3-10:クロブチ模様の厄災

 町の中では、見る見る変化が出てしまった。

 隆太の奴は、わざとやったんじゃないだろうか。


 猫殺しおばさんの家の周り。そこから離れた大通り。

 そうしたあちこちで、猫の幽霊がさまよっている。


「ミズナちゃん。これってやっぱり」

 明らかに、前とは様子が違っていた。


「タケユキの時と同じだ」


 殺されていた猫の一匹一匹が、不気味な表情を浮かべている。道端に佇んで、じっと道行く人たちを見つめている奴。近くに人が通りかかると、ぐるぐると足の周りを回り続ける奴。道路の真ん中に行って、「アー、アー」と声を上げ続ける奴。


 人間の時とは様子が違う。

 でも、こいつらは絶対に『悪いもの』だ。


「きっと、子供たちは殺された猫のことを『怖い』って思ったんだ。きっと人間を憎んでるって。だから、こんなことになった」

 隆太の奴の言い方も悪かった。


「もしも人間がこれを認識しちゃったら、きっとまた大変なことになる」

 近づいていって、猫の幽霊に触れてみる。でも、僕には一切反応しない。


「これ、どうしたらいいんだろう」

 ミズナちゃんに呼び掛ける。


 でも、反応はなかった。

 寂しそうな目をしたままで、ミズナちゃんは俯いていた。





 とりあえず、僕が何もしなければいい。

 たまに、人間が写真なんかを撮影した時に幽霊が写り込むことがある。そういう場合でもない限り、どんなに猫たちが悪霊化しても人に影響は出ない。


 その間に、何か方法を考えれば。


「ねえ、パルちゃん。大変かもしれない」

 ミズナちゃんが家に来て、浮かない顔を見せた。


 今は午後の六時。アツヤたちは夕飯を食べているところだ。


「どうしたの?」と問いかける。

「猫たちの様子、見に行ってみたの。やっぱり、どんどん酷くなってる」


 うん、とだけ僕は応えた。


「そしてね。今日、人間の中で呪いにかかる人が出るのを見た」

「どうして」と愕然とする。


 ミズナちゃんは眉を下げ、ゆっくりと首を振る。


「よくわからない。でも、町の中で見かけたの」

 一度天井の方を見上げ、ミズナちゃんは瞬きをする。


「パルちゃんと同じように、『霊が見えてる猫』が出てきたみたいで」





 わたしは猫。

 よく、みんなから『かわいい』って言われる。


 人間は好き。いつも、おいしいごはんをくれるから。


 わたしの体、真っ白な毛の中に、黒い模様がいくつか入っている。おばあさんや、小さな女の子、たまにおじさんなんかも、わたしを見つけて嬉しそうにして、「かわいいね」ってなでてくれる。


 だから、人間を見たら、ついつい甘えた声を出してしまうの。

 だから、とっても不思議だった。


「猫ちゃん、ウチにいらっしゃい」

 おばさんが、そう言っておやつをくれた。この人間も、わたしのことがきっと好き。わたしも、この人のことが好きになる。


 でも、ちがった。


「かわいいねえ」

 他の人たちと同じように、おばさんもわたしを可愛いとほめた。


 でも、なでてはくれなかった。

 お風呂場に連れて行かれて、尖ったもので体を刺された。


「ギニャ」と声を出したけれど、「あら、かわいい」とおばさんは笑う。


 隣を見ると、他にもたくさん猫がいた。でも、動く猫は見つからなかった。みんなもう、何もしゃべらなくなって、蠅が飛んできても何もしない。


 おばさんの家で、ごはんはもらえた。でも、その度に体を切られた。


「綺麗な目ね」と、言われた。

 その日から、見える世界が小さくなった。左がわが良く見えない。


 かなしい。かなしい。かなしい。


 もっと、お外を歩きたい。痛いのはイヤ。みんなから、もっとかわいいって言われたい。もっと、やさしくなでてほしい。


 かなしい。かなしい。かなしい。


 体が痛い。おなかもすいた。力がどんどん入らなくなる。

 わたしは、このまま消えてしまうの?


 ただ、かなしい。


 そうやって、ただ消えるのを待っていた。

 でも、ある時に『光』が見えた。


 ふらふらと、体がまともに動かなかったけれど、やっと外に出られた。

 いっぱい、人がいた。でも、こわかった。


 ねえ、誰か。


 町をさまよう中で、不思議なものが見えてきた。

 普通の猫とは違う、半透明な変な猫たち。その猫たちが近くを通っても、人間は誰も気にもとめない。


 半透明の人間もいる。でも、同じく他の人間からは相手にされない。


 かわいそう。

 わたしと同じ。かわいそう。


 教えてあげなきゃ。ちゃんと見て。かわいいって言ってあげて。


「ミャーオ」


 人間が近くを通ったら、わたしは声をかけてあげた。

 ちゃんと見て。気づいてあげて。


 ねえ、そこにいるんだよ。かわいい猫が、いるんだよ。

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