第2話 手軽さの王者、ウエストの秘密

「視察って、見てくるだけじゃ意味ないですよね?」


優はやりうどん本店の厨房で、嶋村に尋ねた。彼は相変わらず飄々とした態度でカウンターに腰掛けている。


「当然だ。視察の目的は“見る”ことじゃなく、“感じる”ことだよ。」


「感じる、ですか?」


「そうだ。ウエストがなぜ人気なのか、自分の肌で感じて、頭で整理するんだ。それができなければ、やりうどんを変えるなんて夢のまた夢だ。」


「わかりました!」


優は気合を入れ、店を後にした。嶋村はその様子を見ながら鼻で笑う。


「ま、せいぜい頑張れよ。ヘマすんな。」


その言葉を聞き流し、優は決意を新たにした。「絶対に成果を持ち帰ってみせますから!」


昼時の福岡駅前。駅近くの「うどんウエスト」は一際目立つ看板を掲げ、活気に満ちていた。店の前には数人の行列ができている。


「これが、ウエスト……本当に人気なんだ。」


優は外からガラス越しに店内を覗き込む。カウンター席には一人で食事をするサラリーマン、テーブル席には学生や家族連れ。どの顔も、楽しそうに食事をしている。


「本当に幅広い客層が来てる……やりうどんとは全然違う。」


深呼吸をして心を落ち着けると、優は店の中に入った。


店内に入ると、すぐにカウンター横に掲げられたメニュー看板が目に飛び込んできた。そこには「かき揚げうどん」「かき揚げ丼セット」「肉うどん」「親子丼セット」など、豊富なメニューがずらりと並んでいる。


「すごい……これ全部、うどんとセットにできるんだ。」


優は思わず呟いた。どれも価格が手頃で、選ぶ楽しさがある。ふと隣に並んでいた女性が声をかけてきた。


「初めて?おすすめは“かき揚げうどん”よ。揚げたてが別皿で出てくるから、サクサクのまま楽しめるの。」


「ありがとうございます!それにします!」


彼女に感謝を伝え、優は「かき揚げうどん」を注文した。


カウンターに座り、厨房の様子を見渡す。店員たちはテキパキと動き、無駄のない動きで次々と注文をこなしていく。


「かき揚げ一丁!」「唐揚げ定食入りまーす!」と威勢の良い声が飛び交い、店全体が活気に包まれている。


「すごいな……これが人気店の現場か。」


ほどなくして、優の前に「かき揚げうどん」が運ばれてきた。湯気を立てるうどんと、別皿に盛られた揚げたてのかき揚げ。


「お待たせしました!」


目の前に置かれた料理を見て、優は思わず声を漏らした。「これが……ウエストの人気メニュー……!」


まずはうどんのスープを一口飲む。昆布といりこの優しい出汁が口いっぱいに広がる。


「優しい味だけど、しっかりしてる……何度でも食べたくなる味だ。」


続いて麺をすすり、そして別皿のかき揚げに手を伸ばす。かき揚げは揚げたてでサクサク。噛むと甘みが口の中に広がり、思わず感嘆する。


「揚げたてでサクサク……これをうどんに入れたら、また違う味わいになるんだろうな。」


優はかき揚げの一部をうどんに浸し、出汁を吸わせた状態で食べてみた。


「サクサクもいいけど、出汁を吸ったかき揚げも最高……!」


食事を進めながら、優は店内の様子をじっくりと観察した。カウンター席では一人で食事をするサラリーマン、テーブル席には学生グループや家族連れ。客層は驚くほど幅広い。


「こんなにいろんな人が来るんだ……やっぱり、誰でも楽しめるメニューと手軽さがあるからかな。」


さらに気づいたのは、スタッフの動きの速さだ。客が帰ると同時にテーブルが片付けられ、次の客がすぐに座れるようになっている。


「回転率がすごい……これも人気の理由なんだろうな。」


店を出る前、優は思い切って隣の席にいた年配の男性に話しかけた。


「ここ、すごい人気ですね。いつも来られてるんですか?」


「ああ、週に何度かは寄るよ。このかき揚げが好きでね。サクサクしてるし、別皿で出てくるから、うどんに浸しても楽しめる。」


「なるほど……別皿って、確かに良いですね。」


「それに、手軽に食べられるのもいい。仕事帰りでも、昼休みにでも、ちょっと寄れるのがありがたいんだよ。」


その言葉に、優は頷いた。ウエストが提供する「手軽さと満足感」の強みを肌で感じた瞬間だった。


やりうどん本店に戻ると、嶋村がカウンターで新聞を広げていた。優はその前に立ち、視察の報告を始めた。


「ウエストの魅力は……まず、メニューの多さと手頃な価格です。それに、かき揚げの別皿提供。揚げたてをそのまま楽しめるのがすごく印象的でした。さらに、スタッフの動きが早くて、回転率がすごい。だから、サラリーマンも学生も家族も、どんな客層にも対応できるんです。」


嶋村は新聞を置き、腕を組んで彼女を見上げた。


「ふーん。それで?」


「……え?」


「ウエストがすごいって話はもうわかった。問題は、やりうどんがそれにどう勝つかだろ?」


その一言に、優はハッとした。視察の目的は「強みを知ること」だけでなく、それにどう対抗するかを考えることだった。


「……考えます。どうすれば、やりうどんが勝てるか。」


「そうしろ。視察はまだ始まったばかりだ。次は、資さんうどんだな。」


「はい!次も必ず成果を出してみせます!」


優の胸には新たな決意が灯った。ウエストの強さを目の当たりにしたことで、「やりうどん」を立て直すための課題が少しずつ浮かび上がってきた。そして、それを乗り越えるための挑戦が、今まさに始まったのだ。

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