第2話

 煩悩寺 カケル――それがあの子の名前らしい。

 まさか……あんな男の子が住むことになるだなんて……

 おっさんよりマシだけどさ! 大学生の男の子だよッ!?

 彼女連れ込んでえっちなことするんでしょっ! 性欲持て余した男子大学生ってそうなんでしょ!?


「――ふぅ、よし……ここが俺の部屋かぁ」


 違う、私の部屋だよ……いや私のでもないか。

 あらやだ。そんなニッコニコで荷ほどきしちゃって……でもさせない。私の一人ライフ(死んでるけど)は邪魔させない。

 人の前でイチャコラなんてさせないわ。


「あ、そういや人死んでるんだっけ……」


 彼は手を合わせて目を閉じた。

 バカっぽいけど、案外そういうとこしっかりしてんのね。


「よしっ。腹も減ってるし……ふふふっ外食しちゃうぞ~」


 初めての一人暮らしで浮かれてるって感じね。

 可愛い……じゃない。可哀そうだけど、すぐに出て行ってもらわなくっちゃ。

 さぁて、どうやって脅かしてやろうかしら。


「――はぁ美味かった……やっぱ都会はいいなぁ」


 お、帰ってきた。

 買い物してきたのかな? レジ袋持ってる。


「ふふふっ……買っちゃったぁ♪」


 っこのだらしのないにやけ顔……間違いない。こいつ、入居初日にエロ本買ったんだっ!

 そんなんより先にまず買うものあるでしょ!? ベッドとか、カーテンとかさ!


「いやぁ……遂に買ってしまうとは」


 と、彼が取り出したのは……え? あれ何?

 えっ……車のおもちゃ?

 えっあのファミレスのレジ横に置いてる奴?

 えっあれちっちゃい子以外に欲しがる人いるの?


「こういうの、母さん買ってくれなかったからなぁ」


 ……厳しいお母さんだったんだろうね。

 まあ生前ファミレスで見かけたことあるよ、ああいうおもちゃを買ってほしくて泣いてる子。

 でもさ、大学生にもなろうって子が買うの? まだ心は子供なの?


「……ん? なんか寒いな」


 おっと、近づきすぎたかな。

 うん、でもよかった。薄気味悪さを感じてくれる感性は持っててくれて。


「えーと……隙間風は……なるほど、100均でテープを買えばいいのか」


 あ、違った。

 多分この子霊感ゼロだ。

 また出かけてったけど……よし、おどかしてやれ。

 ふん……ふふふ……私も幽霊歴が長いから物を動かすなんてちょちょいのチョイよ♪

 このおもちゃを――キッチンに移動させて――よし。

 ふふふ……出かけてる間に物が移動してたら怖いでしょ~


「――ふぃ~いっぱい買っちゃったな~」


 お、帰ってきた。

 ドキドキしてきた~もう心臓ないけど。

 彼はウッキウキでキッチンに行き――私が頑張って移動させたおもちゃを雑に払いのけた。

 ……え? 待って、そんなあっさり?

 もう少し、こう……疑問に思ってくれてもよくない?


「100均って面白いなぁ……」


 ウソでしょ……私が起こした怪奇現象が100均の商品に負けたの?

 彼は買ってきた『煮卵を作るタッパー』とか『ゆで卵を綺麗に剥けるようになる奴』とか『卵をスライスできる奴』とか……ってどんだけ卵関係の小物買ってるのよ……をウッキウキで出して棚にしまってる。

 いいもん! まだまだ勝負は始まったばっかりだもんね!




 彼が入居してから1週間。

 一緒に過ごしてみてわかったことがある。

 それは――彼がすっっっっっっッごく天然でおバカだってこと。

 いやまあファミレスのおもちゃ買ってきた段階でわかってたけどさ。

 ポルターガイスト起こしたって気づかないし、出かけてる隙にこっそり物を動かしても気づかないし!


 しまいにゃぁ彼が歯磨きしてる後ろに出現してみせたら――普通に挨拶してきたッ!


 おバカッ! 一人暮らしなのに自分以外の人が部屋にいるわけないでしょっ!

 おはようございます、じゃないわよッ! 少しは疑問に思いなさいよッ!


「……あ、幽霊さんおはようございます」


 今日も今日とて彼は私に挨拶する。

 幽霊だってことはわかってるみたいね。

 ……なんでわかってるのにノーリアクションなの……?

 もう少し驚いてよ……写真に撮ってツイッターにでもアップしなさいよ……フェイスブックでもいいからさ……


「……よしっ……頑張るぞ」


 彼はネクタイを締めて髪を整える。

 今日は入学式みたい。

 んまぁ……気合なんか入れちゃって。そうよね、上京して知り合いがいないんだもんね。

 ムカつくけど、今日は何もしないでおいてあげる。せいぜい頑張ることね。

 ……もしかしていきなり友達を連れてくるとかあるかしら。

 一週間しか経ってないのにとっ散らかってるし、片付けてあげますか。


「……はぁ」


 私がポルターガイストお掃除をしていたら彼が帰ってきた。

 ……失敗、しちゃったのね。

 珍しく落ち込んじゃって……そうよね、折角の大学デビューに失敗しちゃったんだもの。

 大丈夫。学生の内はいくらでもチャンスがあるわよ。


「……入学式、明日だった」


 ……私の励まし返せ。

 やっぱこの子おバカだわ。










――――


「――なんか一人暮らし始めてからゆっくり眠れないんだよ。やたら肩がこるし」

『――やっぱその部屋なんかヤバいんじゃね?』

「――朝なんかまぶしくてすぐ目が覚めちゃうんだよ」

『――……お前、カーテン買ったか?』

「――あ、それか……そういやベッドも買ってなかったわ」

『――心配して損したわ』

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2024年12月28日 21:03
2024年12月29日 21:03

幽霊お姉さんの推し活記録 バリー・猫山 @_catman

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