第4話 イタ子、暴露する
依頼を終えて帰路につくイタ子とマシロ……それに加え、馬車には依頼主の使用人であるパンナも乗っている。妙にガタガタと揺れる馬車ではあったが、しばらくしたら変な音が聞こえてきて、揺れが収まった。
「あの……イタ子様、私は口下手故に話し相手には向かないと思うのですが……」
「ごめんなさいね、あれは方便です。本当はあなたに伝えたいことがあるから、一緒に来てもらったの」
「伝えたいこと、ですか……?」
「あ~、その前にちょっと待って欲しいっす。御者さん、今から離す内容は聞かない方が身のためっすよ」
マシロは馬車を操縦する御者に忠告を入れた。マシロもイタ子が話そうとしている内容までは知らないが、領主の隠し事なんて本来知らない方が身のためである。マシロもイタ子も、ミカジメ領の住民ではないから、他人事だから人の隠し事を楽しめるだけなのだ。
「ありがとう、マシロ」
「いえいえ~。パンナさん、イタ子様は呼び出した霊の持つ記憶を読み解く事もできるっす。さっきの降霊で、ナンテ様の記憶を見てわかったことがあるみたいっす」
「は、はあ……」
いまいちピンと来ていないパンナを置いて、御者が聞き耳を立てる様子が無いのを確認してから、イタ子は知り得たことを話し始めた。
「結論から言うとパンナさん、あなたはナンテ・コッチャ殿の実の娘です」
「は……はい……?」
「つまりあなたの名前はパンナ・コッチャという事になりますね」
「あ~、そういう感じだったっすか~。まあ聞かない話じゃないっすね~」
急な話で混乱する当人をよそに、マシロはへらへらとしていた。この手の話は割と見てきたから、マシロにとってはよくあるゴシップの一つでしかなかった。
「え? あの……状況が飲み込めないのですが……」
「急な話ですものね。……ちなみに、ご両親の事はどのように認識していますか?」
「え、と……私は孤児だったと。……拾われてコッチャ家のお世話になっていると聞いているので、両親の事は何も知りません」
「そうですか……。畳みかけるように話してしまいますが、あなたのお母様……エンダ・イヤさんはご健在です。帝国内のテスウ領にある牧場……そこに住んでらっしゃるそうです」
「……」
情報を処理するのに必死なパンナの顔は、嫁入り前の女性がしていい顔ではなかった。ほっといたら「小麦……?」とでも言いそうな顔だ。
「お母様は元々、コッチャ家の従者として働いていたみたいですが、ナンテ様と一夜の過ちを犯してしまったみたいですね。それはもう熱い夜を……」
「イタ子様ぁ~、そこは省くべきっすよ。親の情事とか聞いて嬉しい物じゃないっす」
「オホン……それもそうね。ごめんなさい」
「あ、は、はい……」
もはやパンクしかけで、情報を表面しか受け取れていない様子だが……最後に伝えなければならない事がある。
「最後にですが……コッチャ家の屋敷には、宝石箱の他にも価値のある財産が眠っています」
「……?」
「あなたには専用の寝室があるみたいですが、そこに大きな絵画がありますね?」
「……あ、はい。あります」
「そこの裏をご確認ください。小さな窪みの中に、大変価値のある指輪が置いてあります。それは、ナンテ様が表立って渡すわけにはいかなかった、あなたやあなたのお母様に残した遺産です。どうか、有効に使ってください」
「……分かりました」
多分まだよく分かってないだろうな~、とイタ子もマシロも思ったが、時間が経てば情報を整理できるだろうと期待した。話すことは話し終わったので、目的地の魔法陣の場所に着くまでは何も話さなかった。パンナはその間、ずっと俯いて何かを考えていた。
「……着きました。お疲れさまでした」
「こちらこそ、お疲れ様っす~」
「ありがとうございました」
目的地に着き、二人は御者にお礼を言い、荷物を持って馬車から降りた。馬車は折り返し、屋敷に戻ろうとする。遠ざかっていく二人の背中に、パンナは人生で一番大きい声で思いをぶつけた。
「あの! まだ、気持ちの整理はついていないのですが……ありがとうございました! 屋敷に戻って、色々確かめて、考えてみます!」
「ええ、そうしてください!」
「お母様に会える事を願ってるっす!」
「はい! ありがとうございました~!」
見えなくなるまで手を振るパンナを、見えなくなるまで見送った。いい事をした気分に浸ってドヤ顔をするイタ子に、マシロは一つの疑問をぶつける。
「イタ子様、聞きたいことがあるっす」
「何かしら?」
「今回の依頼に、なんであの怪しい木製人形を持って行ったっすか?」
「ああ、その事ね」
ご利益があるからと、商人に押し売りされた木製人形を、イタ子はなぜか持っていくように指示をした。
「その人形、見てみなさい」
「ん~っと……あれ? 壊れてるっすよ、人形」
「でしょうね。その人形は所持者の一つの不幸を打ち消してくれる代物なのよ。そしてその後には壊れてしまうの」
「へ? それじゃあ、これが無かったら何かあったって事っすか?」
「そうね。馬車に乗ってるとき、なんか変なことが起きなかった?」
そういわれて、マシロは両手の人差し指でこめかみをぐりぐりとなぞって記憶を辿った。
「ん~……あ! なんか、馬車が最初はガタガタ揺れてたっすけど、途中で収まったような」
「ええ。恐らくだけど……私の二つ目の能力は表向きには知られていないけど、調べたのかもしれないわね。そういった能力を持つ者がいたのかも。そして、知りすぎた者を暗に処理するために、馬車に細工をしていたのでしょう」
「ひえぇ……まじっすか」
「遺産相続問題なんて、得てして家庭内の闇が露呈するものなのよ。貴族なんて、それはもう醜聞が山ほどある事でしょう。だから用心するに越したことはないと思って持って行ったの」
「はえ~、
マシロは素直にイタ子の事を尊敬したが、もう一つの事を思い出して冷静になった。
「イタ子様、その人形っすけど……イタ子様自身の荷物に入れるように指示したっすよね」
「……したわね」
「その人形は、所持者の不幸のみ取り除くっすよね?」
「…………そうね」
「狙われたのが、あーし個人だったらどうしてたっすか?」
「……人には、どうにも出来ない事もあるのよ」
「……そっすか」
「……怒ってる?」
「キレてないっすよ。今晩のご飯、楽しみにしといてくださいね」
「ね、ねえ! 私はマシロと違って何でも消化できるわけじゃないんだからね!」
「そっすね(笑)」
「ちょっと~!!」
その日の晩は、イタ子が苦手としているキノコの料理のフルコースだったそうな。イタ子は毒キノコの可能性に怯えて何も食べれなかったのは、また別の話である……。
「なんてこっちゃ~!!」
END
霊媒師イタ子は知りすぎた キャプテン・ふっくん @captain_fukku
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