私は完璧な機械

冬野 向日葵

私は完璧な機械だから

 コンコンコン。


「どうぞー」


 カラカラカラ。


「失礼します」


 そう言って入った部屋には、二脚の椅子が向かい合って置かれていた。

 その片方には、若い男性が座っている。


「お座りください」

「ありがとうございます」


 私はもう片方、空いているほうの椅子に腰を掛ける。


 ここまでは練習したとおりだ。

 人生初めての面接試験ということで、礼儀作法をたくさん練習してきたし、想定問答も何度もこなした。

 今の私は完璧だ。まるで、なんでも正確に答える機械のように。


「受験番号と出身校、お名前をお願いします」


 次に来る質問にも、ゆっくりはっきりとした口調で答える。


「受験番号101100番、出薄中学校出身の栄久州真紀です。よろしくお願いします」


 うん、完璧。細やかなイントネーションの上下までばっちりだ。


「栄久州さんですね、わかりました」


 試験官はこなれたように続ける。


「それでは、面接試験を開始します。最初の質問です」


 私は最初の質問の内容を予想する。

 「本校を志願した理由を教えてください」がやはり定番だろうか。

 それとも「本校を卒業後の展望をお願いします」だろうか。


 どちらの質問が来ても、準備はばっちりだ。

 ちゃんと答えを準備してある。

 さぁ、どんな質問が来るだろうか。


「あなたは、本校に入学する資格があると思いますか?」


 その言葉を聞いた瞬間、想定外の質問で頭の中が真っ白になった。


「そ、それは……」


 一瞬、言葉が詰まる。


「当然、あると思います。そのために今、貴校を受験しているのですから」


 なんとか冷静さを取り戻し、返事する。アドリブにしては完璧な返事だろう。


「おや。今一瞬焦りませんでしたか?」


 その言葉に、体がピクっとする。


「完璧な返答ができたとか思っているんじゃないですか?」


 試験官は私の脳内などお見通しのようだ。


「私の返答がお気に召しませんでしたか、すみませんでした」


 対話型AIを想像しながら言葉を紡ぎだし、会話を続ける。

 ここで試験に落ちたら今までの努力がすべて無駄になるのだ。


「…………」


 しかし、教室の静かさに押しつぶされるようにしてその言葉も消えていった。


「君の返事は、完璧だったよ。まるで機械のようにね」


 静寂を切り裂くように、試験官の男がしゃべりだした。


「ありがとうございます。そう言っていただけて幸いです」


 私はAIチャットで学んだ完璧な対応をとる。


「やれ」


 男がぽっと何かをつぶやく。


「どうかしましたか?」


 私の質問に対して、彼は急ににこやかに告げる。


「試験は合格だ。おめでとう」

「ありがとうございます」


 褒められていることは、素直に受け取る。

 それが完璧な対応というものだ。


「先ほど聞いたよね。『あなたは本校に入学する資格があると思うか』って」

「そうですね」


 適切なタイミングで相槌をうつ。私ってば完璧。


「結論から言うと、ないんだ。所詮君は命令通りのことしかできない。まるでロボットのようにね。今の時代は、独創性が重要なんだよ」

「はい、すみません」


「君は完璧な機械を目指しているみたいだからね。入学試験には不合格だが、私の奴隷試験には合格だ」

「ありがとうございます」


「だから、教育をサクッと施させてもらった。意識レベルから改善していくといい」

「教育、感謝します」


「さて、君はもう完璧なロボットだ。これから私の研究の途上に全力を尽くしてくれたまえ」


 当然ですよ。ご主人サマ。

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私は完璧な機械 冬野 向日葵 @himawari-nozomi

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