第3話 空白の玉座
ルーデウスは切れていた。目の前の下等生物がヴィルヘルム様に気に入られ、四天王に任命されたことが許せなかった。長年仕えて、やっと手にした役職だったのに。
別に嫉妬などではない。きっとこいつは悪人なのだ。今に化けの皮を引っぺがしてやる。まあ、とにかく感情が昂っているのだ。
「それでルーデウス、お前がこの館を案内しろ」
ヴィルヘルムは玉座に鎮座しながら、ルーデウスに告げた。魔王城の玉座はいつだって静かだった。
私はスペルクという名の僧侶に一瞥をくれてやる。拷問の後なのもあって、頬がこけているみすぼらしい容貌だ。
「分かりました、ヴィルヘルム様。しかし、なぜ得体の知れないこんな奴を魔王軍の幹部に登用したのでしょうか」
もちろん今魔族の力関係が不安定であることは私も知っている。魔王様はさきの戦いで大幅に魔力を削られることになったし、元四天王も軒並み討伐されている。自分の眷属を増やすことで勢力を拡大しようとするのも分かるが……。
「俺は今にも人類に反転攻勢を行うつもりだ。異論は認めない」
でも、ヴィルヘルム様が衰えていく様子は見たくない。いつだって威厳ある魔王であって欲しい。
俺は魔王城の周りに広がる荒地の掃除を任された。瓦礫が散乱して、クレーターもそこらじゅうにある。
「ちっ、お前ら勇者がここに来なきゃこんなことにはならなかったのにな」
ルーデウスという魔王の側近が事あるごとに愚痴を吐いてくる。新参者の俺のことが気に入らないらしい。
「いやあ、本当にすみません」
俺も思う。これはやり過ぎだ、スペルク。
使用されている魔法の規模が段違いだ。しかも、その後が数えきれないほど。ここでどんな惨劇があったのか、想像しかねる。
「ここまで残留魔力があったら、周辺の魔物が近寄ってきて二次被害が起こる可能性もある」
ルーデウスが溜息交じりに言った。魔族は基本的により多くの魔力を得るように行動する。そのため空気中の魔力の濃度が高くなっているここら一帯に様々な魔物が集まってくる。
そして、もしヴィルヘルムがその魔物に負けるような事態に陥れば……。
「とにかくお前はあっちの方の瓦礫でも撤去してこい」
ルーデウスが乱暴そうに指をさす。
「ねえっ、何で魔王なんかにそそのかされているんですかっ」
俺がひとりになるのを見計らって、ミカエラが不満をぶちまけた。さっきまではずっとしかめっ面だった。
「女神様のもとへ戻ることはできないのか」
ミカエラが息をのむ。
「私がどれだけスペルク様を心配しているのか分からないのですか。しかも、話を逸らして」
ああ、わざわざ俺自身も魔王城から脱出せねばならないのか、と内心溜息をつく。
「分かった。今からここから逃げよう」
俺はすぐに走り出した。道中の魔物はミカエラに討伐してもらう。あと数日すれば逃げられるはずだった。
しかし、突然心臓が締め付けられるような感覚に陥った。平衡感覚が崩れて、視界が歪む。まともに立っていることすらできない。
「ふうん、こんなところに人間だあ。全く、ヴィルヘルムもここまで落ちぶれるとはなあ。しっかりと駆除しとかないと」
謎の言葉を話せる魔物が俺のもとに近づいてくる。
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