幼馴染と私の差

「シトラ〜!今日はついに魔力測定の日だよ〜!起きて〜!!」


木造のボロ小屋の前で一人の少女——名をレリアと言う——が幼馴染の名前を呼ぶ。


暫くした後、ボロ小屋から少女が出てくる。


「んぅ……朝からうるさい。どうせ村から出ないんだからどうでも良いでしょ。」


如何にも気だるそうに返事をし、眠たそうにレリアを見つめる。


「どうでも良くなんかないよ!もしかしたら宮廷魔術師になっちゃうかもよ!?」


「そんなの有り得ないから。それに教会の人が来るのは昼からでしょ?今何時だと思ってるの……。」


興奮した様子のレリアに対し、シトラはこんな朝早くから……と迷惑そうに返答する。


「ん〜大体六時ぐらい?それより!今のうちに宮廷魔術師になったら何するか考えないと!」


「……レリアはそれよりどうやったら大人の奴等に認められるか考えたら?まだ魔法の一つも使えないんだから。」


「うぐっ……。」


レリアが反論出来なくなったタイミングで、シトラはボロ小屋の中に戻る。


しかし、これは日常茶飯事であるからか、レリアはそれに気にした様子も無く「明日いつもの場所で待ってるからね〜!」と告げて自分の家——そうは言っても、ガラクタを集めただけの物だが——に戻った。




「シトラ〜!遅いよ!あと三十分したら教会の人が来ちゃうよ!!」


「三十分前なら早い方でしょ……。」


興奮が冷めやらない様子のレリアがシトラにぐいっと近寄ってアピールする。


「は〜楽しみだなぁ!もしかしたら魔力が1000以上あるなんて言われちゃったりして……!」


「……未だ魔法の一つも使えないのに。」


「お城で暮らすことになったら〜ふかふかのベッドで寝て〜美味しいご飯沢山食べて〜」


「……聞いてない。」


シトラの小言も聞こえない程上の空と言った様子のレリアにシトラは呆れ返る。



「……メイドさんと仲良くなって〜ふかふかのベッドで寝て〜……はっ!そろそろ教会の人来る!?」


「はぁ……レリアが話し始めて二十分ぐらい経ったよ。そろそろ来るんじゃない?」


「ほんと!?早く行かなきゃ!!先行ってるね!!」


「あっ!ちょっと!!待ちなさいよ!!」


忙しないレリアにシトラは振り回される。しかし、その様子はどこか楽しげだった。




村の広場に行くと、ちょっとした人集りが見えた。その中心には黒くて長い丈の服を着た男が居た。


レリアとシトラは不自然に空いたその男の前の空間に入り、時間を待つ。


「……さて、魔力測定を希望しているのは君達二人だけかな?」


「はい!私はレリアって言います!こっちはシトラです!!」


「……私がシトラです。よろしくお願いします。」


「レリアちゃんにシトラちゃんね。元気なのは良い事だ。私は教会から来た神父だよ。それじゃ、早速始めるね。」


男はそう言うと袋の中から白い球を取り出した。


「この球に触れると数字が出てくる仕組みになっているんだ。100〜500ぐらいまでが普通。501〜1000までが魔法使いになる目安。1001〜5000までが魔術師になる目安。それ以上は宮廷魔術師レベルだよ。」


「さて、それじゃあ……そっちの、シトラちゃんからやってみようか。」


「……はい。触れるだけで良いんですか?」


「あぁ。それだけで大丈夫だよ。やってごらん。」


シトラは少し緊張した様子で、おずおずと白い球に手を伸ばす。


手を近づける度に白い球は淡く輝き、周りからは感嘆の声がする。


そしてシトラが手を白い球に触れたとき、球は強く白銀色に光り輝いた。


「こ、これは……!」


神父が思わず声を漏らす。


強い光が収まったあと、球には「1000000」と表示されていた。


「な、なんてことだ……信じられない。魔力量が百万だなんて……七代魔道士……いや、それ以上の……。」


「えっと……あの……」


「凄いよシトラ!!百万ってことは!ええと……ゼロが六つだから……とにかくすごいよ!!」


困惑するシトラに対し、レリアは心からの賛辞を送る。


周りからも拍手と歓声が巻き起こる。


「今まで邪険に扱ってきたくせに……」とシトラは心の中で悪態をつきながら、居心地の悪い時間を過ごしていた。


「……おっと、いや、すまない。レリアちゃんも魔力測定をするんだったね。」


「はい!私もあれぐらいぴかぴか〜ってさせます!!」


「ふふっ、そうなると良いね。じゃあこの球に触れてごらん。」


「はい!!!」


レリアはそう元気良く返事をすると、勢い良く白い球に手を伸ばした。


しかし、レリアの手が球に触れても、球はなんの光も発さなかった。


そして、白い球には、はっきりと「0」と表示されていた。


「えっ……ゼ……ロ?」


レリアは目を見開いて白い球を見つめている。


「も、もう一度やってみようか。もしかしたら何かがおかしくなってるのかもしれない。」


レリアはその声を聞きもう一度、今度はゆっくりと白い球に手を伸ばす。


どれだけ近づいても、球は何の光も発さない。


そして、手が触れてもそれは同じだった。


再び白い球には「0」と表示されている。


「……レリアちゃん。申し訳ないけど……君には魔力が無いみたいだ。」


「魔力が……無い?」


神父は心底憐れむ様にレリアを見つめる。


「ちょ、ちょっと!そんな訳ないじゃないですか!魔力は誰にでもあるって……!」


シトラが声を荒らげる。


「……たまにあるんだよ。こういう事が。……心配しなくて良い。魔力が無くても出来る仕事はきっとあるさ。」


「そんなの……レ、レリア!こんなの気にしなくて良いから!……レリア?」


シトラがレリアを見ると、レリアは大粒の涙を浮かべていた。


「シトラ……ごめん……わ、私……」


レリアが何かを言う前に、シトラはレリアを抱きしめる。


「レリア……大丈夫。私はレリアの味方だから……。」


シトラが必死にレリアを慰めるのを見ていた神父は、何か決心した様な表情をして、口を開く。


「……その、君達二人には悪いが……シトラちゃん。君には王都に行ってもらう。」


「王都……?な、なんでですか!?」


「魔力量が百万もある者をこんな所で腐らせる訳にはいかないんだ。君には王都の学園に行ってもらう。これは……私一人で何とか出来る問題じゃないんだよ。」


「だ、だったらレリアと一緒に!!」


神父は首を横に振る。


「残念だが、行けるのは君一人だけだ。これも……私には何とか出来る問題じゃないんだよ。……すまない。」


「そ、そんなの嫌です!私はレリアと一緒に……」


「……シトラ、行きなよ。」


いつの間にか泣き止んでいたレリアが、小さくそう呟いた。


「……えっ?」


「……私達は親も居ない。私達以外に信頼出来る人も居ない。だから、どこかで動かないとダメになっちゃう。……シトラ、王都に行ったらきっと良い生活が出来るよ。だから……」


「でも!レリアが居ないと私!」


シトラは感情を顕にする。


「ううん。シトラならやっていけるよ。私は……うん。どうにかするよ。きっと死にはしない。」


「で、でも……!」


「……シトラちゃん。これはもう決定事項なんだ。君がこれに背くなら……手荒な真似をしないといけない。だから……君もレリアちゃんの気持ちに応えてくれないかい?」


二人のやり取りを見ていた神父が、そう口を挟んだ。


「そ、そんなの…………」


「悪いね。大人は卑怯なんだ。」


シトラは黙り込む。そして、長い時間をかけてようやく口を開いた。


「…………行き……ます。私を王都へ連れて行ってください。」


「……その言葉が聞けて嬉しいよ。出発するのは明日の朝にしようか。それまで二人で落ち着いて話すと良い。」


神父はそう言うと、白い球をしまってどこかへ行った。


「……レリア。行こう。」


シトラがレリアに手を伸ばしたが、レリアはそれを無視してひとりでに歩いて行ってしまう。


「ちょっと!レリア……?」


急いで追いかけようとしたタイミングで、今まで黙っていた周囲の大人がシトラを囲む。


「シトラ!凄いじゃないか!お前は俺達の村の一員だ!」


「シトラ!王国に行ったらこの村のことよろしくな!」


「シトラ!貴女ならきっと出来るって信じていたわ!」


「ちょ、ちょっと!私は!レリアの所に!!」


しかし、周りの大人はシトラを解放する気はない。


そんなことをしている間に、シトラはレリアの事を見失ってしまった。


大人達から解放された時には、もう陽は沈んでいた。




シトラはガラクタを集めて作られたレリアの家へと向かった。


レリアは、そこでシトラに背を向けてしゃがみこんでいた。


「……レリア?そ、その……」


「私……ずっと間違えてたんだね。」


レリアはぼそっと呟く。


「……え?」


「私、シトラとずっと一緒に居られると思ってた。贅沢な暮らしじゃなくても、シトラと一緒なら良いと思ってた。でも、それは違った。」


「……」


「私は魔力が無い出来損ない。シトラは宮廷魔術師より凄い魔力。……シトラ、私達は……もう……」


レリアはまた泣き始める。


シトラは何か声をかけようとしたが、何も言葉が浮かばず、ただ無言で手を握るしかなかった。


暫くして、泣き止んだレリアが、ようやくシトラの方を向いて言う。


「……シトラ。私……私……いつか王都に行けたら、シトラに会いに行って良いかな?」


「……うん。良いよ。断る訳ない。」


レリアは黙り込む。泣く訳でもなく、ひたすら何かを考えている。


シトラが何か声を掛けようとした瞬間、レリアは口を開いた。


「……シトラ、私……決めた。絶対にシトラに会いに行く。魔法が出来なくても、絶対に何とかしてみせる。だから……絶対に王都で待ってて。」


「だけど……いや、うん。分かった。絶対に待ってる。だから……絶対に会いに来てね。約束だよ。」


「……うん!約束!」


そうして、二人はお互いが眠るまで話し込んだ。王都に行ったら何がしたいか、将来はどんな事をしたいか、再開したら一緒にやることを約束した。


そして、朝が来た。




朝、突然神父がレリアの家に来て、村の外れまで来る様言った。


そしてそこに行ってみると、神父と二台の馬車ががあった。


「……ここなら村の大人達も来ないだろう。君達はあの人達に良い思い出がないみたいだからね。」


二人を気遣ってか、神父はわざわざ誰も来ない所へと二人を呼び出した。


「さて、レリアちゃん。君は……きっとこの国を出た方が良いと思うんだ。ここから東の方に、魔法じゃなくて刀と呼ばれる武器で戦う国があるんだ。きっと君はそこの方が生きやすい。……勿論、ここに残りたいなら止めないよ。」


「……そこに行ったら強くなれますか?」


レリアは覚悟を決めた様な表情でそう尋ねる。


「あぁ。きっとね。」


「……そこで強くなったら、王都の学園に行けますか?」


「……きっと、行けるよ。」


レリアは少し考えた後、結論を出した。


「……連れて行ってください。その、刀の国に。」


「……分かった。本当に良いんだね?右の馬車が刀の国行きだよ。」


「……シトラ!私、絶対に諦めないから!だから……だから……絶対に待っててね!!」


瞳に涙を浮かべながらレリアはシトラを抱きしめる。


「……うん。待ってる。レリアのこと、絶対に待ってるから。」


抱きしめ合う二人を穏やかな表情で見守った後、神父はシトラに向けて口を開く。


「……さて、シトラちゃん。先に言っておくけど……きっと君はこの先色んな厄介事に巻き込まれる。特に、十六歳を過ぎてから。それまでに自分の身を守れる様に、そして……レリアちゃんを守れる様になっておくべきだ。」


神父は真剣な声色でシトラにそう忠告した。


「……はい。もう覚悟はついています。」


「そうかい。……うん。君は良い眼をしているね。きっと君なら大丈夫だ。……レリアちゃん。君も良い眼をしている。君達なら大丈夫だよ。」


安心した様な顔で、神父はシトラとレリアにそう声をかける。


「それじゃあ、私は次の場所に行かないといけない。改めて言うけど……君達なら大丈夫だ。馬車に乗りなさい。行き先は伝えてあるから、乗って一言声をかければそれだけで進んでくれるよ。」


「……神父さん!ありがとうございました!」


レリアは勢い良くそう言って神父に頭を下げる。


「……私は君に対して何かが出来たようには思えないけど?」


「それでもです!神父さんじゃなかったら……きっと私はもう二度とシトラとは会えなかったと思います!」


「……そうかい。……レリアちゃん。シトラちゃん。君達の旅に心からの幸運を祈るよ。」


「「……ありがとうございます!」」


レリアとシトラは同時に神父に対して感謝の言葉を送った。


そして、レリアとシトラは幾つか言葉を交わした後、それぞれの馬車へと乗った。


レリアとシトラはお互いに涙を浮かべながら、しかし覚悟を決めた顔つきをしていた。


二人の旅はここから始まった。

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