第9話 韓国学園の香山三兄弟
夕方 不忍池 周辺
4.29新宿決戦の前に、韓国民団の韓国学園番長香山三兄弟とチョーコーのリーエイシュクとの3対1のタイマン勝負が行われていた。
ちなみに、チョーコーでは日本の学校の様に番長制度は存在せず、全員同列という意味で番長は置かない習わしになっていた。
一方の韓国学園は、朝鮮民主主義人民共和国系列の朝鮮総連が運営し、在日朝鮮人の子息が通う朝鮮学校とは違い、大韓民国系列の韓国民団が運営する学校であり、在日韓国人の子息が通っている学校である。
2006年5月17日、都内の朝鮮総連本部で行われた韓国民団と朝鮮総連の和解。5.17共同声明が行われるまで(後に白紙撤回)、この二つの団体は長年敵対関係にあった。その影響は、韓国学園と朝鮮学校の生徒にも影響を及ぼし、生徒同士険悪な関係が続けていた。
生徒数は、圧倒的に朝鮮学校が多く、韓国学園はそれに比べて少数であった。
人数が多い分不良や喧嘩に強い男の割合もチョーコーの方が多く、喧嘩での対立ではチョーコーに分があった。
しかし、いがみ合っていた韓国学園と朝鮮学校の生徒であったが、団体の上層部同士の対立をよそに、同じ民族であり日本で差別負けず頑張っているマイノリティ同士気が合ったのか、生徒同士つるむ様になった。それは韓国学園とチョーコーの不良同士も同じであった。
このタイマンは、その同盟が組まれる前の話・・・・・・
韓国学園の番格が香山三兄弟は、新宿で名の知れた三兄弟だった。
貿易商をしている父親の影響で裕福な事もあり、三兄弟とも恰幅がいい。
1960年代辺りまでの在日は、職につけず日本人がやらない底辺の仕事を行っている影響で貧しい家庭も多く、チョーコーの生徒も日本人の不良に比べたら背が低い者もそこそこいたのである。
後に、日本で成功する在日朝鮮人が増えたことにより、チョーコーの生徒も非常にガタイがよくなっていく。サカンや帝京、中野電波含め東京の不良を圧倒できたのもガタイの影響もあった。
まさに焼肉パワーである。
また、サッカーやラグビーで鍛え、毎日ソンベ達からのヤキに耐え続ける事で殴られることに対する耐性と体力がついた事によって、日本人不良との喧嘩も全く気後れする事がなくなる。ソンベのヤキに比べれば大したことがないからだ。
話を戻す・・・・・・
その香山三兄弟は、新宿で喧嘩に明け暮れていたが、新宿はチョーコーのナワバリであり、その新宿で香山三兄弟同様に暴れていたのが、チョーコーで金三兄弟とタメを張る190cm120kgの大男リーエイシュクである。この男と戦うために、日本人の不良たちが数十人列をなしたと言われる最強のチョーコー生である小岩のリーエイシュクと香山三兄弟が新宿でぶつかり合うのは自然の摂理だった。
同じ在日だからこそライバル意識ゆえに負けられないという思いが、お互い不忍池でのタイマンへと繋がった。
190cmのリーエイシュクに比べて、体重100kg近くあるが身長がリーより劣る170cm後半の香山三兄弟は、リーの圧力に既に気圧されていた。
百戦錬磨のリーは、香山兄弟のそんな心理状態を既に見抜いていた。
「さぁ、はじめるか!かかってこい。どうせなら3人まとめて相手にしてもいいぞ」
大声で笑いながら挑発するリー。
香山三兄弟はその挑発にこう返した。
「そんな恥ずかしい事できるか。俺から行く」
リーの前に香山三兄弟の長男、香山勝俊が向かった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
お互いメンチを切りあう。
リーと香山、両方格闘技の経験はなく、そのガタイの良さで向かってくる敵を圧倒してきていた。
にらみ合いが長く続いたが、勝負はあっけなくついた。
ドシッ!
人が車にぶつかった時のような音が夕方の不忍池に広がったと同時に、香山勝俊がうつ伏せで倒れた。
「兄貴!」
二人の香山兄弟は叫んだ。
そして香山三兄弟の次男と三男は、衝撃を受けた。
リーの左フック気味のストレートパンチ一発で兄貴が失神してしまったのだ。
香山長男を一撃で倒したリーは、笑みを浮かべながら残りの二人に近づく。
後ずさりしながら身構える次男の香山大栄と三男の香山康博は、完全にリーの雰囲気に飲まれていた。
この後の決着は言うまでもない。
大暴れするリーの勢いを止められず、残り二人もボコボコにされ、3対1のタイマン勝負は香山三兄弟の完敗に終わった。
うなだれる3人にリーは言った。
「今度、俺の家のキムチ食いにこいよ」
そして、背を向けて手を軽く振りながら去っていった。
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