第13話 1973年4.29国士館vs朝高、新宿決戦大抗争事件 その3

新宿駅構内


十条にいる間諜要員のサカン坊から公衆電話でチョーコー生が埼京線で新宿に向かったとの報告を受けたサカン連合軍20名は、足早に埼京線ホームへ向かった。

全員、血走った眼をして、すれ違う群衆の驚いた視線も気にも留めていなかった。



埼京線の電車内で座席に座りながらチョーコー生たちは、各々来る決戦に備えて精神集中していた。

ある者は目を閉じ、あるものは足を広げ腕を組みながら眉間にしわを寄せる。

車内を静寂が包む。

そんな中、キムブントクが静かに言った。


「さっき見たか?」

「ああ、サカンの連中だな」


リーエイシュクは答える。

チョーコー生たちは、遠目で自分たちを監視していたサカン坊2名に気づいていた。


少し間をおいてキムブントクはボソッとこう言った。


「池袋で山手線に乗り換える」

「・・・・・・分かった」


キムブントクの意図を理解したリーエイシュクは、その提案に同意し、下げたか下げてないかという角度で頷いた。



池袋駅 山手線車内


キムブントク達は、サカン連中が埼京線ホーム近くで待機しているだろうことを予測し、池袋駅で山手線に乗り換えた。

山手線新宿駅から降り、そこから埼京線近辺にいるであろうサカン連合軍を強襲しようという作戦だった。

だが、サカン連合軍は、新宿駅で朝鮮人を狩ることにより「天長節」を大々的に祝うという目的の為、池袋駅では仲間たちにチョーコー生への攻撃ではなく、群衆に紛れさせ新宿に向かうチョーコー生を監視するよう命じていた。

そこからの一報で、チョーコー生たちが埼京線から山手線に乗り換えた事を知ったサカン連合軍は、別に用意したプランに変更し、山手線ホームへ向かった。


それに慌てたのは、サカン連合軍を新宿で監視していたチョーコー斥候組であった。

連絡をしようにも、今と違い携帯もスマホもない70年代。

連絡が取りようがなく、チョーコー生斥候2人組は、この後の展開がどうなるのか分からず神に祈るほかなかった・・・・・・。



新宿駅山手線ホーム

「次はしんじゅく~しんじゅく~お出口は───」


チョーコー生20名が乗った山手線の電車が新宿駅に到着した。

その間、車内から窓の外凝視していたチョーコー生たちは、ホームで電車を待っている大量の群衆たちを1人1人確認する。


「いないな」


キムジヘイはつぶやいた。


「埼京線側で待機しているのか?」


パクトクマサも続けて言った。


山手線にもサカン連中がいるかもしれないと思っていたチョーコー生たちはガッカリと同時に少し安堵した。相手は喧嘩最強のサカン坊、こんな群衆の中ではまともに動けないので戦うには面倒な場所でもあったからだ。


電車のドアが開く。

ドアから外に出ようとするその瞬間をサカン連合は待っていた。


「「「チョン高どもしねやあああああ!」」」


電車の前に並んでいたサラリーマン達の背後にスーツを着て偽装して隠れていたサカン連合20名が突然目の前に武器振り上げながら襲い掛かってきた。


「サカンどもだ!」


ドアからホームへ降りようとしていたリーケンタは叫んだ!

サカン20名は、ドアとホームの間で身構えたリーケンタとパクトクマサに襲い掛かった。

サカンたちは、各々チェーン、金属バット、木刀、短刀、鉄パイプで2人に殴りかかり、雨あられと体中殴りつける。

完全に虚を突かれたチョーコー生たちは、反撃しようとするが、ホームにいる群衆と電車のドアの狭さのせいで襲われているリーとパクを援護できずにいた。

サカンもそれを分かって、この瞬間に狙いを定めて襲ってきたのだ。


「左右のドアからそれぞれ分かれて降りろ!サカンを挟み撃ちする!」


キムブントクは叫んだ。


「おう!」


「邪魔だ!どけ!」


チョーコー生18名は、車内の群衆を蹴散らしながら左右それぞれのドアから9名ずつ飛び出した。


「チョンコーどもが出てきたぞ!お前ら行くぞ!」


血ダルマになっているリーケンタとパクトクマサから、自分たちを挟み撃ちしてこようとするチョーコー生たち18名に狙いを変えたサカン連合軍は、サカン高の番長・石野の号令で残り18名に突撃。


ここに、新聞テレビで連日報道され、国会でも取り上げられる事態になった、日本中を震撼させた大抗争事件。

「国士館vs朝高、天長節新宿決戦」

その火ぶたが今切って落とされた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る