5 赤と黄色と青でバランスもいい
翌日の早朝。
布団の中で意識を覚醒させると、胸のあたりに謎の温もりがあった。いつものやつ。
「ふぁあ……ミャウ、おはよ」
『フンスー……フンスァー……』
ミャウが布団の中に潜り込んでるのだ。大体毎日コイツ朝には俺の布団の中に潜り込んでくるんよね。
こいつのこの習慣のせいで俺はシコったあとちゃんと綺麗に身嗜み整えるクセがついている。
ご主人様が起きたというのに未だ爆睡を続けるミャウを布団の中に放置して起床。
今日もいい天気である。絶好の冒険日和だね。
「……あ、そういや銀級試験どうなったんだろ」
机に置いといたアイテムボックスを手に取り、中を漁ってギルドカードを取り出す。
これは冒険者がギルドで登録すると貰えるものだ。身分証明書にもなる。
取り出したカードを見てみれば……おお! 銀色に輝いとるやんけ!!
「やったぜ銀級昇格ッ!!」
『ふみゃぁ!?』
喜びのガッツポーズを虚空に繰り出して叫んでしまう。その声でミャウも起きてしまったようだがまぁええやろ。
よーしよしよし。自動で更新されるのが便利だよなギルドカード。中のメッセージを見てみればギルド本部から昇格しましたって内容の簡素な通知が入ってた。
ギルドカード同士でメッセージとか飛ばせる機能つければいいのに。個人の魔力だとその辺は難しいんかな。
特段イレヴンに関することで見せに来いとか調査するみたいな内容もなかったし。ノックスさんがうまくやってくれたのかもね。
「よっし! そんじゃとりま朝飯作って……今日はイレヴンに色々案内して回るかねー。王都にも慣れてもらいたいしな」
『みゃぁぁぁ……』
布団からもぞもぞ出てきて大あくびをかますミャウをひょいっとつまんで頭の上に置き、自室を後にする。
今日の朝食はシチューです。11人前も12人前も作る手間変わらんのでいつものルーティーンである。
※ ※ ※
その後起きて来たイレヴンと一緒に朝食を作り終えて、寝ぐせ爆発させたリンもシチューの匂いで起きてきて3人で朝食を食べていたところで、それは急に訪れた。
「……おーい! ロックー! いるかー!」
「ロックー!! おはよー!! 大ニュースだよー!!」
玄関がドンドンと強く叩かれたと思ったら聞き慣れた声が響いてきたのである。
あいつら朝早くからうるせぇな! こちとらのんびり朝食中だぞまったくもー!
「客……ですか? マスター、心当たりは?」
「ありすぎる。幼馴染のバカ二人が来たんだわ……ちょっと玄関開けてくる」
「もぐもぐ……ん。カトルと、ティオ。たまにおうちにとまりにくる……ずずずー……」
「シチューは器から飲まないでスプーンで食べろな」
「ん」
テーブルマナーをリンに教えつつ席を立ち玄関へ。
扉を開ければ、やはりそこには幼馴染である見慣れた二人の顔があった。
「朝っぱらから随分うるせーじゃん。どしたの二人とも」
「どーしたもこうしたもねぇよ! さっきギルドに寄ってきたら面白い話が……って誰その人!?」
「え、すっごい美人さん!? どしたのロックこのお姉さん!? リンちゃんだけじゃないの同居してる人って!?」
「フッ……新しい俺の女さ」
「いえマスターの女では絶対にないのですが。……初めまして、お二方。私はイレヴンと申します」
「あむあむ……うまい。はむはふ……」
『みゃあ』
二人をリビングに案内し、部屋の中には俺のほかに4人。と一匹。
随分と騒がしくなっちまったな。一先ずはお互いに自己紹介してもらおう。
「イレヴンさん……か、初めまして、俺カトル! ロックのダチな! 俺の腰にあるのはインテリジェンスソードの『イルゼ』!」
『初めまして、イレヴン。イルゼです』
「私はティオ! 同じ孤児院出身の腐れ縁! ……で、イレヴンさんはロックとどういう関係?」
「これはご丁寧に。私とマスターの関係は……そうですね、説明しますと……」
二人の分のコーヒーも入れつつ、それぞれが自己紹介するのをリンの横でミャウに朝飯の干し肉を与えながら聞いていた。
俺と同い年のカトル。15歳。
トゥレスおじさんの息子さんだ。髪の色は遺伝せず金髪で編み込みおさげで、そしてびっくりするほど顔がいい。髪も長いので女に間違えられることがよくある。
中身はフツーに男子だけどな。トゥレスおじさんの無口っぷりとは打って変わって元気なやつだ。
その腰には鞘に納められた炎の暁剣『イルゼ』がある。いわゆるインテリジェンスソード。
イルゼは女の子っぽい声なのでいつか人間体になって俺に惚れてハーレムの一人になってくれないかと常々思っているし土下座して直接お願いしたこともある。怒られた。
そしてもう一人、同じ孤児院出身の14歳、ティオ。
青く長い髪が特徴的な女の子だ。身長は俺よりも小さい。んで胸も尻も小さい。悲しいかなこの場にいる女性ではイルゼとミャウに次いでまな板の才能第三位だ。顔はまぁ可愛いけどな。
もちろん俺のストライクゾーン外です。そもそもガキの頃に一緒の風呂入って一緒のベッドで寝てずっと一緒に育ってきたんでまぁ妹みたいなもん。最近反抗期が凄い。
で、二人とも既に銀級冒険者である。
才能がスゲーのよこの二人。魔力量が常人の数倍あるとかなんとかで……二人して冒険者始めてから銀級昇格までが王都の最短記録でめっちゃギルドでも有名人。二人とも顔がいいからファンも多い。
特にカトルの奴は女受けする顔しやがるからモテまくる。死ねよ(直球)。
「───へぇー、ロックがダンジョンで見つけて……ねぇ? 相変らず勘だけはすごいねロックは」
「うるせいやい! それしか誇れるもんが無いって言いてーのかティオてめー!」
「アンドロイド……そんなのもいるんだなぁ。見た目には全然人間にしか見えないや。すげー技術なんだな……イルゼはこういう存在がいるって知ってた?」
『一応知識にはありましたよ。ですが私も見るのは初めてですね。ここ百年は観測されていないと思います』
「ふふん。超高性能ですよ私は。私の力を披露する時には驚いてお二人とも腰を抜かしてしまうでしょう」
「すごい自信だねイレヴンさん!?」
『みゃあ』
なぜだろう……イレヴンが口を開くたびにポンコツ臭が感じられるのは……。
まぁ、つってもイレヴンが強いのは間違いない。俺とノックスさんが実際に見てる。
「ダンジョンの地下から脱出する時はイレヴンが先導してコカトリスとか上級魔物の群れを一撃で殺ってたかんなー。強いのは間違いなく強いよ。俺の火力のなさを補ってくれそう」
「へぇ、すげーな!! いつか組手でもしてみたいところだ……ってそうだダンジョン!! イレヴンさんがいて忘れかけてたけどギルドですげー話があったんだよ!!」
「そーだった! ロック、今日空いてる!? パーティ組んで冒険行こ!! ね!?」
「急なお誘い。どしたの。何かあったん?」
そしてお互いの紹介も落ち着けば、改めてこうして飛び込んできた理由を二人が語り出した。
どうやら俺の勘が求められてるみたいだが……なんや。なんか大きな依頼ここ最近あったっけ? なかったよな?
「それがさ! 昨日の夜に王都付近で新しいダンジョンが3つも出て来たって話なんだよ!!」
「まだ誰も調査入れてない未踏破のダンジョンが近い所に出現したんだって!! 王都じゃこんなこと初めてだって……だから今、新ダンジョンの調査ですっごい依頼が出てるの!!」
「よっしゃ行くぞォッ!! ファーストボックス総取りじゃい!!」
やはり新ダンジョンか……すぐ出発する。俺も同行する。
ってなもんよぉ!! マジかよすげー事件だ!! 俺の勘が輝く時ッッ!!
つーかマジで凄い事件だな。新ダンジョンなんて10年に一つも湧けば多い方で、それも大体50年くらいで冒険者が魔獣狩りまくってダンジョン自体の魔力が尽きて崩壊するもんなのに。それを何とかキープしてるのが初心者用のダンジョンなんだが……いきなり3つて。
だがこれは金の匂いがプンプンだ。基本的にダンジョンが新しく出現してすぐの時期は宝箱の中にレアなものが入っていることが多い。
いわゆるファーストボックスと呼ばれる、最初にその宝箱を見つけた奴だけが得られる報酬だ。
一回空っぽにした宝箱はダンジョンの魔力でその内また中身が補充されるのだが、最初に出てくるものが一番希少価値が高い……って冒険者の本で読んだことある。
超チャンスじゃねぇか!! 俺のほかにカトルもティオもいるんじゃ火力で困ることはねぇし!! イレヴンもいるし!!
よっしゃ今日の予定変更!! リンを孤児院に見送ってからカトルとティオに家の魔導タンク補充してもらってイレヴンと一緒に街中デート……なんて考えてたけどそんなことしてる暇ねぇわ! ダンジョンに突撃ィィィ!!
「速攻支度するわ! リン、悪いけど孤児院にはしばらく泊まってもらうかも! 冒険終わったら迎えに行くから!」
「ん、わかった。ごちそうさま」
「マスター、私もついて行っていいですか? 私が目覚めて……急に現れた3つのダンジョン。大変興味があります」
「モチのロンっていうか言わなくてもお願いしてたところだわ! 連日の冒険になるけどイレヴンも付き添いよろしく!!」
「了解です」
「へへー、ロックが来てくれりゃ宝箱捜索には困らないからな! 空いててよかったぜ!」
「アイテムボックスも特大だもんねー。すごい助かる……ってあれ? ロックいつの間にか銀級になってる!? ギルドカード銀色だー!!」
「ああ、つい昨日昇格試験でね。ってかそこでイレヴンと出会ったんだよ」
「え……あの初心者用のダンジョンで見つけたのか?」
『あんな近くに対魔獣用決戦兵器が隠されていたとは。驚きですね』
「隅々まで捜索されたって言われてたよねあそこ? ロックの嗅覚キモいねやっぱり」
「あ、やっぱりマスターの嗅覚キモいですよね。判りますかティオ」
「わかるー!! イレヴンさんも気をつけなきゃだめだよ! ホンットにロックってばえっちなんだから!!」
「ティオにそういう欲望を向けたことは欠片もないと記憶しているが??」
「やかましー! 私の所属してるクラン『ケンタウリス』にいる女の先輩たちみんなからロックの愚痴聞いてる私の身にもなれー!!」
「その節は大変お世話になりましたって伝えといてくれる?」
「二度とパーティ組んでやらないって言われてたよロック」
「泣けるぜ」
「相変らずモテねぇなロック」
『なぜなのでしょうね。よい所もあるのですが』
片手間でティオにディスられながらも俺は冒険の準備を続ける。
カトルはフリーの冒険者だが、ティオは女性オンリーのクラン『ケンタウリス』に所属している。
なのでその伝手を使って一回パーティに混ぜてもらってダンジョン探索に同行したのだが、その時に余りにも魅力的な女性が多すぎてめちゃくちゃ口説いた結果、見事に全滅しクランメンバーからの心証が最悪になったのだ。
団長のメルセデスさん(28歳・セントール)のおっぱいがデカくてエロ過ぎるのが悪いんや……!! あんなん目にしたら獣を抑えられるわけないでしょー! ンモー!!
「ってかティオ、お前ケンタウリスの方はいいのか? クランで探索しに行ったりしねぇの?」
「あー、ギルド本部にいた団長に確認したんだけど、積極的に新規探索はしないんだって。女の人ばかりだからね、どこで何があるか分からないからダンジョンへの冒険は石橋を叩いて少し様子見するみたい。それぞれが個人的に行く分には何も言わないってことだから、こうしてカトルとロックを誘いに来たの」
「さよけ」
はい。懸念は問題なかったですね。
そんなこんなで冒険の準備は完了。まぁ元々アイテムボックスにポーションとか探索用のツールキットとかはしまってあったし食料も銀級試験に備えて買いこんであったしな。
道中の回復役にはティオがいるし、問題なく行けるだろう。無理して踏破しなくたっていいんだしな。行けるところまで行ってダンジョンの地図作って戻ってくるのもシーフの立派な仕事よ。
「っし、準備出来た。リンももう出かけられそうか?」
「ぶい。イレヴンにかみのけきれいにしてもらった」
「流石にハネすぎてましたからね。淑女は身嗜みにも気を使うものですよリン」
「うん、ありがと」
いつの間にやら寝ぐせ爆発してたリンの髪をイレヴンが梳いてくれていたらしい。
まるでお姉さんみたいだな。この二人割と相性がいいみたいだ。普段は俺がやったり自分でやらせたりしてたんだけどなリンの髪は。美人な姉が出来ることでリンが将来立派な淑女になることを祈ろう。
アイテムボックスも確認し終えて、最後にミルクを飲み終えたミャオをフードにin。
よし、準備出来た。
「それじゃ、ロックも……イレヴンも、カトルもティオもミャウも、きをつけてね」
「おう。いってらっしゃいリン」
「いってらっしゃい」
「勉強頑張れなー」
「リンちゃん、また今度遊ぼうねー!」
『みゃあ』
みんなで家を出て戸締りして、まずリンが背中の竜翼を大きく広げて孤児院へ飛び立っていった。
竜人だから飛べるのが便利だよな。最初のころは孤児院への通学にいつも付き添ってやってたんだけど自宅と孤児院の場所をリンが覚えてからはああやって飛んでいくことも多い。
あとは孤児院で俺とティオの育ての親でもあるシスターに言葉やらなんやら色々教えてもらうわけだ。あとで孤児院への仕送り多めに出しておこう。食事でしばらくお世話になるだろうしな。
「うし……じゃあ俺らも行くかァ!」
「まずギルドだな! きっと人がいっぱいだぜ今日は!」
「このビッグウェーブに乗り遅れたら冒険者の名が廃るよねっ! 金級の人に負けないぞー!!」
「腕が鳴りますね。ですが無理はせず慎重に行きましょう」
『イレヴンの言う通りです。新ダンジョンなのですから無理してはいけませんよ』
『みゃあ』
そして俺たち4人+一振り+一匹は新設ダンジョンに向かう依頼を受けるためギルドに向かうのであった。
※※※
~登場人物紹介~
■カトル
トゥレスの息子。金髪おさげポニテメス顔少年。
愛剣のイルゼは父親からのおさがり。
■ティオ
ロックと同じ孤児院出身。まな板。かなりまな板。
女性オンリーのクランに所属してるが百合ではない。
■イルゼ
インテリジェンスソード。CVゆかな。
ロックに求婚された経験がある。
■メルセデス
セントールってエロいよね……。
次の更新予定
勘のいいガキがデカパイハーレムを求めて成り上がる!! そとみち @sotomich
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