人を救いたいという傲慢

白川津 中々

◾️

「幸せに生きてきたくせに」


Aは電話越しにそう言われた。


Aは家庭、学校、社会の中で問題を抱える未成年の自立支援を行っている団体で働いていた。給料は月二十万円程で、報酬としては多くないが部屋が借りられ暖かい食事を食べられる額ではある。相談を希望する未成年の中には路上で生活し、体を売ってその日の食費を稼ぐ者もおり、そういった人間と比べれば随分余裕のある生活をしているといえるが、電話越しに吐き捨てる少女が抱いた嫌悪は別の点にあった。


「そんな事ないよ。私も、親がいなくて……」


その一言に、少女は声を荒らげたのである。


「養子だったんでしょ。でも普通に生きてこれてるじゃん。愛されて、お金もかけてもらって。幸せじゃん。私は実の親から死ねって言われた。産むんじゃなかったて。だったら親なんていらなかった。産まれてきたくなかった。これまでずっと、人に望まれてきたあんたに"私も同じだよ"なんて言われたくない」


「……」


二人はこれまでに何度か話をしている。路上でオーバードーズをしていた少女にAが声をかけ、それから互いの身の上話をするくらいには打ち解けていた。この日も近況確認のためAが電話をし、最初は他愛無い会話が続いていたのだが、Aが「私も辛かったなぁ」と口にした途端、少女は激昂したのである。


「もう二度と話したくない」


少女のその言葉を最後に電話は切れた。以後、Aがどれだけ掛け直しても繋がることはなかった。


少女がこの時なにを感じ何を考えていたのか。Aは分からないまま、これからを生きていく。


救われない心が、一つ、二つ……

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