第32話 新たなる旅へ

 気づいたら俺はどこかのベッドで寝ていた。石化から目覚めてからというものこればかりな気がする。この天井は孤児院のものか。


 「目覚めましたか。記憶はありますか」


 隣からマーズさんに声を掛けられる。


 「おはようございます。塔から記憶がないです」


 魔王軍四天王グルプを倒して聖剣を取り戻した俺たちは、まず俺とグラスさんがララによる応急処置を受けた。ララは聖剣になら炎を纏わすことができるようで、それでグラスさんのキノコを燃やし、俺の腹の止血をした。その時の痛みで俺は気絶してしまったようだ。


 「剣聖様があなたとグラスを森の外まで抱えて運び出してくださったんですよ」


 そうだったのか。胞子の霧を出す陶酔キノコ自体はグルプが生み出したものではないので、グルプを倒したからと言って森の霧が全て晴れるということはないはずだ。


 だがあの時ララは聖剣の一撃で森の一部を消滅させていた。そのおかげで迷わずに森を出ることができたのだろう。


 「そして森を出たところで剣聖様も力尽きたようで、そこを衛兵たちが見つけて回収されたのです」


 「ララも倒れたんですか!?というかグラスさんも、二人とも無事なんですか!」


 俺が声を張り上げると部屋の扉を開けてララとグラスさんが入ってきた。二人とも無事の様で俺は胸をなでおろす。


 「おはようザイーフ!大きな声を出せるくらい元気なようでよかったよ」


 「は、はい。無事でよかったです」


 グラスさんに至っては目に涙を浮かべている。自分を庇って俺が大けがをしたため申し訳なさがあったのだろう。


 「ご心配をおかけしてすみませんでした。2人とも無事なようでよかったです」


 「ご、ごめんなさい。私を庇ったせいでザイーフさんにこんな大怪我を。私がついていかなければこんなことには…」


 「あれは仕方ないですよ。敵の能力を見誤った僕が悪かったです。それにその後グラスさんは胞子から僕を守ってくれたじゃないですか。お互い様ですよ」


 そう言って俺は手を差し出すと、グラスさんは表情を和らげながら握手をしてくれた。


 「うんうん。二人とも無事で、聖剣を取り返せたし、完璧だね」


 「そういうララは大丈夫だったんですか。森を出てから倒れたらしいですけど」


 「あーそれね…詳しくは後で話すよ」


 なんだか歯切れが悪いし、目が泳いでいる。なんて動揺が分かりやすい人なんだろうか。


 「とにかく全員起きたことだし早速出発しようか。グラスは支度できてる?ザイーフも早く準備して」


 「もうですか」


 俺が起きたばかりだというのに次の目的のために行動を開始しようとする活発的なララ。しかしグラスさんはあまり乗り気ではないようだ。


 「本当に私がララさんについていってもいいのでしょうか。それに学園のこともありますし…」


 やはりグラスさんは今回の戦いで自分が足手まといになったと思っていて、そのためララの旅にこれからもついていく前提で話が進んでいることに疑念を抱いているようだ。


 「たしかに魔法の腕ではマーズさんや校長の方が上からもしれないけど、ボクはグラスと一緒がいいな。君のおかげで今回の旅でもかなり助かったからこれからもついてきてほしいんだけど。ダメ…かな?」


 ララが心配そうにグラスさんに問いかけると、グラスさんは慌てて返答をする。


 「い、いえ!ララさんたちさえ良ければぜひこれからも同行させてほしいです!」


 「魔族の侵入とその戦闘により校舎が破損したことで、学園はしばらく休みになるそうです。剣聖様に同行させてもらってこの間に知見を広めるのもいいでしょう」


 マーズさんがグラスさんを後押しする。


 こうして俺たちは孤児院を後にして町の外まで来た。全員荷物はそこまで多くないのですぐに支度は終わったのだ。


 「そ、それで次はどこへ行くんですか」


 「まずは一度王都に行こうと思う。王様に聖剣の件を報告しないといけないからね」


 「それだったら校長とかマーズさんに転移のお願いをすればよかったのに」


 「あれ酔うから嫌いなんだよね」


 転移魔法に車酔いのようなデメリットが存在したのか。だとしてもそれくらい我慢してほしいものだが。


 「まあ走ればすぐに着くよ」


 「すぐにって…王都までは半月はかかると聞いたことがあるのですが」


 「やっぱララって化け物ですね」


 四天王を瞬殺していたし、ララはこの世界で最強なのかもしれないな。彼女がいれば今回のようなピンチになることはもうないだろうし、割と気楽な旅になりそうだ。


 「女の子に化け物ってひどいな。ボクにだって弱点があるんだからね」


 「剣聖のララさんにそんなのがあるんですか?」


 グラスさんが食い気味に質問をする。頭がちょっと悪いとかかなとと推測しつつ、俺もララの返事に耳を傾ける。


 「さっきはマーズさんがいたから言えなかったけど、仲間の君たちには伝えておかないとね。実はボクが強いのは日中だけなんだ。日が暮れると聖級魔法が使えなくなるし、眠たくなって昨日みたいに途中で倒れちゃうこともあるんだよ。あ、これは誰にも言っちゃダメだよ」


 ララは無敵かと思っていたが、想像以上にピーキーな性能をしていたようだ。


 「これはララに頼り切りじゃなくて、僕たちも頑張らないといけませんね。グラスさんの魔法はこれからも重要になりますよ」


 「そうですね…あ、あの!昨日の塔で私を庇ってくださったときに、ザイーフさんは私をグラスと呼んでくれましたよね」


 「え?まあとっさだったので呼び捨てしたかもしれませんね」


 「こ、これから一緒に旅をするわけですし、よかったらこれからもグラスと呼び捨てにしてください。も、もちろん嫌だったら構わないのですが」


 「別にいいですよ。グラスって呼べばいいんですね」


 グラスさんが言いたいことが言えたと胸をなでおろしている。戦闘中に名前を短く呼ぶのは重要だしいい試みだとは思う。


 「うんうん。二人が昨日よりも仲良くなったみたいでボクも嬉しいよ。それじゃあ早速王都に向けて出発しようか!」


 こうして俺たちの旅が始まった。


____


この物語はひとまずここで完結とします。

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