Y教授からの手紙

沈黙は金?

第1話

 先日、部屋を掃除していたら、Y教授から戴いた書簡が出てきた。結構、沢山出てきた。一つ一つ読んでみると、先生の学生に対する実直さが窺われる姿が思い浮かび、暫くの間、感慨に耽っていた。最後に戴いた書簡は、先生らしさが滲み出ていたので何かこみあげてくるものを僕は感じた。下に、その短い書簡の中身を記すことにした。 

 

 前略、最初のご質問が、原理的な問題を問うていらっしゃったようなので原理論や「資本論」の話が多くなりましたが、私の専門は実証研究の方なので、原理と実証研究(段階論或いは世界資本主義論、現状分析論等)との関連についてお答えした方がよかったのかなとも反省しています。バイアスがかかっていることを知りながら、お答えを続けていました。ただ先日、最後の手紙を戴き、特殊的等価物とは? 一般的な相対的価値形態とは という最後の質問を読んで、H君がおよそ理論的な勉強を、したことがないのではあるまいかとの疑問を抱きました。資本論の第一章 商品 第三節 価値形態または交換価値 B 全体的な・または展開された価値形態 C 一般的な価値形態 以下を読んでいただければ、その意味を「資本論」は明確に規定しています。少なくとも僕はそう思う。解説書ではなく、「資本論」に即して問題を出し、その上で解説書を当たり、その上でなおかつ分からなければ、どこが分からないかを確定して疑問を出すというのが、理解を深めるために必要な手続きのように思います。同時に、岡崎次郎氏、或いは「資本論辞典」の解説をお読みになって、そのうちどれが分からなったのか、それを自分の頭で確定することで理解が進む関係にあります。そのことを忘れないでください。

                              令和二年〇月✕日

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Y教授からの手紙 沈黙は金? @hyay

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