ボクの気持ちは儚く拾われ

ねむ

#1

ボクは今とても幸せだ。絵名も僕の全てを受け入れて、付き合って、同棲までしている。中学生の頃からしたら考えられないくらい幸せだ。ただ、やはり神様というのはいるのだろうか。いつかこの幸せの代償が来るとは思っていた。ただ、こんなにも早いなんで...


〜数日前〜

医者「誠に申し上げにくいのですが...暁山さんの寿命はあと3日ほどです」

瑞希「...え?」

医者「脳の働きが急に停止する病気でね...入院すれば1週間ほど延長できますが...それ以上は厳しいでしょう」

待って。待ってよ。せっかく絵名と居られるようになったのに。やっと僕も人並みの幸せを手に入れられたと思ったのに。

瑞希「...分かりました。入院します」

ボク...どうすればいいんだろう...とりあえず絵名に言わないと...でも、絵名になんて言えばいいんだろ...そのまま言ったらきっと悲しむよね...

瑞希「ただいま〜」

絵名「あ、瑞希。おかえり」

瑞希「あ、そういえばボクちょっと旅行することになったから!」

絵名「は?ちょっと、急すぎるんですけど」

瑞希「ごめんって絵名〜急に決まったことだからさ〜」

絵名「はぁ...まあアンタが学校行かないのはいつもの事だからいいけど、気をつけていきなさいよね」

瑞希「あっれ〜?もしかしてえななん、ボクがいなくなるの寂しいの〜?」

絵名「ちょっ、そんなわけないでしょ!瑞希が居なくても、普通に生活できます!」

瑞希「絵名、どうどう〜」

これで...いいんだ...。


〜次の日〜

看護師「では暁山さん、ここで数日間入院となります。」

瑞希「分かりました」

あぁ、ボク、とうとう1人になっちゃったんだな。

...やっぱり、1人は寂しいな...。そういえば、ボク、いっつも1人だったな...


類、今頃何してるんだろうな...司先輩また爆破してるのかな...類に何も言わないで来ちゃったな...申し訳ないな...


杏たちにも申し訳ないことしたな...でも、杏達ならすぐ立ち直れるよね。また冬弥くんと、こはねちゃんと、弟くん達とまたいつもみたいに歌ってくれるはず...


そうだよね。皆、ボクなんかが居なくなっても普通に過ごせるんだよね。そうだよね...みんなにとってボクって...なんだったんだろうな...


〜数日後、絵名の家〜

絵名「瑞希遅いなー。行き先もいつ帰ってくるかも言わないで行っちゃって...」

絵名「あ、そうだ!位置情報アプリで今瑞希がどこにいるか見よっと」

そういって、私はスマホの位置情報アプリを開く。

絵名「はぁ、やっぱり最近のスマホは便利ね。このアプリ使えば誰がどこにいるのかなんてすぐ分かっちゃうんだから」

位置情報アプリを開いた瞬間、私は恐怖を覚えた。なんと、瑞希の位置情報は、隣町の総合病院を指していたのだ。

絵名「え?瑞希?嘘だよね、アンタが病院なんて...」

私は嫌な予感がし、まともな支度もせずに家を飛び出した。メイクもしてないし髪も整えてない。ただ、今私の頭の中にあったのは、瑞希と、嫌な想像だけだった。



〜その時、病院〜

ボクの寿命がとうとう消えそうになった。今日、ボクは死ぬ。もう体も動かせないくらいまで筋力は低下したし、声も出しにくい。最初から最後まで、ボクはひとりぼっちだった。この世界に適応出来なかった人間にとっては当たり前か。でも、最後に叶うなら...もし叶うのなら...最後に、絵名たちに会いたかったな...


その時。病室の扉を乱暴に開けた誰かがいた。そこには、




茶色いボブカットの、絵名がいた。




瑞希「え...な...?なんで...ここに...」

絵名「なんでここに?じゃないわよ!なんで何も言ってくれないの!私たち、友達じゃないの?!話くらい...してよ...!」

そういって、絵名はボクに抱きついた。真っ白なシーツが水滴によって湿る。

瑞希「ご...めんね?えなには...めいわく...かけたくなかったから...」

絵名「迷惑とか...そんなこと思うわけないでしょ!私が...瑞希のことどれだけ心配したと思ってるの!」

あはは...絵名に迷惑かけちゃったな...

絵名が泣いている中、また病室の扉が乱暴に開けられる。

類「瑞希!」

瑞希「る...い?」

神高のみんなが来てくれたみたいだ。あはは...やっぱみんなに悪いことしたな...

類「絵名くんから話は聞いている。瑞希...僕を置いていかないでくれよ...僕には瑞希が必要なんだ...」

司「暁山...せめて何か1つでも連絡を入れればいいものを...オレ達は心配していたんだぞ!どれだけ連絡をしても返ってこなくて!」

瑞希「あはは...つかさせんぱい...ごめんなさい...」

彰人「暁山...オレたちそんなに頼りないかよ...っつーか、絵名にくらいは話せよ...」

杏「そうだよ!少しくらい...話してくれたっていいじゃん...」

瑞希「ごめんね...みんなに心配...かけたくなくて...」

そんな会話をしていると、ニーゴのみんなが来た。

奏「瑞希...瑞希!大丈夫なの?」

瑞希「大丈夫...ではないかな?」

まふゆ「私たちに、何も話さなかった...」

瑞希「ごめんね...あんま...言いたくなくて...」

ボクって、意外と愛されてたのかな?

類「瑞希...瑞希...おいていかないでくれ...」

瑞希「みんな...今までありがとう...」

絵名「そんな事言わないで!まだ...まだアンタは生きれるんだから!」

瑞希「大...好きだよ...え...な...」

部屋中に電子音が鳴り響く。さっきまで液晶で上下していた緑色の線は壊れたかのように動かない。部屋の中に看護師が入ってくる。心臓マッサージをするが、戻りません、の声しか聞こえない。

数時間。瑞希の死亡が確認された。葬儀は、近親者のみで行われた。




絵名「瑞希...なんで...」

私は全てのやる気を失ってしまった。髪はボサボサ。家の中も散らかっている。絵もしばらく書いていない。

絵名「あぁ...死にたいな...」

絵名「瑞希の部屋...整理しないとな」

私は僅かなやる気を出して、瑞希の部屋に入った。

絵名「綺麗だな...この部屋は」

瑞希が死んでから誰も入っていないこの部屋は、他の部屋とは比べ物にならないほど綺麗だった。部屋の中には、コスメや作り途中の服、パソコンなどが置いてあった。私は、キーボードの近くにあった「遺書」という紙に目がいった。

絵名「遺書?瑞希が書いたのかな...」

絵名「他の人も...読んだ方がいいかな...」

私は、あの時病院に来ていた全員を呼んだ。

類「絵名くん、今回はどんな要件で?」

絵名「瑞希の、遺書があったの。」

そう言うと、全員の顔色が変わった。やっぱ、みんなも立ち直れてないんな...

絵名「今日は、それをみんなで見ようと思うの。瑞希のことだから、多分、みんなにも書いてると思う。」

私は、瑞希の遺書を開いた。



「 遺書


この手紙を見てるってことは、多分、ボクはもういないんだね。


な〜んて!ボクこの流れ1回やってみたかったんだ〜こういうのやる機会ないからさ〜

この遺書はさ、実は病院で書いたやつを家に届けてもらったんだ。ボクが1人で死ぬことをみんなは許さないかもしんないけど、ボクの最後のわがまま。許してね。あと、一人一人にメッセージ考えたから呼んでくれると嬉しいな。


類へ 今までボクと一緒にいてくれてありがとう。今のボクがあるのは、絶対に類のおかげ。これからは司先輩たちとショー頑張ってね!ボクは類の演出、大好きだったよ。


司先輩へ 司先輩、今までありがとうございました。世界一のスターになるためには、色んな苦難とかもあるかもしれないけど、類と一緒にこれからも頑張ってください!類と駆け上がっていくのを、ボクはずっと見守っています!


杏へ 今までこんなボクと一緒にいてくれてありがとう。こんな不登校のボクでも、変わらず杏は接してくれたね。それがボクにはほんとに嬉しかった。これからは弟くんたちと頑張って歌ってよね!応援してる!


弟くんへ やっほ〜弟く〜ん!元気してる?まあ弟くんならこんなことすぐ立ち直れるよね?弟くんの歌声、結構好きだったよ。堂々としててかっこよかった!弟くんもさ、なんか色々抱えてるみたいだけど、ちゃんとほかの人頼るんだよ?ボクが言えることじゃないけどね。周りの人ってさ、意外と優しいから。これからも、絵名を守ってよね!


奏へ 奏はボクのMVを見て誘ってくれたよね。あの時、本当に嬉しかったなぁ。奏の曲はボクのMVにはもったいないくらいすごいものだったよ。これからもたくさんの人を救う曲を作り続けてね。


まふゆへ まふゆはボクが死んでももしかしたら泣いてないかもしれない。でもボクが死んでもし泣いてくれたら嬉しいな。なんてね。まふゆはこれからも色んな大変なことがあると思う。それでも、ニーゴのみんなは味方でいてくれるはずだから。頭の片隅に、ちょっとボクがいたら嬉しいな。


絵名へ 何も言わなくてごめんね?でも、これもボクなりの気遣いなんだ。これだけは分かって欲しい。どうせなら、最後まで今までどおり居たかったんだ。絵名は優しいから多分ボクが病気になったって言ったら心配してくれると思う。でもボクは普通にできる時まで普通で居たかったんだ。絵名は、ボクが死んで悲しんでると思うけど、ボクの死んだことなんて乗り越えてこれからも頑張って!ボク、これからもニーゴで頑張りたかったけど、これからは3人でニーゴを盛り上げていってね!ボク、絵名のこと大好きだよ!


最後に、今までみんなありがとう!もし生まれ変わったらまたみんなと一緒になりたいな。


暁山瑞希」



絵名「瑞希...私のことを考えて...」

類「絵名くん、僕たちは瑞希の分まで生きないといけない」

絵名「そう...だね。これで死ねなくなっちゃった」

彰人「絵名、お前死のうとしてたのかよ」

絵名「...」

彰人「...っつーか、お前にそんな勇気ねえだろ」

絵名「は?私にもそんくらいの勇気あります!」

???「まぁまぁ〜絵名どうどう〜」

絵名「?!」

類「今のは...誰の声だい?」

彰人「暁山...?」

明らかに今のは瑞希の声だ。聞き慣れた、私の好きな声。

絵名「私たちに...最後に会いに来てくれたんだね...」

私たちはこれからも生きていかないといけない。私たちはこれから瑞希たちの分も生きないといけないな。

類「じゃあ、僕達も明日からいつも通り、学校へ行こうか?」

司「そうだな!暁山の分もオレ達が頑張らないとな!」

類「じゃあ、いつも通り司くんを空に飛ばそうかな♪」

司「大気圏は超えるなよ?!」

彰人「校舎は爆破しないでくださいよ」

類「もちろんだとも♪安全には考慮しているよ」

奏「私達も、瑞希の分も頑張んないとね」

まふゆ「うん。これからはMVじゃなくて、絵名の絵の静止画でいいと思う」

奏「あっそれいいね」

杏「私達も練習しないとね!彰人!」

彰人「あぁ、当たり前だ」



曇っていた、空が晴れた。

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