回収


 「なんなのよぉーっ、これはっ!」

 翌朝の静けさは、素っ頓狂な叫び声で破られた。

 朝一番に、トモヤは映画研究部の小屋にいた。

 破れた屋根、つぶされたエア・バイクのセット、さらに小屋中にまき散らされた消火器の粉。誰かが来る前に、なんとか片づけるつもりで。

 と思っていたのだが、遅し。

 小屋の入口に部長ハルカが仁王立ち。目の前の光景が信じられぬといった表情で。

 「あ…は…、」トモヤは痣だらけの顔をひきつらせて笑い、とっさに答えた。「いや、なに、これは【はだかの部室】と言ってな、正直者にしかみえないんだが…」

 「なにが、【はだかの部室】よ!」

 ハルカはトモヤを凝視した。

 「ご、ごめんなさい」

 トモヤは頭をさげ、キツ~イ叱責を覚悟しながら、上目づかいでハルカを見る。

 その神妙な顔つきに、ハルカは戦意を喪失して、ふっと息をはく。

 「ったく、【はだかの部室】? っとに、もぉ、あんた、小説家になれるわ」

 「え?」トモヤは顔をあげる。「ああ、」そして自信ありげにニッと笑う。「知ってる」

 ハルカはまっぷたつに割れたヒーロー用のヘルメットを拾い上げ、埃をパンパンとはたくと、手塩にかけて作ったセットの変わり果てた姿に歩みよる。そして、急に名案が浮かんだかのような素早さでトモヤを振り向き、つぶされたセットを指してまくしたてた。

 「ねぇ、このバイクさ、悪の大魔王のパワーにやられちゃったことにしない? この私が演じる超悪役・大魔王さまに!」笑みいっぱいの顔を輝かせて。「そうしよう! うん、そうしよ、絶対!」

 あれ、この笑顔…?

 「あ、そうそう、ねぇ、トモヤ、」ハルカはその勢いのまま、肩にさげていたカバンの中に手を突っ込む。「これ、昨日作ったんだけど、食べない? 私の大好物なの」

 彼女が差し出したのは…。

 桜餅!

 トモヤがハルカを見つめる。

 涙が出そうな感情におそわれる。

 「桜餅が大好物だって?」トモヤは声を出して笑った。「ボクもさ!」



                 了

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メイキング・オブ・さくらもち @a59kik

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