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学校に着いて教室に入ると、僕の机の周りを龍斗とその取り巻き三人が囲んでいるのが見えた。

「そーたくん、おはようー」

 龍斗は、にやにや笑いながら、指をぽきぽきと鳴らしていた。

「うん、おはよ」

 取り巻きの間を抜けて椅子に座った。できることなら、オラオラして喧嘩の場に持っていきたい所だが、強く我慢した。

「あれ、そーたくん? なーに、縮こまっちゃってんのー? びびってんのー?」

 龍斗の言葉に取り巻きたちは笑いだした。

 頭が弾けるほど、僕の怒りは限界まで来ていたが、こんな所で夢を終わりにするのは絶対にいやだった。

「龍斗、今まですまない」

 取り巻きたちの笑いは急に止まり、龍斗は、はぁ?、と漏らしていた。

「お前、殴ってこないのか」

「もう暴力しない」

 そう言うとすぐに、一発顔面にいいのをもらった。

 龍斗は僕を殴ると、にらみつけながら自分の席に戻っていった。取り巻きたちも龍斗の後をついていった。

 これ、大丈夫かな。一週間もつ気がしない。もう、殴りたくて仕方がない。

 それから今日一日、学校では、龍斗たちから煽られ続け、暴力を我慢し続けて放課後を迎えた。

「想太くん、ケーキ食べにいかない?」

 校門を出た所でさんたがいつの間にか僕の横にいた。

「はぁ? なんでだよ。いやに決まってるじゃん」

 昨日色々話はしたが、それでもこの女をまだ信用はしていない。

「ってかお前食べれるの? こっちのもん」

「もちろんー」

 さんた曰く、人間になる事もできるらしい。まじで意味不明だ。

「私、あそこの糖藝屋に行きたいなー」

 学校から徒歩五分のその場所は、学内ではあまり知られていないが、安くておいしいケーキが食べれる小さなカフェみたいな所だ。

 昔、よく妹と一緒に行った。妹、早江はそこのチーズケーキが大好きで、週末はお母さんからお金をもらってよく食べに行っていた。

「今日だけな。僕もそんなにお金持っているわけじゃないから」

「わー、ありがとうー」

 店内に入って、隅っこのテーブル席に座った。さんたは、わくわくしている様子だった。

「お前は何頼むの?」

「んー、チーズケーキかなー。私、あの滑らかな味、好きなんだよねー」

 心臓がどくんと鳴った。さんたと早江が重なる。

「想太くんもチーズケーキ派?」

「……知るかよ」

 オーダーして、数分後にチーズケーキとチョコケーキがテーブルに運ばれてきた。

「おいしそー」

 さんたは運ばれてきたケーキを一分にも満たない速度で食べ終わった。

「ちゃんと味わえよ。それ一個五百もしているんだから」

「ええー、いいじゃん。だっておいしいんだもん」

「だもん、言うな。気持ち悪い」

 僕の前にいるのがさんたじゃなくて、早江だったらどれほど嬉しいだろうか。いや、絶対に一週間耐え切って妹を生き返させる。そして、二人でまたここに来るんだ。

「そういえば、想太くんは一週間耐えたら、何の願いを叶えるの?」

「教えるかよ」

 さんたと長い時間、この場所にいたくなかったので、僕はチョコケーキをぱっと食べて会計に向かった。

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イブの願事 春本 快楓 @Kaikai-novel

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