10話 今日もロクな1日にならない予感

「あら、ユウおかえ・・・何があったの?」


 ライラ達を運ぶのに迷っていた俺は、あの後運良く他の冒険者達に会うことで、無事に地上にライラ達を連れ戻すことが出来た。

 そして今、冒険者他ギルドに着いたユウは受付嬢のエレンの元まで来ていた。

 ナルミを引き摺り、ライラを背中におぶり、レキを担ぎ上げる姿で。

 

「簡潔に言うなら、負傷中のこいつら助けた、だ」

「本当に簡潔ね」


 呆れた様子のエレンは、それ以上深く聞かずにライラ達の状態を確認する。

 服装の半分がなくなっているナルミ、スカートから靴までの辺たりが赤黒く変色しているライラ、突き刺されたであろう服の破け方とライラ以上に元の服装がわからなく変色してるであろうレキ。

 長い事受付嬢を勤めてるからこそ3人の状態がよく分かるエレンは、3人共が負傷状態であり、特にナルミとレキに至っては死んでもおかしくない状態と理解できた。

 

 だからこそ理解出来た。

 今の3人は服装こそボロボロだがその体に一切の傷がなくむしろ健康的にすら見えた。

 

「取り敢えず医務室に運びなさい」

「おう」


 ユウは、冒険者ギルドにある医務室までライラ達を運び、3人をベットに眠らせる。

 ユウは近くにあったイスに座りライラ達を暫くの間見ていたが、そんなユウの隣の席にエレンは座り込んだ。

 そして、ライラ達の様子を軽く眺めた後に視線をユウにに向ける。

 その視線は少しユウを咎めるかの様に細められていた。


「貴方“使ったわね“」

「あ〜まぁ使わなけきゃ死んでたからな」

「それは分かってるけど、あまり無茶をしないようにね」


 ユウの体を案じるエレンは、ライラ達に向けて使ったであろう“力“でユウが無茶をしてないか心配だった。

 その“力“には代償が存在し、今までもユウを苦しめていた事をエレンは知っていたからだ。

 

「大丈夫大丈夫。使ったのは少しだしこんなの慣れっこだしな」

「またそんなこと言って。クロが目の前にいたら絶対に怒るわね」

「またまたぁ〜」

「本当にそう思ってる?」

「あ〜〜・・・・」


 怒るな〜あいつなら。

 俺がちょとでもこの“力“を使おうとしたら思いっきり止めてくるし。

 何ならとある理由で長時間使った時に滅茶苦茶怒って一時期監禁までされたんだよな。

 確かにこの“力“の代償はあるけどこんなの俺からしたらあって無いようなものだしな。

 なんならクロに会う前なんか、1日に何回も使ってたりしてたしな。


「クロには内緒にしといてくれ」

「・・・・・別に私からは言わないけど、バレるのも時間の問題よ。貴方の事になるとクロ君凄い敏感なんだから」

「怖くなってきたな」

「諦めなさい。・・・・・・ところで聞かせてくれないかしら、ダンジョンで一体何があったの?」

「そうだな」


 俺は、ダンジョンで起きた事を俺が知る範囲でエレンに伝えた。

 とは言っても、俺が見たのはダンジョンで見た出来事であり、なぜライラ達がモンスター達にやられたのかまでは分からない。

 ライラ達ならあのぐらいのレベルのモンスターなら問題なく対処出来てた筈だけどな。

 近くに俺が倒したモンスターの魔石しか落ちてなかった事からも、大量のモンスターに囲まれて疲弊していたわけでもないはずだ。

 何よりレキの傷は明らかに何かに突き刺された傷なのだが、あの場にいた槍を使っていたゴブリンの槍には血・がついていなかった。


 憶測を交えた話なので、実際に起きた事と全く違う可能性もあるが、不可解ではあるのは確かだ。


「とにかく3人が起きたら詳しい話を聞きましょう」

「そうだな」




 3人がいつ起き上がる分からないので、取り敢えずユウは迷宮で手にした魔石とドロップアイテムの換金をした。

 因みに今ユウの対応をしているのはエレンではない。

 どうやら休憩時間の様で違う受付嬢が対応をしている。


「精算が終わりました。今回の報酬は15000ゴールドになります」


 少ない。

 率直にそう思ってしまうのは、昨日の報酬が200000ゴールドとなかなかに美味しい報酬だった事も関係しているだろう。


 一般人からしたら、1日でそれだけ貰えれば喜ぶのだろうが、命を掛けてダンジョンに潜ってる冒険者からしたら特別高い報酬にはならない。

 駆け出しの冒険者なら十分に高いのかもしれないが、ある程度下の階層に進める冒険者になると、武器防具の消耗、ポーション、食料、道具の消費が激しくなり、それらの補充もしくは強化に報酬の何割かを費やしてしまう。

 それに冒険者が毎日迷宮や依頼を受けているかと言われるとそうではない。

 休息や鍛錬、もしくは怪我の治療などで何日置きに冒険者ギルドに来る者達も珍しくはない。


 俺?

 俺は金がなくなったらだよ。

 俺の魔法とかだったら武器も使わなくていいし、怪我をしたとしても問題ない。

 結果冒険の為にお金をほとんど使わなくていいわけだ。

 まぁ違うことには大金を使うんだけど。


「ユウ様、本日はもう迷宮には行かれないのですか?」

「そうだな。もう一回潜ってもいいがライラ達が起きた時に話を聞きたいからな。一旦安らぎ亭でご飯でも食べてるよ」

「そうですか。それではライラ様達が目を覚ましましたら連絡いたします」

「よろしく頼むよ」


 お金も手に入れた事だし遊びに行くのもよかったが、流石に今日ぐらいはメイリィちゃんに宿代を払わないと本当に追い出されちゃう。

 お腹も空いたし、宿代を払うのと食事にしよう。

 


「ほら、メイリィちゃん宿代」

「おかりなさい、ユウさん。流石に今日は払ってくれましたか」

「当たり前だろ。俺はここが好きなんだ。美味しいご飯、ふかふかのベット、冒険者ギルドと程よい距離感、何よりメイリィちゃんがいるからね」

「ふふ、ありがとうございます。でもそれならいつもちゃんと支払ってくれると嬉しいのですが」

「ははは、手厳しいな」


 朗らかに笑うメイリィの言葉に胸を痛めるが、何も言い返せない。

 昨日もそれが原因で冒険者ギルドに行ったわけだしな。

 今回の報酬で暫く行かなくてもいいが、いかんせん金がないと何処にも行けないのでまた冒険者ギルドでお金を稼ぐ必要がある。

 何より、シャルに頼まれた依頼も調査しないといけないな。


「はぁ〜めんどくさい」


 この依頼が終わったら暫くは休もう。

 そう決意するユウだった。

 そんなユウにメイリィは、思い出したとばかりにユウに話しかける。


「ユウさん聞きましたか。クロ君がそろそろ戻ってくるみたいですよ」

「えっ本当か!?」

 

 くっそミスった!

 クロが帰ってくるなら、暫くの宿代なんて払うんじゃんかった。 

 クロなら色々と払ってくれたのに!


「ユウさん今酷い事考えませんでしたか?」

「えっ、そんな事ないよ。ハッハッハッハ」


 メイリィはユウにジトーとした目を向ける。

 勘が鋭い。


「そんな事よりメイリィちゃん、ご飯を頼む」

「・・・・・・分かりました」


 言いたい事がまだあるのかもしれないが、それ以上深くは聞かないでいてくれた。


 それから暫くして、ご飯を作って来てくれたメイリィちゃんは山盛りに詰まれた食事をテーブルに並べてくれた。


「うお〜美味しそう。いただきまーす」

 

 ご飯を食べ始めようとした瞬間、、、


 バタン


「ユウさん!!」


 突如扉から簡易的な服装を着たライラが、その顔に焦燥を浮かべユウの前まで走る。

 相当急いできたのだろう、可愛らしい表情にこれでもかと汗が吹き出している。

 荒い呼吸もそこそにライラは叫ぶ様に話しかける。


「レキくんが!ナルミさんに攫われました!!」


 衝撃な発言を前に、ユウの心に現れたのは焦りでもなく混乱でもない。


(まためんどくさい事になってきた)


 だった。

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