借りたTN改(トナカイ)で走り出す、二十四の夜

ぱぴっぷ

一夜限りのカーニバル

「待ってたぜぇ! この瞬間をなぁー!!」


『シャンシャンシャン』『リンリンリン』……とはとても聞こえない、無駄に排気を出しているような音を寒空に響かせながら、赤い勝負服を身に纏った恰幅の良い男達は『一夜限りのカーニバル』に出発するために、村の中心にある広場に集結していた。


「野郎共、集まったな!? 今日は一年に一度、俺達が伝説になる夜だ!!」


 一人の男がそう叫ぶと、耳を塞ぎたくなる地鳴りのような歓声が上がった。

 

 そして歓声と同時に、選ばれし男達だけが乗る事の許された『TN改ー300』を空吹かしする排気音も村中に響き渡っていた。


「こんな最高な夜にメリッてねぇやつなんていないよなぁ!」


「あたりめぇだろ!!」


「早くやってやろうぜ!!」


 待ち切れずに『早く行かせろ』と言わんばかりの男達の叫び声。

 

「今夜は俺達のカーニバルだ! 世界中の、俺達の走りを待っているガキ共の、枕元にぶら下げている靴下にプレゼントを特攻ブッこむぞ!…… 野郎共、メリクリでいくんでヨロシクぅぅっ!!」


「「「メリクリヨロシクぅーー!」」」


 そして、TN改ー300の爆音を響かせながら、赤い勝負服を身に纏った男達は、真冬の寒空へと走り出した。


「親父! 俺も連れてってくれ!!」


「あぁん? なんだ、サンタロウか…… これは遊びじゃねーんだ! ガキは靴下でもぶら下げてねんねしてな! 引っ込んでろ!」


「俺だってもう大人だ! それにTNの免許だって取れたんだ、なぁ親父、いいだろ!?」


「ふん、まだまだ俺達の走りに付いて来れないヒヨッコが偉そうな口を聞きやがって…… カーニバルを舐めてると不運とダンスしちまうぜ?」


「お、俺はヒヨッコじゃない! 同い年の奴らの中では一番TNを上手く乗りこなせているんだ!」


「はっはっはっ! お子ちゃまは『SK50』でも乗ってそこら辺をグルグル走って遊んでな! おぉっと、時間がない! あばよ、サンタロウ!」


「お、親父ぃっ!! ……あぁ、行っちゃったよ」


 はぁっ…… 十八歳になった今年こそは『二十四の夜』に参加出来ると思ったのに…… チクショウ!!


 何でだよ! 俺はもう十八歳なのに! 他にも同い年の奴らは参加しているのに! 何で俺だけ…… 


 身長が低すぎるせいか? 伸ばせばペダルに足は届くぞ!? 体重が軽いせいでカーブでの体重移動が不安に見えるからか? そこはテクニックでカバーしているだろ!? どうしてだよ……


「サンタロウ、いつまで外にいるの? 寒いから家に帰りましょう?」


「お母さん……」


「大丈夫よ、あなたもいつか立派な赤服になれる日が来るわ」


 慰めなんていらないんだよ!! 俺は…… 俺は…… 



 …………

 …………



『じいちゃん、じいちゃん! またあの話を聞かせてよ!』


『ほっほっほっ、サンタロウはあの話が好きじゃなぁ……』


 …………


 あれは数十年に一度の冷え込みが厳しい二十四日の夜じゃった。

 

 儂達の誇り、赤服に身を包み、この日のために欠かさずメンテナンスをしていたTN改ー300に跨がり颯爽と寒空を駆けていた時の事じゃ。


 その日は雲一つない今にも星が流れ落ちそうな夜で、空を見ながら儂達を待つ子供達のために、アクセル全開で世界中を駆け巡っていたんじゃ。


 儂はその時、日本の上空を『エンジン全開』で走り回り、次々とプレゼントを靴下に『突撃ブッこむ』…… いわゆる『エントツ』をしていたんじゃが、その日はどうも儂のTN改のゴキゲンがナナメだったんじゃ。


『チッ、どうしたってんだ! お前の走りはこんなもんじゃねーだろ? 今夜だけは頼むぜ…… 相棒!』


 『リンリンリン』と高らかに、相棒のゴキゲンを取るために吹かしながら走っていたんじゃが……


『くっ!! ひでぇ風だ! ……だけどこんな風に負ける俺達じゃねーよな! メリッてこうぜ! 相棒…… ぐぁっ!! な、何だ!? ……チッ、しまった!』


 今まで雲一つなかったのに、突然目の前に大きな渦巻く雲が現れて…… 儂と相棒はその渦の中に飲み込まれてしまったんじゃ……


 そしてどれくらい経ったのかは分からなかったが、儂が目を覚ました時、目の前には……


『…………うっ! いててっ…… 俺としたことが不運とダンスしちまったぜ…… はっ? な、何だここは!』


 雲の中に飲み込まれたはずの儂の目の前には、キラキラと輝く豪華な城が現れたんじゃ。


『日本にこんな建物はないはず…… ここはどこなんだ?』


 深夜なのにまるで月明かりか星明かりを纏ったように神々しくライトアップされて、どことなく怪しげな雰囲気のする城、そしてそこには……


『お待ちしておりました、勇敢なる赤を纏いし殿方』


 この世のものとは思えないほどの絶世の美女が立っていて、城の前で儂を出迎えてくれたのじゃ。

 

 ダイヤのような黒髪、豊かさを象徴する神が作ったかのような身体、そして女神のような笑みを浮かべながら……


『いつも勇敢に空を駆け人々に希望を与える赤を纏いし殿方…… さあ、今宵は一年に一度、あなた様が主役の夜です…… わたくしと踊って頂けませんか?』


 夢か幻か、それとも化かされているのか。

 ただ、儂はあまりにも美しい女神に心を奪われて…… 


『ふふふっ、あなた様はダンスがお上手ですのね…… こんな楽しい夜は生まれて初めてですわ』


 その夜は女神様と仕事も忘れて踊り明かしたのじゃ


『楽しい夜でした…… ところであなた様は『ピリオドの向こう側』をご存知ですか?』


『……いや、知らない』


『ふふふっ、そうですか…… わたくしを楽しませてくれたお礼に、わたくしが導いてあげますわ…… そうすれば、あなた様は『伝説の赤服』となるでしょう……』


『伝説の…… 赤服?』



 …………



『そして、儂は女神様の加護を得て『特攻ぶっこみのサンタク』と呼ばれるようになったのじゃ……』


『すげぇー! じいちゃん!!』


『ほっほっほっ』



 …………

 …………



 大好きなじいちゃんから何度も聞いた伝説。

 数十年に一度の大寒波が襲う二十四日の夜、赤服に身を包み空を駆けると現れる雲の中の幻の城。


 そしてその城で『ピリオドの向こう側』を見ると…… じいちゃんのように伝説の赤服になれる。


 小さな頃からずっと夢見ていたんだ、そして今夜は…… 数十年に一度の大寒波が来ている夜なんだ。


 だから今日じゃなきゃダメなんだよ……


 去年亡くなってしまったじいちゃんに俺が伝説の赤服になるところを見せたかったな。


 はぁ…… 次の大寒波はいつになるのか。

 数十年に一度だから、次来る頃には俺はおじさんになっているんじゃないか? そんなになるまでは待てないよ……


 SKー50の馬力…… いや『鹿力』じゃ近所を走り回るくらいしか出来ないよなぁ。

 やっぱりTN改ー300じゃないと日本上空には…… んっ? そういえば……


 じいちゃんの家に、形見のTN改ー300があるじゃないか!

 でも勝手に乗り回したら怒られるかな? でも…… でも……


 よし!! じいちゃんの相棒を『借りよう』!!


 ばあちゃんは俺の家でお母さんと親父の帰りを待っているはずだから、じいちゃんの家には誰もいない…… これはチャンスだ! 


 そして俺はこっそりとじいちゃんの家に忍び込み、じいちゃんの遺影に向かって……


「ごめんじいちゃん、じいちゃんの相棒を借りるよ…… やっぱり俺、じいちゃんみたいな伝説の赤服になりたいんだ! 許してくれるよね? じいちゃん……」


 遺影の置いてある場所の下にある引き出し、その奥にエンジンをかけるための『ベル』があるのは知っている。

 ベルを手に取り真っ直ぐ物置小屋まで向かう。

 そこにシートで覆われているのが…… じいちゃんのTN改ー300だ。


「メンテナンスはしていたから…… 動くよな?」


 亡くなる直前までメンテナンスしたり、始動させていたから大丈夫なはず。


 そして『ベル』をハンドルの中心部分に嵌め込むと『リンリンリン』とベルが鳴った後、いつも聞かせてもらっていた、耳馴染みのあるエンジン音が聞こえてきた。


「おお、これこれ! じいちゃんのTN改ー300の音だ」


 少し高めの排気音、シュルシュルと少し鈴の音にも聞こえるエンジン音…… じいちゃんを思い出して少し涙が出そうになってきた。


 あとは…… これもじいちゃんの形見。

 裏に『特攻のサンタク』『子供の笑顔 咲かせます』と書かれた刺繍がある赤い勝負服も借りて……


「じいちゃん、行って来るよ! 頼んだよ、俺の…… 相棒!!」


 そして俺は…… 盗んではいないが、じいちゃんから借りたTN改ー300に跨がり、胸を踊らせながら夜空へと向かって走り出した。





 …………

 …………




 


 


 どうしてだよぉ…… って、メンテナンスはしていたはずだけど、燃料の確認はしてなかった俺が悪いんだけど。




 快適にTN改ー300で飛ばし、日本上空にたどり着いた俺は、渦巻く大きな雲を探すために走り回ろうと思ったのだが、どうも相棒の調子が悪い。


 何だろう? と思ってふとメーターを見てみると、燃料メーターが『E』に近付いている事に気が付いた俺は、慌てて『ブォンブォンブォン』と吹かしてしまい、あっと思った瞬間、一気にスピードが落ちてしまった。


「あわわわっ! あわわわっ!」


 今にも止まりそうなエンジンで慌てて降下する。

 こういう時は螺旋を描くように降りるのがいいと教習所で習ったけど、実際にやると目が回りそう……


 そして何とか地上にたどり着いたのはいいが、そこで完全にエンジンが停止してしまった。 


「不運とダンスしちまった…… まいったな、財布すら持って来るの忘れたよ……」


 連絡手段もないし、財布があったとしても日本じゃ使えないしな…… 本当に困った。


 エンジンの止まったTN改ー300を押しながらトボトボと歩くしかない。

 どっかで燃料を恵んでもらうしかないな、なんて思いながら寒空の下歩いていると……


「うぅ…… クリスマスのバカヤロー…… ひっく」


 な、何だ? 前から若い女の人が何かを叫びながらフラフラと歩いて来るぞ!?


「何がクリスマスだぁ…… こちとら生まれてからずっと彼氏も出来ないしぃ…… ひっく…… 告白したって『デブは無理』とか言われるしぃ…… あたしはデブじゃない! ポチャッだぁぁ! ……ひっく」


 うわぁ…… 酔っ払いかよ…… 

 二十五日を過ぎると毎年、俺の村でも酔っ払いが毎晩のように騒いだりしているけど…… 日本の酔っ払いは初めて見た。


「サンタさぁん…… プレゼントはいらないからぁ…… ひっく…… あたしにも幸せをちょうだぁぁい…… んんっ? 前からチビっこサンタがバイクを押して歩いて来るぞぉ…… ふひっ!」


 ヤベッ! み、見つかった! うわぁ、絡まれたらめんどくさいなぁ……


「やーい、サンタさんのくせに歩いてるんじゃないよー、ソリにでも乗って…… んんっ? んんんーっ!? ……あっ! このサンタさん、きゃわわっ!!」


 きゃわ…… 何だそれ? 日本で流行っている言葉かな?


「ヤベッ、ショタサンタさん、きゃわわっ! よく見たら顔も良い…… じゅるりっ、ねぇねぇ、君ぃ…… お姉さんと遊ばなぁい?」


 キラキラとした黒髪にちょっと丸みのある顔、クリクリっとした大きめで少し垂れた目に、寒さで少し赤くなったぷっくりとしたほっぺた。


 身長は少し高めで、コートの上からでも分かるムチムチ具合。

 コートの裾からは太い生足が見え隠れしていて、ニーソックスの部分で肉の段差が見える……


 何か全体的に、村にある『女神像』に似ているなぁ…… なんて思っていると


「返事しなさいよぉ! ……寒くて喋れないのかなぁ? ふひっ、お姉さんが温めてあげゆ!」


 ぐわぁぁっ! 酒臭いから抱き着かないでくれぇー!! ……でも温かいな、体温高めなのかな?


「あら、大人しいのね…… つい抱き着いちゃってごめんね? 訴えないで!」


 急に冷静になったな…… 自分のヤバさに気付いたか?


「あたしはクリスっていうの…… こう見えてもハーフなのよ! 北海道と沖縄の! きゃははっ!」


「は、はあ……」


「そこは『日本人同士やないかーい!』っこツッコんでくれないと…… クリスマスイブなのに」


「いや、クリスマスイブは関係ないだろ」


「きゃははっ! ツッコみ出来るじゃーん! よし、君のことを気に入ったわ! お姉さんと飲みに行くわよー!」


 今の話の流れでどうしてそうなるんだよ…… しかも俺、金持ってないよ?


「お姉さんが奢ってあげる! じゃあレッツゴー!」


「ちょ、ちょっと! …………」





 …………





「ふーん…… それでサンタロウくんは日本に来たと…… サンタって本当にいるんだねー」


 半ば無理矢理『イザカヤ』という場所に連れて行かれた俺は、温かい食事や飲み物をもらいながら、今までや今日の出来事をクリスさんに軽く話した。


 何故か隣に座ってきたクリスさんは、酒を飲みながら『うんうん』と頷きながら聞いてくれて、時々『えらいえらい』と、何故か俺の頭をニヤニヤした顔で撫でてきた。


 少し距離が近いように感じるが、何となくばあちゃんと接している時のような雰囲気がして、ついつい自分の事を語ってしまった。


 それでもクリスさんは『ヤキトリ』や『エダマメ』とかいう料理を食べながら、俺の事を肯定するような返事をしてくれて…… 凄く嬉しかった。


「俺はもう大人なんだぁ! いつまでも子供扱いして…… こんな扱いのままじゃ、いつまで経ってもじいちゃんのような、伝説と呼ばれる赤服になんて…… ひっく!」


「あらら…… 間違ってあたしのお酒を飲んじゃったのかしら?」


 お酒ぇ? この甘くて美味しい水みたいな飲み物がぁ? ……あははっ、気分が良くなってきたぞ!


「でもぉ…… サンタロウくんはちょっと大人に見えないかなぁ…… きゃははっ!」


「何だとぉー!? ちょっと女神様みたいに美人だからってぇ…… 言って良い事と悪い事があるんだぞぉー」


「め、女神様ぁ!? 美人!? あ、あたしがぁ!?」


「ああ、他に誰がいるんだよ! 俺の村ではなぁ…… ひっく…… クリスさんみたいなふくよかな女性はモテモテなんだぞぉ……」


「えっ、何? そのパラダイスみたいな村は……」


「ふくよかさは幸福や大きな愛の象徴なんだって…… クリスさんは村の中心にある女神像そっくり…… でもぉ…… 女神様だからって、俺を子供扱いするのは許さぁん…… ひっく!」


 でも、あまりにも貯肉している女性は欲深くて醜いと言われちゃうし難しいところだが…… クリスさんは絶妙な具合のふくよかさなだなぁ…… ムチムチして温かかったし。


「や、やだぁ…… あたし、もしかして口説かれてる!? あぁん! あたしにもやっと春が来たわ! サンタさん、クリスマスプレゼントをありがとう!!」


「だからぁ! 聞いてる? 俺を子供扱いしちゃ……」


「サンタロウくんを子供扱いなんてしてないよ! むしろ白馬の王子様? ふふっ、じゃあ…… 今夜、二人で大人の階段昇っちゃう?」


 お、大人の階段!? そんな階段が日本にはあるのか! さすが八百万の神がいる国だ! 俺の村にはテレビもないのに! ……パソコンはあるけど。


「昇りたい! クリスさん、ぜひ連れてってくれ!」


「あ、あたしも初めてだから上手く出来るか分からないけど…… 昇る練習は一人で毎日のようにしてるよ!」


 階段を昇る練習? そんな過酷な階段なのか…… でも、これも伝説の赤服になるためには必要な試練なのかもしれない!

 その階段を昇り切れば、みんな俺を大人と認めてくれるはずだ!


「俺は今夜、その階段を絶対に昇ってやる! クリスさんも付き合ってくれるんだろ? やっぱり無理と言っても絶対連れてってもらうからな!」


「やだぁ…… 急に男らしくなっちゃって…… あたし今夜サンタロウくんに…… きゃっ! 二人で大人になっちゃう!? きゃははっ!」


 そして……



 えっ? こんな所に大人の階段があるの? でも…… ここって……


 深夜なのにまるで月明かりか星明かりを纏ったように神々しくライトアップされて、どことなく怪しげな雰囲気のする城…… こんな城、日本にはなかったはず…… ここに大人の階段があるって…… えっ? これってじいちゃんが話してくれた『雲の中の城』と似ているような気がするんだけど……


「サンタロウくん、恐くなっちゃった? やっぱりあたしなんかと大人の階段、昇りたくないよね……」


「何を言ってるの? 絶対昇るよ! そして俺は…… 伝説の男になるんだ!」


「きゃっ、サンタロウくんったらヤる気満々…… 階段を昇ったらどうなっちゃうのかなぁ!? ポッ……」


「そんなキツい階段なの?」


「そりゃあユルくはないと思うよ…… きっとキツキツだよ」


 キツキツかぁ…… いや、怖じ気付いちゃダメだ! 覚悟を決めて…… いざ、大人の階段へ!!




 …………

 …………



 あっれれぇー? ……思てたんと違う!! 大人の階段を昇るのに、何でお風呂に!?



 …………



 ちょ、ちょ、ちょっと! クリスさん!? そこは…… はぅっ!!  それは骨付きチキンじゃありません! 骨はないから…… 食べないで!!


 

 …………


 クリスさん、落ち着いて? 

 導こうとしているのは階段というより洞窟ですから!

 あぁー!! ダメだって! キツキツだって! 



 …………


 クリスさん、ダンスがお上手……

 ステージの上でポールダンス……

 あっ……… うっ……




 …………

 …………




「はぁぁ…… あたし達、大人の階段昇っちゃったね…… 幸せ……」


 あぁ…… ある意味昇ったというか、解き放たれたというか…… メリッとクリスさんにマスしちゃった……


「……サンタロウくん、意味分からないよ?」


 ああ、俺も混乱して何を口走っているか分からない…… ただ一つ、俺がクリスさんに向けて言えることは……


「クリスさん、この責任は絶対に取るから……」


「きゃはっ! 出会って見合ってハッケヨイして残った残ったして…… すぐにサンタロウくんにプロポーズされちゃった!」


 ワンナイトでクリスさんにファンファンとカーニバルして特攻ブッこんじゃったから…… 『俺とこれからも一緒にいて』と言うしか、俺には責任が取れない。


「うん、クリスさんのために立派な赤服になって、絶対に幸せにするよ」


「サンタロウくんが一皮むけて男らしくなってる…… あぁん、嬉しい! クリスマス最高ー!」


「あの、クリスさん? 喜んでくれているのは嬉しいんだけど…… その手は何?」


 クリスマスキャンドルはもうすっかり鎮火しているし、どれだけ着けようとしても火は着かないよ…… って、あぅっ!! 


「ねぇ、サンタロウくん…… クリスマスはこれからだよ? ……大丈夫、あたしが頑張って『ピリオドの向こう側』に連れてってあげる!」


 えっ…… あっ…… あぁぁぁーーー!!


 …………

 …………



 ああ、じいちゃん…… これが……


 これがじいちゃんの言っていた『ピリオドの向こう側』…… なんだね……




 そして、俺はまるでふわふわの雲の中にいるような、温かくて柔らかいクリスさんに優しく包まれながら…… 俺達は少し眠ってからクリスマスの朝を迎えた。




 …………

 …………




「クリスさん、しっかり掴まっていてね」


「うん…… 緊張してきたぁ……」


 朝になって城を出た俺達。

 クリスさんにお金を出してもらいTN改ー300に燃料を補給してもらった。


 そして俺達は、クリスさんを俺の両親に紹介するために俺の住む村へと向かう事にした。


 燃料が満タンになって相棒もゴキゲン、これなら二人乗りでも十分帰れそうだ。


「よし、じゃあ行くよ!」


「うん!」


 そしてアクセルを回すとTN改ー300はクリスマスを祝うように軽快に、空高く舞い上がった。


「わぁぁ…… すごーい! 地上があんなに遠くに見えるー!」


「はははっ、落ちないように気を付けてね」


「うん! ぜーったい離さないんだから!」


 赤服を着ているとはいえ、正面から受ける風は冷たい。

 だけど後ろにはクリスさんがいて、ピッタリとくっついているから背中はポカポカ。


 するとTN改ー300に搭載されているスピーカーから……


『やったー! プレゼントだー!』


『わーい! サンタさん、ありがとー』


『えへへっ、パパ、ママ、サンタさんがプレゼントを持って来てくれたよー』


 目を覚まし、枕元に置いてあるプレゼントを見つけ喜ぶ、世界中の子供達の声が聞こえてきた。


「ふふっ、嬉しそうな声……」


 親父達…… 無事プレゼントを届け終わったんだな。

 俺もいつか…… 世界中の子供達に幸せを届けたい。


「サンタロウくんもすぐに立派なサンタさんになれるよ! あたしもサンタロウくんを支えるから…… これからは二人で頑張ろう!」


「ありがとうクリスさん…… でも……」


「んっ?」


「『サンタさん』じゃなくて『赤服』だから! 俺達は『赤服』として誇りを持って『特攻ブッこみ』しているんだ、そこんとこ勘違いしないように!」


「うへぇ、こだわりがすごーい…… でもぉ…… 分かったよ! あ・な・た! きゃはっ! やーん、恥ずかしー!」


「おわわっ! クリスさん、揺らさないでー!!」


 じいちゃん、俺も見つけたよ……『幻の城』と『女神様』。



 こうして俺とクリスさんは出会って一日で惹かれ合い、大人の階段を昇って即結婚。

 そして…… それからは賑やかで幸せな家庭を築くこととなった。





 『クリスマス』



 聖なる日、世界中の子供達が幸せになる日……


 だけど俺達『赤服』にとってクリスマスは……



「よーし! じゃあ一気に飛ばすぜ! みんな、今年もメリクリでいくんで…… ヨロシクぅー!!」


 最高の、一夜限りのカーニバルなんだ。

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借りたTN改(トナカイ)で走り出す、二十四の夜 ぱぴっぷ @papipupepyou

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