幽霊お姉さんの推し活記録

バリー・猫山

第1話

 私は幽霊だ。

 死因は過労である。


 毎日毎日、朝から晩まで働きづめ。

 残業上等! 休出万歳!

 日々の疲れはエナドリで誤魔化して労働労働!

 終電? あったらいいね。始発で着替えに帰ろうかな。

 そんな生活を続けていたら帰宅と同時に帰らぬ人になった。

 要するに、私は昭和のくたばり損ないに殺されてしまったってこと。おい労基、ちゃんと仕事しろ。


 せっかく借りたこの駅近築浅物件にも殆ど住めてない。だからかな、その未練があるからこうして地縛霊になった。

 ず〜っと休みたいって思ってたけど、別に幽霊になってまでやりたいことじゃなかったんだけどな……。


 でも休みは休み! 何もしないの最高ッ!

 もう私の荷物は片付けられて部屋の中は空っぽだけど……どうせなんもなかったから変わりませ~ん!

 日当たりバツグンな10畳の部屋を独り占めできてサイコー!


 ――ピンポーン!


「――おじゃましまーす!」


 ……来たか。

 ここは賃貸、大家さんはどうにかして人を入れたいよね。事故物件にしちゃってごめんね♪


「すっげぇ! 広いし日当たりめっちゃいい!」

「そうですね~南向きで間取りは10畳ですから」


 入居者は……高校生? あ、春から大学生なのかな。

 もう全身から若さがあふれてる。見てるだけで成仏しちゃいそう。


「おぉ~キッチンもピッカピカ……すっげ……IHかぁ」

「スーパーも近いので自炊もできますよ~」


 ふん! どうせ私は自炊しないおばさんですよ~だ。

 そりゃ、ね。やりたい気持ちはあったけど……そんな時間はなかったし。


「え、トイレもきれいだし……えっお風呂も広い!」

「はい。シャワーヘッドは最新式で――――」


 うんうん。駅チカの築浅、私がろくに暮らさなかったから設備もピカピカ。

 テンション上がるでしょ。


「えっ……で、こんなに綺麗なのにお家賃が」

「はい……管理費込みで月3万円ですね」

「やっす!」


 やっす! ……あ、かぶっちゃった。

 え~私が住んでた時の半分以下じゃん。なんでそんなに安く……あ、私のせいか。


「そうですね……確かに条件もいいですし、お部屋自体もきれいなんですが」


 そう、この部屋は――


 ――――ガタガタっ!


「ん? 地震?」


 残念、ポルターガイストです。

 悪いけど、ここは私のお部屋だから。私が成仏するまでは譲る気ないから。

 不動産屋のお姉さん、ごめんね♪ お顔真っ青だよ? あなた何回か来てるんだからいい加減慣れて欲しいな~


「え、ええと……この物件にはがありまして」

「コクチジコウ?」

「はい……心理的瑕疵と言いまして」

「シンリテキカシ?」

「ええ。実はこの部屋を契約されていた方が亡くなっているんです」

「へぇ……?」


 ……いつ聞いても胸が痛いなぁ……いや痛む胸ないけどさ。

 死んだときの事はあんまり覚えてない。

 いつも通り始発で帰ってきて、クラっと来て、何とか玄関までたどり着いたけど……って感じだったかな。

 すごく眠くなって、目を閉じて……気が付いたらこうなってた。

 少年よ。こんな大人になっちゃダメだぞ?


「まぁいいか。ここにします」


 そうだよね。こんな幽霊がいる物件なんて住みたく……うん?

 今、なんて?


「よ、よろしいんですか?」

「え、あ、はい。コクチジコウ? とシンリテキカシ? ってのがよくわかんなかったすけど、それのおかげで安いんすよね?」

「あ、はい……えっ本当に?」


 ウソでしょ……?

 本当に住む気なの?

 そんな……私の聖域サンクチュアリが……


「あっそっか……他の人に先越されちゃったり」

「それは問題ないかと……」


 ふ、ふん! いいもんね!

 どうせ怖くなって引っ越すことになるんだから。ううん、引っ越させてやるんだから!

 せいぜい敷金礼金を無駄にすることね!










――――


「――俺、ここの部屋に住むことになったわ」

「――ええっ!? 駅徒歩5分で築8年!? しかも家賃3万って……ちょっこれ事故物件じゃね?」

「――……事故物件?」 

「――ほら! このサイトに載ってるよ。304号室」

「――そうなんだ。確かになんかあるって言ってたけど」

「――……まあ気にしてないならいいけどさ」

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