第4話 権威争い
「ちょっとそこの君、魔王城まで案内してくれない。じゃないと殺すよ」
俺の頬がつつかれる。朦朧とした意識で顔を上げると、ヴィルヘルムとどこか似た雰囲気を醸し出す魔族がいた。その女性の魔族はにっと口角を上げ、俺を弄ぶような目をしている。
「ふうん、どうやら随分ときつそうな顔だね。こんな弱小魔物になんかやられるなんて、だらしないなあ」
そう言って、周囲の森を焼き払う。木の陰で様子を見ていたゴブリンは跡形もなく塵となり宙を舞った。
俺はミカエラにアイコンタクトをとる。今すぐ逃げろ、と。こいつはレベルが違う。ヴィルヘルムと同じくらいの力を持ちながら、それを制御しようとしない。あまつさえ、乱用する。
「スペルク様から離れてください。あなたのような」
違う。俺が伝えたかったのはそうじゃない。ただの傲慢な野郎じゃないか。
ミカエラの頬がはたかれる。あっけなく小柄な体は吹き飛ばされる。
「どうやら君は僧侶のようだ。なのに、状態異常にかかっている」
値踏みするように俺の顔を見つめてくる。ただ、歯を食いしばることしかない。頭がぐわんぐわんと揺れて、うまく働かない。
「そして、ヴィルヘルムの部下のようだ。随分と稀有な役職だね。ちょうどヴィルヘルムを今からぶっ潰しに行くんだけどどう。一緒に来ない」
「生憎、その生意気な野郎は俺の部下でもあるんだ。お前の好き勝手になんかさせねえよ」
後ろからルーデウスの声がする。元人間の伝説の剣豪、彼がいるだけで気が緩んで瞼が閉じていく。
「これはこれは手厳しい。どうしてここを」
「あんなに派手に魔王城の領地を焼き払われて気づかないわけあるか」
謎の魔族の手刀にルーデウスは鞘に納められた刀で応戦する。一日たりとも磨くのを怠ったことのない刀、そして数々の返り血を浴びた刀でもある。ただ、相手の手刀は魔力で特殊な加工が施されており、力勝負ではやや押され気味。
「その実力でその身なり、さてはヴィルヘルム様の姉か。あの乱暴者で前代魔王から見放されたっていう」
ルーデウスは相手の意識を逸らそうと会話を始める。性格的にももちろん謎の魔族はその挑発に乗ってみせる。
「まったく弟は人間という劣った種を部下に徴用しすぎよ。こんなんだから勇者にも負けそうになる」
ルーデウスの刀を握る手が僅かに力む。
「そうよ、私はあの愚弟の姉のフィーネ。憶えておく必要はないは弱者はここで滅びるから」
フィーネが不敵な笑みを浮かべる。
S級パーティの僧侶ですが魔王軍の再興を目指すことになりました @rapurasu1234
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