消しゴム

ヤマシタ アキヒロ

消しゴム


消しゴムのかすを払うように

ゴシゴシと過去を消し去って

ふうっーと大きな一息で

どこかへ吹き飛ばしてしまいたい


ちょうどいい言葉が見あたらず

親しさを装って吐いた言葉が

冗談のようには聞こえなくて

相手を本気で怒らせてしまったこと


先輩の立場にこだわるあまり

自分のまちがいを認められず

後輩の抗議の声をねじ伏せて

誤審を押し通してしまったこと


相手の好意に気付いていながら

同性の友達の目を意識して

おとなしい女の子に向かって

憎まれ口を叩いたこと


口下手を克服しようと

心にもないおべんちゃらを並べていたら

どうしたの?今日はあなたらしくないね

とあっさり見透かされていたこと


不機嫌を顔に出してしまい

信頼してくれていた塾の生徒に

「先生もやっぱり怒るんだ……」

とそれ以来距離を置かれてしまったこと


真面目さが正義であると思い込み

融通の利かない自説を曲げずにいたら

君はどうしようもなく頑固だね

と上司に言われてしまったこと


数え上げればキリがない

私の恥ずかしすぎる過去

今では取返しがつかないけれど

それらもすでに私の一部


消しゴムのかすを払うように

ゴシゴシと心のシミを消し去って

ふうっーとどこか遠くへ

吹き飛ばせたらいいのにな


             (了)

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