2-7:あやしい叔父夫婦
また、前と同じ作戦を実行した。
全然関係のない空間へ向けて鳴き声を上げ、そこに何かがあるように見せる。そうやってタケユキの幽霊がいる場所へ注意が向かないよう、僕は二人を誘導した。
アツヤは、どうも危なっかしい。
この前は色々と答えを出してみて、結構頭のいい奴かと思っていた。それなのにタケユキの幽霊がいるこの公園へ、画像と照らし合わせながら来てしまうなんて。
「こっちに、何かあるのか?」
アツヤは不可解そうに僕の後をついてくる。
世話が焼ける。そろそろ学習して欲しい。
「前も、パルメザンが何か示そうとしてたんだけど、写真とかに撮っても何もなかったんだよな」
言いながら、スマホを持ち上げてみる。
「アツヤさん、とりあえずここはもう離れませんか? ほら、幽霊のいる場所に足を運ぶと悪いことが起こるって話ですし。昨日も、この近くで交通事故に遭って死んだ人がいたって聞きますから」
「そうだね」とアツヤは花見ちゃんに頷く。
良かった、と僕は体の力を抜く。
「もしかするとこいつ、人を守ろうとしてるのかな」
公園を去りながら、アツヤが僕の顔を見る。
「事故現場にいた時も、俺が写真の場所に近づこうとするのを止めてたような感じがした。意外と呪いとかが本当にあって、そこに人が来るのを止めてたなんて、ないのかな」
咄嗟に、ミズナちゃんと目を見合わせる。
やっぱり、こいつは賢いのか。
「どうでしょうね。さすがに猫ですし」
花見ちゃんが苦笑し、おさげの髪をわずかに揺らす。
「まあ、とりあえずは近づかない方がいいのかもね。ここは縁起をかつぐってことで、あんまりその手のところには足を運ばないようにしよう」
「それは、前から言われていることですよ」
いいぞ、とミズナちゃんと目配せをする。
「これで、当分は安全かな」とミズナちゃんがニッコリと笑う。
「そうだね。また、あの苦労が戻るのかと思った」
タケユキの件はまだ不可解だ。でも、アツヤが巻き込まれなくて良かった。
帰り道は一緒になった。
僕たちは哲宏の家に帰ったけれど、アツヤたちも同じ道を進んでいく。僕が一足先に専用の入り口から家に入ると、直後に『ピンポーン』とチャイムが鳴った。
「はい」と恵津子が応対し、アツヤがインターホン越しに語りかける。
「江藤タケユキくんと同じ学校にいた者です。ちょっとお話を伺いたくて」
丁寧にそう話され、恵津子がそこでドアを開ける。
これは、話を聞かないといけない。ミズナちゃんと無言で顔を見合わせる。
「先日のテレビ番組も見まして、お話を聞きたくなったんです。そこにいるパルメザンがさっきも公園のところにいて、不思議な動きをしていたので。やっぱり、パルメザンは特別な猫なんだろうかって思わされて」
リビングに通されるなり、アツヤはすぐに本題を切り出す。
なんだか急に、居心地が悪くなった。
でも、悪くない機会かもしれない。
「パルメザンは本当に、そういう特別な猫ということなんでしょうか」
思ったより、収穫はなかった。
アツヤが追及することで、恵津子の真意がわかると思った。
「ごめんなさい。そう信じたいと思うけど、色々とわからないことが多くて」
結局はそう言って、番組で話していたことが全てだと押し切られた。
最後に、「タケユキの起こした事件なんですけど」と別の話題も切り出していたが、「あそこの家とは、あまり交流がなかったから」と首を振られて終わっていた。
「どうも、ダメだったね」
玄関から出た後、アツヤは肩を落としていた。
僕も一緒に外へ出て、表で二人が話す姿をじっと見る。
「タケユキの件、絶対にあの人たちも何か知ってるはずなんだ。月岡馨子さんの件は、本当は親戚のあの人たちが裏で動いて、お金を騙し取ったって聞いた」
「そして、タケユキくんのお母さんも共犯だった」
家から十分離れたところで、二人は情報を反芻する。
ミズナちゃんは首をかしげ、「タケユキの話と、ちょっと違うね」と呟く。
やっぱり、タケユキは悪い奴だ。
「おばあさん自身がどこまで関与してたかは知らない。でも、この前のあの『アキサカさん』みたいに被害に遭った人がいて、その人が過去の話を暴こうとした。だからタケユキは、露見するのを恐れて頭を殴るようなことをしたんだ」
この場に、タケユキがいないのが残念だ。
哲宏たちだけじゃなく、タケユキのお母さんも詐欺に関わった。だからタケユキは、立場が悪くなるのを恐れていた。
「でも、やっぱり気になるな」
アツヤは言い、僕のことを見下ろす。
「そういう親戚たちが、なんでパルメザンを引き取ったんだろう。あんな風に持ち上げてみて、一体どうする気なのか」
「やっぱり、変ですよね」
「ちょっと、調べた方がいいかもね。パルメザンのブリーダーのところに行くとか、そんな話もしてた。何か、ありそうな気がする」
声が重い。おかげで、僕も落ち着かない。
タケユキと話がしたいと、今は強く思う。
あいつが今も喋れたら、何かわかったかもしれないのに。
今日の夕食は、いつもと雰囲気が違った。
部屋の空気がピリピリとしている。
「思ったより、時間がなかったものだね」
二人はいつも、穏やかに笑ったような顔をしている。けれど今日は、共に眉間に皺を寄せて、忌々しそうにステーキ肉を口に運んでいた。
小さく舌打ちし、僕の方を一瞥する。
「タケユキも、やるなら徹底してくれれば良かったのに。あんな中途半端な騒ぎばっかり起こしやがって」
哲宏が声に出し、コップのビールを口に運ぶ。
これは、絶対に何か悪い話だ。
僕が傍にいるのに、全くそれを気にしていない。
本当に、こいつらは一体なんなんだろう。
(何かされる前に、殺しておくか)
こいつらが、おばあちゃんを追い詰めたのか。タケユキが悪霊みたいになったことも、哲宏たちと関係しているのか。
(とりあえず、殺すべきかな)
この家に居続けるのが怖い。ミズナちゃんがいなかったら、僕はどうしようもなく不安になっていたに違いない。
「桐ヶ谷先生には連絡しておこう。後手後手になるのはまずいから」
哲宏が言い、「そうね」と恵津子も頷く。
「少しだけ、予定を早めることにしよう」
二日後、世の中で一つの動きがあった。
その女の人が病院で目覚め、これまでに何があったのかをメディアの人間に向けて発表することになった。
「私たちの家族は、あのニセ霊能者のせいで酷い目に遭ったんです」
かつて、道端で僕を睨みつけていた女の人。
「病気の母は、全ての原因は霊の仕業だと言われて、効きもしない『霊水』なんかを何本も買わされることになりました。そしてお札などなんだのを買わされた挙句、まともに治療も受けられなくなって死んでしまったんです」
哲宏たちがテレビを点けていたので、僕もその番組を見ることができた。
秋坂恵は、ただ償いを求めに行った。その先で、そこの家に住む高校生に頭を殴られ、危うく命を落とすことになったのだと。
全身に怒りを滲ませて、彼女はそう語っていた。
「きっと、母も化けて出ていることでしょう。本物の霊能者があの家を見れば、必ず母の霊が傍にいるとわかるはずです」
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