第4話 チート地味子 VS 伝説ドラゴン VS 伝説の巨人

 北欧辺境地の交易街であるエセリウ厶は、未曾有の窮地に立たされていた。

 突如現れた黒い球体が変化した、巨人である。

 身の丈雲に届き得る巨大な魔物が、年輪のように広がる誇るべき城壁を、まるで薄紙を破くかのように破壊し、市街部へと侵攻を開始していた。


「………………」


 人々は膝を付き頭を垂れ、絶望した。生存本能が逃げる事も忘れ、ただ驚愕し見上げて、心弱き者は這いつくばり、巨人に成すすべ無く破壊されていく街ごと、蹂躙されていくばかりだった。


 そんな巨人が、ピタリと動きを止めた。


 まるで何かの音を聞き逃さないように、山の方角を振り返り耳に手を添え始めた。


 彼の優れた聴覚にこだましたのは、唯一無二の盟友の悲鳴。にわかには信じられぬそれに、自身でも信じられぬほど、彼は瞬時に激怒した。


 街の瓦礫を弾き飛ばし、凶悪な薄笑いを浮かべて、大地を砕きながら山を目指し始めた。


「あ…………」


 ヴァルコイネン・エセリウム首長は、ただ呆然と去っていく巨人の背を、見ているしかできなかった。



◇◇◇



 もう街のすぐ近くにドラゴンは来てる。なんとか追い払わなきゃ!! 異様に叫ぶドラゴンが反転して、こっちを見てる。直後にもう一度叫んで、空が、光った?


「マ、ジかよぉッ……!」


 カサノヴァさんが驚くのも無理は無かった。隕石だ。火の付いた流星が、こっち目掛けて降り注いでくる!?


「ドラゴンの下だ!! そこならヤツも撃ちッ……!!」


 ボッコボコに破壊される地面と城壁をかき分けて、なんとか真下に陣取る。隕石の落下速度は、そんなに速く感じない。むしろ、これなら!!


「こ、のっ、ぉおおお!!」


 落っこちて砕けた1つを蹴り飛ばす。ものすごい速度で突き進んで、ドラゴンも余波で煽れたけど、当たってない。


「どっか行ってよもぉおおおおッッ!!」


 頭真っ白。ヤケになって手当たり次第何でも蹴り飛ばす。向こうも空をぐるぐる回ってる。ホント怖い。こっちこないでよぉおお!! 


「乙女ちゃん!? なんか来た!!?」


「なんかって、なっ……!?」


 ズンズンズンって地面が揺れてる。振り返った時にはもう間近だった。デッカ。ものすごい速度で山みたいなのが、突っ込んで来る!?


「きゃぁああああああああああ、あぁ!!?」


「がっ……!?」


 咄嗟にカサノヴァさんをかばって伏せた。突き飛ばされて瓦礫に突っ込む。ガンガン手当たり次第、壊されてる。


「カサノヴァさん!?」


 動かない。揺さぶっても動いてくれない。嘘。嘘。あ、あぁあ……、よくも。

 上着を脱いで、カサノヴァさんに重ねた。夏恋カレンちゃんみたいに見様見真似で剣を、確か、こう。


 許さない、連れて来なければ。よくも。よくも、絶対に許さないッ!!!


「う、あ、あぁああアアアあああああ!!!」


 自分でも裏返ってるってわかる声のまま、おっきい影に走る。剣なんて握ったことないけど、なんかこう、夏恋カレンちゃんは刃筋を立てるとかどうとか、なにか、もっとなんかない、なにか!?


 飛んでく、おっきいカブ。壊された農場から、長い変な形、まるで大根みたい。


 ………これだ。雷に打たれたみたいに、気づけた。おばあちゃんのお家で手伝った大根収穫。頭としっぽを切り落とすアレ。おばあちゃんは言っていた。


 どんな剣術家や戦国武者よりも、どんなに地味でも大根を切って収穫してきたって。あたしにもその血が流れてるって。私たちだけが積み上げてきた、一片の嘘偽りすら存在し得ない、本当の力だって。


「大根……大根……!」


 呟きが自然に出る。走りながら剣を握り返してみる。いっそ包丁が欲しい。幸い握りは同じくらい。親指をいつもの通り立てて、軽く自然に握り込む。


 怖い。でっかい。でも身体が動く。大根の収穫を覚えてる。これなら切れる。できるッ!!


 たぶん高名な剣術家とか、夏恋カレンちゃんとか文句言うんだろうけど、全部知ったこっちゃない!!! 今できる私の力だもん!!!!


「ダイコぉおおおおぉオオオおおおおおッ!!!」


 目の前に巨人の脚と、その向こうにドラゴンが見える。目を瞑って、思いっきり片手の剣で殴りつける。


 ブワッて地面ごと、なんか飛んでく。もうしっちゃかめっちゃか。ろくに目も開けずに、むちゃくちゃに片手で剣を振り回していた。



◇◇◇



 気がついて目を開けたら、ふらふらで剣を振ってた。ヒザガックガクで心臓バックバク。涙で滲んで前が見えない。剣が指から剥がれない。……こえ?


「あ、あなたは、一体……?」


 誰だろう。ホコリだらけの袖で目を拭って、何かお揃いの青い鎖帷子付けた人たちが、気がつけば見てた。足元にさっきのカブが落ちてる。


「ダ、イコン……?」


「ダ=イコン?」 


 ざわざわとみんなダ=イコン。ダ=イコンって口にしてる。なんか、走って来た山がぽっかり穴空いてる。


 何か大きな物でも吹っ飛んでった後が、山間まで残ってて、ここからでも見えていた黒い丸いのも無くなってる。これ私が……?

 あ。みんな、大声をあげて騒ぎ始めた。


「ダ=イコン!」「ダ=イコン!!」「ダ=イコン!!!」「讃えよ!! 魔球を消し去り、巨人と竜をみごと退けた戦天女、ダ=イコンを生命の限り讃えよぉおおおお!!!」


 大歓声、大喝采。大地が揺れてるみたい。なんかガンガン盾叩いてるし、名前勘違いされてるし、すっごいうるさい。剣が指から剥がれない。


「乙女ちゃん!! 無事か!?」


 カサノヴァさん……。カサノヴァさん!? 生きてた。生きてたんだぁああ!?


「ガザノバざぁああんぅうううッッ!!」


 剥がれないくらい握りしめた剣ごと、カサノヴァさんのモフモフ毛皮に抱きついた。怖かった。めっちゃ怖かった。怖すぎた。


 なんか、すっごいお祭り騒ぎでホコリだらけのオジサンたちに、ダイコン。ダイコンって呼ばれてもみくちゃにされて、すっごく喜ばれた。

 聞けば、この世界にダイコンなんて植物は無いらしい。なんでぇ……?


 ビービー泣いて、苦しそうなカサノヴァさんにお構い無しに、ずっとその日は彼に抱きついていた。




 これが、私の最初の冒険。

 剣の握り方も知らなかった、大冒険の始まり。

 伝説をことごとく通り過ぎていく地味子な私が、蹂躙し、打破し、抗って、抗いられる。

 進化した冒険が、始まった日だった。


 あと、眼鏡で調べたら、レベルとステータスはそろって30も減っていた。しかもみんなダイコン、天女様って呼ぶし、スキル「ダイコン切り」って、なんでぇ……?



────────────────────────────────



 え、えっと。ここまでお読み頂き、ありがとうござい、ます。え〜……よろしければ、カクヨムコン10……で、良いのかな。


 に、今作は参加中の作品で、多く★が集まれば、次回作に検討もしたいので、★での応援! よろしくお願いします! ペコリ。……あっ、く、工宮静子ッ! でしたッ! ……えへへへ、ちゃんと言えた。


この作品の各種設定⏬️

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

レベル999万9999でも減少してくってマジなの!? 〜ゲーム転移? 知識無しモサ髪地味子ちゃんと、でっかい猫〜【短編版】 ヤナギメリア@幻惑のネモネ参戦中🌺 @nyannko221221

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ