第14話 1973年4.29国士館vs朝高、新宿決戦大抗争事件 その4
新宿駅 山手線ホーム
チョーコーの組織力により、綺麗に9人ずつに分散。左右のドアから飛び出したチョーコー生たちは、リーとパクを襲っている20名のサカン連合軍に挟撃という形で突撃した。
サカン連合も、チョーコーの挟撃に動じず、サカン高番長・石野の号令で二手に分かれチョーコー生たちに突っ込んでいく。だが、組織力においてチョーコーとは差があるサカンは綺麗に二手に分かれる事ができず、左からくる9人のチョーコ生には13名、右からきたチョーコー生たち9名には7名が突撃、応戦する形になった。
約40名が狂ったように暴れるその姿に、それを見たホームや電車の中に乗客たちはパニックになった。
悲鳴をあげるOL、逃げるサラリーマンのおっさんたち、逃げようと急いだためにコケてしまう男子学生。
山手線ホームは、完全に阿鼻叫喚の渦へと突入した。
7名のサカン連合には、3名の国士館大空手部に所属する応援団長とその団員たちがいた。
いずれも学内で名を馳せた3人組で、それぞれ名前を草野、原、酒場と言った。
特に応援団長である草野は歌舞伎町でヤクザ3人と喧嘩し、ドスで刺されながらも大立ち回りをした国士魂の体現者の様な男である。
だからなのか、所詮は朝鮮人と見下すかのように、9名のチョーコー生に嵩に懸かるが如く、3人一列、電車側から原、草野、酒場という並びで無防備に突撃してきた。
それに対峙する9名のチョーコー生の中に、キムジュンキはいた。
キムジュンキは、明らかに体格の違う3名をサカン大とにらみ、それに狙いを定めた。
「このジャバラ3匹は俺がやる。お前ら残りの奴らをやれ!」
「わかった!」
キムジュンキの命令に、8名のチョーコー生は呼応する。
(3匹だと!?このチョーセンゴキブリが)
(二度と舐めた口聞けない体にしてやる)
キムジュンキの指示をハッキリ聞いたサカン大3名は激怒。
完全にブチぎれた。
だが、サカン大3名にとって不幸だったのは、キムジュンキの指示を挑発ととらえてしまった事と、ホームに大量の利用客がいて、この乱闘でその大勢の客がパニックを引き起こし、その人ごみで、得意の伝統派空手独特のステップワークが使えなかった事にある。
(客が邪魔で構えられん)
それを見たキムジュンキは、拳道会初段ゆえに、サカン大3名が空手部所属であることを一瞬で見抜いた。
と、同時に、横一列に並んだ3名のサカン大に突っ込んだ。
人ごみの影響で、まともに構えられない状態とはいえ、まさかたった1人でこの3人相手に、自分から仕掛けてくるとは思ってもみなかった草野は狼狽した。
だが、草野たちも百戦錬磨の男たちである、足はガニマタ(前屈立ち)ぎみに、両手をへその辺りに落とし、伝統派空手独特の構えで迎え撃とうとした。
キムジュンキは、様々な格闘技をやっている男と喧嘩してきた経験から、廻し蹴りなどの側面からの攻撃に伝統派空手出身者は弱い事をしっていた。
そこで、突っ込むと同時に、空手の回し打ちとボクシングのフックを組み合わせたキムジュンキ独特の必殺技大振り右フック(自称、クムジカダフック。現在ではロシアンフックと呼ばれる技である)を草野に放った。
草野の構えが一歩遅れたのもあったのか、キムジュンキのクムジカダフックは草野の顎を綺麗に捉え、その衝撃でそのまま仰向けに大きな音を立て倒れこんだ。
倒れた応援団長草野に向かって、原と酒場は振り返りながら叫んだ。
「団長!」
「このチョーセンジンが!」
怒った酒場が、振り返った体を元に戻すと、目の前にキムジュンキ、その姿はそこにはなかった。
(どこだ───)
と、慌てて首を左右に振って探そうとした瞬間、顔の左半分に鈍器で殴られたような重い衝撃がはしった。
酒場の左側面に回り込んだキムジュンキは、酒場の左こめかみに右ストレート(日本拳法で言う直突き)を叩き込んだ。
その衝撃で、酒場は原の位置まで吹っ飛んだ。
原は、倒れそうになる酒場を慌てて抱きとめた。
「お、おい!酒場、起きろ!」
目の前にいるキムジュンキが自分に迫ってくる。だが、自分に倒れこんだ酒場のせいで両腕が塞がっていた原は、キムジュンキの左ハイキックを防ぐことができず、その蹴りは原の右こめかみを完璧に捉えた。
「ぐあっ!」
悲鳴をあげながら、抱きとめていた酒場もろとも電車にぶつかりながら倒れこむ原。
その際、原は電車の窓に後頭部をぶつけ、電車の窓にはヒビが入った。
それも構わず、キムジュンキは、倒れこんだ酒場と原に近づき、原のオールバックが崩れぼさぼさになった髪を掴んで叫ぶ。
「おらぁ!」
叫ぶと同時に原の眉間にチョーパンをかます。
チョーパン、日本人たちからはチョーセンジンパンチと恐れられ。朝鮮語でパッチギとも言う、朝鮮人の得意技頭突きである。
「ぐぇ・・・・・・」
チョーパンを喰らった原は、息も絶え絶えで目も霞み始めた。
だが、キムジュンキは追撃をやめる事はなかった。
もう1発2発とチョーパンを原の眉間に連続していれる。
3発目をいれようとしたキムジュンキの振り上げた頭が止まる。
「・・・・・・」
原は、眉間から血を流して完全に失神していた。
それを確認したキムジュンキは、すぐに態勢をを変え、8対4で殴り合っている仲間の元に向かった。
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