第三章 孤独な作家
紹介した夢物語は、プロ作家も参加する年間最大の応募作品として評判の高いヨムカクコン11に向けて、最近投稿したばかりの掌編小説の冒頭となる。
作風は純文学でありながら、近年人気を集める異世界転生小説に挑戦した異色のものとなっている。いや、違う。これはあくまでも現代ファンタジーなのだ。作品評価は他の読者が決めることだが、僕なりに自信を持っていた。
ところが、コンテストの上位ランキングに目を向けると、異世界小説ばかりが並んでいた。「いつからこんな時代になったんだ?」と、僕はぼやいた。「違う。描くジャンルではなく実力の違いだ!」と、もう一人の自分が囁いてきた。二つの相反する心の声が交錯し、葛藤に苛まれた。
しかし、どれだけ待っても、読者からのハートマークや評価ポイントの星は一向に現れない。さらには、読み終わった証となるおすすめレビューのコメントすら、ひとつももらえなかった。
悔しさが募り、他の作家たちがヨムカクコンに応募している小説を手当たり次第に読み漁った。手に取った作品はどれも素晴らしかった。しかし、その中には光が当たらず、注目されない作品が数多く存在することに気づき、思わず涙がこぼれそうになった。
ネット小説の世界では、創作活動を続けながら、他の執筆者の作品を読んで応援し合う要領の良さが必要だ。不思議な習わしだが、これはヨムカクらんどでも同じであり、その可愛らしいマスコットキャラクターにちなんで「オウムの恩返し」として知られている。
平たく言うと、自分の作風に似ているご近所サークルの輪を広げて仲間のメンバーを増やさなければ、いくら立派な作品を書いても読んでもらえないのだ。
だが、もし作品を読まずに、ハートマークや三ツ星をばらまく不正を行えば、突如としてサイトから追放されるという厳しい運命が待っている。
BANの警告が運営側から届けば、二度とそのサイトに戻ることはできない地獄を味わうことになる。夢と希望を叶えたいという麻薬に苛まれ、過ちを犯す作家が後を絶たないらしい。
これらの命題は、テーゼとアンチテーゼの「二反背律」となり、互いに矛盾しており、簡単には両立しえない。精魂込めて立派な小説を書き上げたとしても、読者数は増えないのだ。おそらくほとんどのヨムカクらんど作家たちが、この難題に悩まされていることが容易に想像できる。
僕と同じように、他の執筆者たちも仕事の合間を縫って創作活動をしているため、世渡り上手にはなれないのだろう。僕には小説好きな友人はいない。だからSNSで自分の作品を宣伝しても、効果は期待できないことを認識している。
ヨムカクらんどの小説サイトに足を踏み入れて以来、本名とはかけ離れた楽しげなペンネームを持つ作家たちを何度も見てきた。ところが、彼らは失意の渦に巻き込まれるように次々と姿を消していった。顔も本名も知らないのに、なぜか心細くなり、寂しさがこみ上げてきた。
僕も例に漏れず、小説の創作活動を続けるべきか、辞めるべきかで八方ふさがりの中で思い悩んだ。このまま、降り積もる雪をも溶かすほど心を温める唯一無二の楽しみを捨て去り、寂しく夢を諦めてしまうのは名残惜しいと強く感じた。
そのとき、心の中に雪が止んだような優しい風が吹き込んだ。続いて、二反背律の難題を解決するための助け船がふと脳裏に浮かんできた。突如として、僕の得意なことが頭をよぎったのだ。
もう陽のあたることはすっかり諦めていたが、あの小説に描いた、蒼穹の下に樹氷が立ち並ぶ桃源郷の神々の仲間たちは、僕を見捨てなかった。
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