3-9:さあ、みんなで祈ろう

 何か、まずい予感がする。


 幽霊の世界が不安定で、生きている人たちの思い込みで簡単に歪められる。そんなことがこれまでに何百年も何千年も続けられてきた。


 でも、それでも問題は起きなかった。

 シューキョーというのがあったから。それのおかげで、ある程度の秩序が保たれた。


 けれど、それが壊れ始めた。


「隆太の奴が言っていたこと。危ないものかもしれない。『ココロの神様』っていうものを作り出して、幽霊の世界を安定させるんだって話だったけど」


 もうちょっと早く、僕は気づくべきだった。

 次の日の朝、僕はすぐにミズナちゃんと合流した。一晩眠って起きたら、すぐに一つの可能性に気づいてしまったから。


「木更津燐火っていう人は、本当に幽霊が見えていて、そのおかげで『本当のこと』に気づいたんだよね。つまり、その頃には『危ない幽霊』がほとんどいなかったんだ」


 むしろ、ここが一番のポイントだと思う。


「やっぱり、僕は普通じゃないと思うんだよ。怖い話を考える人は、ずっと昔からいたはずだ。そして、幽霊の存在に気づいてしまう人も、それなりにいたと思う。でも今みたいに、そんな危ない幽霊がどんどん生まれる状況っていうものが、昔から当たり前にあったとは思えないんだよ」


「うん、そうかもしれないね」

 ミズナちゃんも頷いてくれる。


 でも、なんだか様子がおかしかった。

 表情が乏しいというか、今朝は寂しそうな顔をしている。


「だから、何か良くないような気がしてるんだ」

 とにかく、確認しないといけない。


「隆太は、『ココロの神様』っていうものの力で、悪いことを防げるって言った。でも、もしかしたら逆なんじゃないのかな」


 あの単語を聞いた時、嫌な気分になった。

 木更津燐火も死んでいる。きっとその人が何かをやって、霊の世界をおかしくしてしまったんじゃないか。


 だから、このまま放っておいていいわけがない。

 隆太が何かやることで、悪いことが起きるんじゃないか。





「こんな話があるんだ」

 その日もまた、隆太は小学校前で子供たちと話していた。


「木更津燐火はね、昔、家族を一度に失って、とても悲しい想いをしたんだって。そして自分も死んでしまいたいって毎日思いながら過ごした。そうする内に、ふと幽霊が見えるようになったんだという」

 霊能者についてのエピソードを、流暢に語ってみせる。


「心の力っていうのは偉大なんだ。強い悲しみの感情、消えてしまいたいって感じるくらいの想い。そういうものが膨らむと、『霊』というものが見えるようになるんだとか」


 今回もどこか、覚えのあるような話。


「だから、心というものの力をみんなも自覚して欲しい。生きている人間が『こうだ』って思うことにより、霊の世界は大きく動かされる」

 隆太は両手を合わせてみせ、祈るようなポーズを取る。


「まずは、みんなで祈ろう。この前、悪いおばさんによって大勢の猫が殺された。その猫たちの幽霊は、きっと今も苦しんでいるはずだよ」


 僕はじっと話を聞く。

 隣にいるミズナちゃんは、なぜか暗い顔を続けていた。


「さあ、みんなで祈ろう。殺された猫たちが天国に行けることを」

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