雪の降る季節

はすみらいと

第1話

 雪の中の攻防戦。次々と人は倒れて動くことを止めた。だから、嫌だと言ったのに。

 ちょっとした悪意が込められた雪が次々に、人を打ち付けた。

 雪が血を吸って赤くなった。雪が積もれば、この赤を消しさって。証拠は残らないかもしれない。 



 

 

 雪が降れば当然、雪合戦なんてものは。と誰かが言っていた。

 事実それはどうでも良かった、あの子さえいれば。あの子に当てたらどんな反応をするのだろう。僕はそう考えた。

 子供ばかりが集まってふざけ、雪合戦をしていた。僕やあの子も当然そこにいた。

 あの子は少しだけ、嫌そうな顔をしていた。その真意を僕は一ミリも知らない。

 

 微笑ましい光景。そのはずだった。なのに。どうしてこうなったんだろう。気づいたら凄い勢いで重さを伴った雪が人を傷つけ。血だらけにしていた。


 足に当たって悲鳴を上げた。雪がぶつけられ血が垂れている。

「なんだよ、これ」

 雪の中には石が。そうかこれが。だから痛い。あの子が笑顔で投げ続けている。痛い。打ち所を間違ってしまったら死んでしまう。

 昔、聞いたことがある。雪の化け物の話。彼女を見たのは雪が降る季節だけ。周りの雪が赤く染まっていく。かき氷みたいだとわけもわからない言葉が頭を過る。


 真横を逃げていた誰かが頭に、石を込められた雪が直撃して斃れた。生き残り帰れたとしてもストロベリーソースは口にできないだろう。

 そうだ、あの子は雪が魅せる化け物。死にたくない。手元のカイロがまだ暖かい。彼女めがけ投げつける。溶けてくれると淡い期待をした。


「雪が降る季節は嫌なの、人を殺さないといけなくなってしまうから」

 雪の中で距離がずっと同じ。あの子は口で弧を描いて。そう独りごちた。


 死にたくない。それなのに雪が足を奪っていく。今さら思い出した。


 それすらどうでも良かった。



 頭を硬い何かが直撃して視界がにじんだ。

「痛い、痛い、痛い。死にたくない!」

 たまらない程の痛み。生暖かい赤が垂れている。次当たれば死ぬ。たぶん当たらなくたってこの雪が、僕から体力を奪って降り積もって死ぬ。


「かき氷って食べてみたいなぁ」

 彼女の声が耳元でする。どうせ、夏には。

「た、助けてくれたら。食べさせてあげるよ」

 呆れる程に声が震えた。

「いらない。別にこの赤く染まった雪で我慢するから」

 血液が染みた雪を手に彼女が呟いた。





 

「もうおしまい? 残念」

 あの子は、彼は、雪の上に倒れ血を流している。とても甘いかもしれない。氷と食べてみたらストロベリーとかいう味のかき氷の味がするかもしれない。

 今年最後の食事は血液が染みた雪。たまには別のものが食べてみたい。

 来年は、クリスマスケーキってものが食べてみたい。窓から見てて興味があるの。他にもいろいろ興味がある。憧れるの人間の食べるもの、遊び。でもやっぱり雪の最中に人を、一人ずつ殺すのが大好き。悲鳴が愛おしい。最後の最後まであがくのを見ているのが好き。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪の降る季節 はすみらいと @hasumiwrite

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画