3-11:あいつを一体、どうしたらいい

「これは、どういうことなんだ?」

 アツヤは花見ちゃんを連れ、隆太のもとへと向かっていった。家の中までは入らずに、玄関先で相手と問い詰める。


 アツヤは『スマホ』を示してみせ、隆太に何かの写真を見せる。


 僕としては、ミズナちゃんと一緒に『謎の猫』の姿を見に行きたかった。でもその前に花見ちゃんが家に来て、アツヤが出かける話を始めた。


 今を逃したら、隆太の動きがわからなくなる。だから、まずはこっちを優先して一緒に話を聞きに行くことにした。


 今日のアツヤは少し怒った顔をしていた。


「猫の幽霊が人を祟るとか、変な噂ばっかりが広まってる。子供たちに、何か変なことでも吹き込んだんじゃないのか?」

 あくまでも声を押し殺し、アツヤは玄関の前で問い詰める。


「それは」と指摘を受け、隆太はわずかに眉を下げる。


 しばらく、言葉を探すように目線を下に落とす。僕と目が合い、すぐに逸らした。


「そこは、よくわかりません」

 隆太は溜め息をついてみせた。


「でも、僕の説明が良くなかったのかもしれません。けれど、『理論上』はこれで間違ってないはずなんです。『ココロの神様』の話をもっと広めていけば、幽霊に関して悪い事態が起こることは防げるはずなんですよ」


 アツヤは何か言おうとするが、「待ってて下さい」と隆太は家の中に入る。

 少しして、また玄関の扉が開いた。


「これです。いっぱい、用意しておいたんです」

 ステッカーを目の前にかざした。


「町の子供たちに、これを配りました。これが『ココロの神様』のイメージだよ、って。これを持ってお祈りすれば、悪い幽霊に襲われることはないって。きっと、幽霊も全部成仏させられるって話したんです」


 あの、変な図形の描かれたもの。


「今度こそ、これで平和が訪れますよ」





 とりあえず、様子を見に行かなくちゃ。

 隆太たちの様子はわかった。またステッカーを配りに出かけたのも見た。


 これでまた何かが悪化するかもしれない。でも、今は何もわからない。

 それよりは、町の方を見ておかないと。


「あっちの方。クロブチの模様の猫だったの」

 ミズナちゃんが行く先を示す。


 良かった、と思う気持ちもある。昨日はずっと、ミズナちゃんが暗い表情をしていた。でも、今日は少しだけいつも通りに戻っている。

 そっちも気になる。でも今は、別のことに集中しないと。


 町が騒がしい。さっきからピーポーの車のサイレンの音があちこちで聞こえる。

 人だかりが見えた。赤い光が眩しかった。その先で誰かが倒れている。


 近くには、半透明の猫たちがいた。


「パルちゃん。多分、あの子だ」

 ミズナちゃんが指差す。


 ちょうど曲がり角のところで、猫が歩いていくのが見えた。

 クロブチ模様の猫。顔は見えなかったけれど、多分片目がなくなっている。


「あいつか」


 どこかで、見覚えがある。

 理屈はよくわからない。でも、何が起きているかは想像できる。


 クロブチの猫も、霊が見えるようになっている。

 そしてわけもわからず、それを人に教えている。





 僕はここで、どうすればいいんだろう。


『クロブチ』の姿を、遠くから眺める。何度か見ている内に、あいつが誰だったのかは思い出すことができた。


 あの、猫殺しおばさんの家にいた奴だ。アツヤが警察を呼んだ後、よろよろとした様子で出て行った。


 クロブチは確実に、幽霊を見ることが出来ている。猫の幽霊が傍を通りかかると、必ず「ミャーオ」と鳴き声をかける。


 どうしてあいつに幽霊が見え始めたかはわからない。でも、これは絶対にまずい状態だ。


 人間が通りかかる。その度にクロブチは声をかける。片目のない猫に声をかけられて、人間がギョッとするのが遠目にもわかった。


 僕は、幽霊のミズナちゃんたちとは会話できる。でも、生きた人間とは無理だ。

 同じく他の猫とだって、言葉を交わすことはできない。


 あいつを一体、どうしたらいいんだろう。





 なんだか、とっても変。

 まわりの猫たちが、どんどん別の何かに変わっていく。


 はじめは、ただ半透明なだけだったのに。でも、猫たちの様子がおかしくなっている。わたしが「ミャア」と声をかけたらこたえてくれる子もいたのに、急にわたしなんかが見えなくなったみたいに、変な動きをする子たちがどんどん増えた。


 ずっと人間を見てるだけの子。人間を見つけたらどこまでもついていこうとする子。人間に向けて変な声をあげている子。


 一体、どうしちゃったんだろう。


 でも、わたしにはわかる。

 この子たちもきっと、人間が好きなんだ。

 人間に、もっと気づいて欲しいって思ってるんだ。


 だから、わたしが教えてあげなくちゃ。


「ミャーオ」


 通りかかった人間に、傍にいる子のことを教えてあげる。

 そうして目が合う。半透明の猫は、人間の体に触れていく。


 良かった、と思う。

 でも、それから何かがおかしくなった。


 人間は急に道路に出て行って、車にひかれて死んじゃった。

 どうしたんだろう。


「ミャーオ」


 次の人間にも、半透明の子の存在を教えてあげる。

 今度は、その場でドサッと倒れちゃった。

 どうしたんだろう。


 よくわからない。人間たちに、何か起きているのかもしれない。

 だから、もっと教えてあげなくちゃ。


「ミャーオ、ミャーオ、ミャーオ」


 人間はどんどん動かなくなる。


「ミャーオ、ミャーオ、ミャーオ」


 猫たちはどんどん、人間たちに触れていく。

 もっと、もっと。人間はいつだって、猫を見ると幸せになれる。


 もっと幸せを、みんなに教えてあげなくちゃ。


 あ、見つけた。


 男の子が立っていた。手に何かを持っていて、小さい子供に配っている。


「これを使ってお祈りをするんだ」って、何かを教えている。


 ふうん、なんだろう。

 とりあえず、この男の子とはお友達になれそう。


「ミャーオ」と、わたしはその場で声をかける。


 振り向いた。じゃあ、教えてあげなくちゃ。

 ちょうど、すぐ近くに半透明の猫がいる。


 その子へと向けて、わたしは「ミャーオ」と声を上げた。

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