第2話

あれから、時は流れて何年目かの春。

桜が満開に咲く頃高校に無事入学ができた。

今日は入学式だが、窮屈な人混みが嫌で抜け出して人気のない校内を教員や人に見つからないように辺りを見ながらもゆっくり歩く。

こうして歩いていると、これからまた学園生活というものが始まるのだと実感する。

中学は少し面倒くさかった。

中学も孤立してた俺の待遇は酷かったのだろう。

特に最後の3年の時は酷かったらしい。

受験期に入ってピリピリしてる中殆ど勉強なんか必要のない俺は適当に過ごしていた。

それが、気に食わなかったのだろう。

最初は悪口から。それがどんどんヒートアップしていきトイレに閉じ込められたり、水をかけられたり。

特に辛いとか思わなかったが、水をかけられた時は散々だった。

体操着まで濡らされていて着替えがなくて困ったのが懐かしい。

それもあっという間に過ぎ去りいじめっ子は、晴れて高校も決まりストレスがなくなったのだろう。

晴れやかな顔で周りに沢山の友人に囲まれながら卒業して行った。

俺自身どうでも良かったが、教員たちがよそよそしい態度でわざわざ遠い高校を勧めてきていた。

俺自身特に行きたいところもなく、ほぼ教員の意思で決められた高校。

後で聞いた教員たちの話。

『あんな、気味悪い子何をするかわからないじゃないですか』

『もし、後で何か問題があったら‥』

という会話が聞こえてきて、どこまでも俺の意思なんて反映されない人生に心が冷めていったのを覚えてる。

どうでもいいけど。

とぼとぼ歩きながら、明日から教室になる場所に入る。教室の窓を一つ開けて窓辺から、外を見るとどうやら入学式が終わったらしい。

風が吹いてピンク色の花びらが教室にも入り込んでくる。

掃除が大変になりそうだ。窓を閉めて教室を出る。

すると、後ろから力強く肩を掴まれる。

まったく後ろの気配に気づかなかった。

ゆっくりと振り返ると、明らかに美形な男子生徒が立っていた。

サラサラの髪に整った顔。

これがいわゆるイケメンというやつだろうか。

「あの、何か‥?」

いつまで経っても手を離してくれないので、声をかけると慌てたように手を離した後にあわあわとしていた。

「俺のこと、覚えてない?」

「?わからない、会ったことあるの?」

こんな綺麗な顔だったら一度会ったら頭の中の隅にくらいにあるだろう。

綺麗な顔といえば、昔に会った女の子くらいだろうか。

そう、思い出していると男子生徒は肩を落とし何やらぶつぶつと言っていた。

「じゃあ、俺もう行くので」

何やら怪しく感じて、めんどくさくなる前に去ろうとすると再び肩を掴まれ、向き直る。

「名前‥名前!名前教えて!」

「‥白翔 栞(はくと しおり)」

「俺は、夕伊 陽由香(ゆうい ひゆか)!」

「‥はぁ」

必死に訴えてくるも、何が何だかわからず首を傾げる他なかった。

そして、どうやら彼は2年生らしく先輩だった。

「すみません、先輩とは知らずタメ口を」

一応失礼がないように頭を軽く下げると、またあわあわとし出した。この人はとても忙しい人だなと見てると、顔を赤くして指で頬をかいていた。

「気にしないで!タメ口でも大丈夫!あと、俺のこと陽由香って呼んでくれても良いから」

「いえ、さすがに先輩にそれは‥「俺が、そうして欲しいんだ」」

何やら先ほどと変わって切れ長な目が細められ声のトーンが下げられて言われ、圧に押されてそうせざるおえない。

「わか、った」

そう言うと陽由香先輩は顔の表情が和らいで笑みを浮かべていた。

その瞬間胸が「ドキ」と脈を立てる。この感覚前にもあったような。

不思議に思ってるうちに、陽由香先輩は用事があるらしく慌ただしく去って行った。

感情豊かで表情も豊かな人だ。

俺と真逆できっとあれが、『普通』なのだろう。

今後関わる機会も早々ないと思うし、気にしないでおこう。

結局なんだったんだのか全くもってわからず、俺も帰ろうとしよう。

歩きながら先ほどのイケメン男子、陽由香先輩について思い出す。

あの笑顔と顔立ち。

あの日の彼女と笑顔も顔立ちも似てたなとふと思うも、首を横に振る。

「‥人違いか」

独り言をポツリと呟き、入学式で賑わう生徒の中を一人歩いていると、何やら人だかりができているところがあった。

そっと人ごみの中から除けば先ほどの陽由香先輩が女子生徒に囲まれていた。

やはり、イケメンというのは何処に行ってもイケメンで人気があるのだろう。

そっと、そこから抜けて校門へと向かう。

校門もそれなりに人混みがあり、両親と入学を祝う人もいれば、友人同士写真を撮る人もいる。

あいにく、そんな両親も友人も俺にはいない。

唯一、今日兄が入学式に来たがっていたが、試験が近いらしく残念がってた。

兄は昔から優しく、唯一の理解者とも言っても良いのだろう。

俺のことを怖がりもおかしいもの扱いもせず接してくれた。

それでも、俺の感情も表情も動かず今日この日まで生きてきたわけだが。

きっと、俺はずっとこのまま一人で生きていくんだろう。

最近はそれでも良いような気がしてきた。

ただ、平和であればそれで。

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幸せな体温 ルイ @5862adr

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