第5話 やってやりましたわ!
広間の中央が開かれた空間になっており、わたくしと殿下はその中央で礼を取りました。
しばらくすると楽団の演奏が始まり、わたくしたちは顔を上げファーストダンスを披露いたします。
曲が終わり、再び礼を取ると周囲から温かな拍手が降り注ぎました。
「本日、我が息子レイノルドとアーシュレイ侯爵家息女、サラとの婚約が相成った。二人には既に王族として公務に勤しんでもらっておるが、これよりは尚一層の努力と国民への奉仕を義務とし、我が国を盛り立ててもらいたい」
「陛下、過分なお言葉ありがとうございます。サラと共にこれまで以上に政務に邁進する所存です」
「王太子殿下とともにこれまで以上に励みたく存じます」
「それでは、祝いの宴を始めよう」
陛下の言葉を皮切りに貴族達が動き出しました。殿下は予想通りシャーロット嬢の元へ歩みを進められました。シャーロット嬢の首元には淡水真珠のネックレスが、頭上には小さな宝石がいくつも散りばめられた煌めく髪飾りが輝いております。
殿下達の計画では、二人で二曲続けて踊ることで親密さをアピール。その後、婚約破棄をわたくしに言い渡すというものです。
「サラ、踊っていただけますか?」
その時、わたくしにもダンスの誘いの声がかかりました。目の前には礼服に身を包む、御義兄様の姿が。
「喜んで」
わたくしの差し出した手を受け取ると、広間の中央へと進みます。ダンスが始まりました。御義兄様と踊るのは久しぶりでしたが、まるで羽が生えたように軽々と舞えます。
── 正直、殿下とよりも踊りやすいですわ!
華麗なダンスの合間に、殿下たちの様子を伺います。お互いに見つめ合い、微笑みながら舞っておられます。ふと顔が近付いた際に御義兄様が囁きました。
「もっと笑え、幸せそうに。悪役令嬢になるのではなかったのか?」
余裕の笑みに心臓が高鳴ります。
── そうでした。わたくしの舞台は既に始まっているのです!
わたくしは艶やかに笑みを浮かべると殊更大きく義兄の周りを回ってみせました。周囲の視線を釘付けにするように。高く、軽やかに。
ダンスが終わると、わたくしと御義兄様に大きな拍手が降り注ぎます。
── 今です!
わたくしは高らかな笑い声を上げて宣言いたしました。
「おーっほっほっほ、証拠は掴みましたわよ、レイノルド王太子。御自らのこの行為こそが動かぬ証拠。ここに、わたくしは宣言いたしますわ! あなたとの婚約を破棄することを!」
わたくしの宣言に、一瞬水を打ったように辺りが静まります。
「突然、何を言い出すのだ? それを言うのはこちらの方だ。サラ、そなたのやりようには目に余るものがある! ここに王太子である私がそなたとの婚約破棄を宣言する!」
わたくしは慌てて宣言した殿下に憐れむような視線を向けました。
「何を仰っておられるのですか? 殿下に宣言する権利はございません。婚前契約書をお読みになりまして?」
悪い笑みに見えるよう唇の端を引き上げ、扇を口元に当てて言い放ちます。
「婚前契約書だと?」
すると国王陛下が立ち上がりました。王妃様が燃え上がるような瞳で見据えておられます。
「婚前契約書に則り、サラ=アーシュレイ侯爵令嬢の婚約破棄を受理する。契約によりレイノルドを王宮より追放する。神聖なる契約、違えることはできぬ。レイノルド、婚前契約書には『婚約破棄を言い渡された者はその身分に問わず王宮より追放されるものとする』という文言が書かれていたのだ。婚前契約書の確認を怠ったそなたの落度だ。それに、そなたには情報漏洩の罪もかかっておる」
国王陛下が厳かに言い渡しました。
「お待ちください! 何のことか分かりません!」
「この痴れ者が!」
陛下の一喝に殿下の顔色が青くなりました。
「シャーロット嬢の身を飾る宝飾品、そなたが贈ったものであろう。その宝飾品こそがそなたの罪だ。それらは本日披露され、我が国の貴重な産業となるはずであったもの。知らなかったでは済まされぬ!」
殿下とシャーロット嬢が身を寄せ合い、震え出しました。
「残念だ、レイノルド。今よりそなたの王太子の位を剥奪する」
「お待ち下さいませ、国王陛下! それではこの国はどうなるのです? わたくしたちの子はレイノルドだけなのですよ?」
王妃様が怒りに震えながら国王陛下に訴えます。
「無論、この件を野放しにした我らにも責任はある。よってレイノルドが追放された後、私は退位する。次の王座はもう一人の我が息子に譲るものとする」
「陛下! 何をおっしゃっておられるのです? まさかわたくしの知らぬうちに……!」
「アルベルト=アーシュレイ、前に出よ。そなたの真の姿を見せよ」
「御意に」
御義兄様が進み出ると、髪の毛に手をやり、
「この者の髪と瞳を見れば、我が息子であることを疑う者はいまい。アルベルトは婚外子だ。王妃と婚姻する前に生まれたが、外聞もあろうと前王がアーシュレイ家に養子として下賜されたのだ。アルベルトよ、そなたに王位を譲ろう。サラ嬢とともにこの国を盛り立ててほしい」
「御命承りました。わが命をかけてこの国とサラを守ることを誓います」
その後、レイノルドとシャーロット嬢、そしてマーズロウ男爵も情報漏洩の疑いで衛兵に連行されていきました。
わたくしは王太子妃となるどころか、いきなり王妃になることになりました。ですが、アルベルトが共にいてくれます。
わたくしは、見事悪役令嬢を演じきりポンコツ王太子を追放することができました。
── やりましたわよ、わたくし!
悪役令嬢を演じて魅せます!─ポンコツ王太子とはオサラバしてやりますわ!─ まりんあくあ @marine-aqure
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