第15話 1973年4.29国士館vs朝高、新宿決戦大抗争事件 その5

右のドア付近で激しく激突しているチョーコー生9名とサカン連合7名の内、サカン大3名がキムジュンキに倒されていた時、左のドアから出てきたチョーコー生9名と13名のサカン連合は、激しいつばぜり合いを行っていた。


「朝鮮人どもは新宿をちょろちょろ歩いてんじゃねえ!」

「チョッパリども死ねや!」


お互い罵詈雑言を浴びせながら、チョーコー側は、殴り蹴り、サカン連合は、持っていた武器を本能の赴くまま振り回す。

最初は、人数に勝るサカン連合13名が大挙して持ってきていた武器の影響もあり、押され気味だった9名のチョーコー生たちだったが、隊列を維持しながら少しずつ相手の勢いを削っていく。

キムジヘイは、制服の中で隠れて見えないが、両前腕に革のベルトを巻いて戦闘に参加していた。

前に書いたように、刃物、武器対策である。

これのお陰で、サカン高の山口がキムジヘイに短刀を抱えながら突撃してきたのを、両腕を胸のあたりでクロスした十字受け(空手の受け技)で見事に致命傷を回避。

受けた右腕をそのまま、山口が短刀を握っている右手へと伸ばし、手首を掴んだ。

掴んだ手の逆の手が、山口の右目めがけて伸びた。

キムジヘイの左フックが、山口の右目に突き刺さる。

ボクシング特有の刺すようなパンチを受けた山口は、顔を大きくのけぞらせる。

一瞬意識が飛んだ山口は、右手に持っていた短刀を離した。

落ちた短刀を、そのまま線路へと蹴り飛ばしたキムジヘイは、一気に山口に襲い掛かる。

右目を大きく腫らした山口は、後方に後ずさりした。

それを見たチョーコー生8名は、これはチャンスとばかりに大声をあげ士気をあげ、キムジヘイと共に、サカン連合13名へ一気呵成に押しこんでいく。


チョーコー生18名とサカン連合20名の最初の激突だけで、電車の窓はほとんど割れ、電車の側面は武器や人同士のぶつかり合いでボコボコに凹んでいた。


ほぼ横一列で固まってチョーコー生9名とぶつかっていたサカン連合13名の隊列は、この激しい戦闘とチョーコー生9名の鬼気迫る戦いぶりに、隊列を維持する事ができず、徐々に崩れていく。

押し込まれつつあったサカン連合13名は、ホームの電車側で戦うのをやめ、石野の「ホーム中央へ転進!」の号令で、押し込まれながらホーム中央へ移動した。


既に、サカン連合13名が持っていた武器はほとんど、チョーコー生に奪われたか壊れたかで、武器を持っているのは数人だけになっていた。

明らかに劣勢を感じていた石野は、残り7名はどうなったかホームを急いで見渡す。

右から挟撃してきたキムジュンキ率いる9名と対峙していた7名は、既に3人が失神し戦闘不能状態に陥り、残りの4名は明らかな劣勢に怯えはじめチョーコー生が乗っていた電車に逃げ込んでいた。

キムジュンキ達9名は、サカン達から奪った鉄パイプなどを持ちながら、それを追いかける。

自分たちを武器を持って追いかけてくる朝鮮人9名の恐ろしい形相にさらに恐怖を増大させたサカン4名は、そのまま隣の車両へうつる。

それを武器を振り回しながら追いかけるチョーコー生9名。

振り回した鉄パイプなどで電車内の窓は割れ、手すりはひん曲がる。

隣の車両にいた数名の乗客も慌てて逃げ出した。


「あいつら何やってるんだ!大和魂はどうした!チョーセン人相手に逃げ惑いやがって!」

「じゃあ、テメーは電車に轢かれて死ね!」


頭に包帯を巻いた滴り落ちた血で顔が真っ赤のリーケンタが、石野の右側から現れ、飛び蹴りをかます。

リーケンタは、偶々近くにいた看護婦と医者に介抱され応急処置を施してもらっていて何とか復活し、戦線復帰したのだ。


「うわっ!」


蹴りでフッ飛ばされた石野は、何とか踏ん張ろうとするが、逃げていった多くの乗客のゴミなどの落とし物で足が滑り、そのままチョーコー生がのっていた電車の反対側の無人の線路へ落ちていった。

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