2-3:俺と手を組まないか?

 僕はこれから、何をやらされるんだろう。

 おばあちゃんに何があったかは、『VTR』とやらで知ることが出来た。ショコラという猫との関係や、おばあちゃんが詐欺師と呼ばれるまでの出来事。


 そして僕は、おばあちゃんの新しい飼い猫。


「既に、様々な証言が出ています。このパルメザンがあちこちで『見えない何か』を指摘するような動きをし、実際のその場所では不穏な事故などが起こっていたことが明らかになっているのです」


 哲宏はもう、信用できない。


 僕は哲宏たちに連れ出され、無理矢理に元の町を歩かされた。あの男の子の幽霊がいる事故現場や、他にも買い物帰りのおばさんが死んだ交差点の付近。

 そういう場所を歩く僕を、テレビカメラが撮り続けることになった。


 大丈夫なのかな、と心配にもなる。幽霊が写真に写ることがあるらしいから、カメラにあの男の子なんかが映り込んで、また誰かが死ぬようにはならないか。


「いいザマだなあ、パルちゃんよお」

 タケユキが隣を歩き、僕のことを笑ってくる。


 最悪だ、と僕は顔を背けた。ミズナちゃんはカメラに入るのを恐れて、今は通りの向かい側から僕を心配そうに見つめている。


 一方、哲宏は満足そうだった。ニコニコと僕のことを見下ろして、「この子にはきっと、今も何かが見えているんでしょう」と勝手な解説を加えている。


 ここで、どう振る舞えばいい。

 実際、すぐ目の前にはスーツ姿の男の幽霊がいる。もしも僕がここでそれを指摘したら、この場にいる全員が死んでしまう。


「何かいないか? いたら、すぐに教えて欲しい」

 哲宏は呑気にそんなことを言う。


「パルメザン、助けてやろうか?」

 タケユキが僕の前に来て、ニヤニヤと笑う。


 すぐ近くには、哲宏や恵津子の他、カメラや音声、照明を持った人たち。それにリポーターというマイクを持った人が歩いている。


「なあ、鳴いてみろよ。そして、俺がここにいるってこと、周りの奴らに教えてやれ。そうしたら、俺がお前を助けてやれるかもしれないぜ」

 フフン、タケユキはに鼻を鳴らす。


「なあ、俺たちでここの全員、ぶっ殺してやろうぜ」





 タケユキのことは全力で無視。

 哲宏たちのことも不安だけれど、今までとやることは変わらない。僕たちは一刻も早く、霊の世界とやらの秘密を解明しないといけない。おばあちゃんが死んだ理由、ミズナちゃんが町に留まっている理由。そして、人を呪う幽霊が多くいること。


 きっと、人間の中にも気づき始めている奴はいるはずだ。


「アツヤくんって人たちのこと、今日は見て来たよ」

 家から出て、ミズナちゃんと外で会う。近くの電信柱の陰に身を寄せ、自転車なんかに轢かれないよう気を付けた。


「アツヤくん。タケユキが死んだことで、やっぱり『何かある』って疑ってるみたい。あの花見ちゃんって子と一緒に、あちこちで聞き込みなんかしてた」

 やっぱり、アツヤは動いているらしい。


「それでね、タケユキに殴られた女の人。その人のことも調べてたみたいなの」


「で、わかったの?」


「うん。はっきりと」

 ミズナちゃんは大きく頷く。


「あの人はやっぱり、パルちゃんのおばあちゃん、月岡馨子の『詐欺に遭った』って考えてる人だったんだって。その人のお母さんが変な病気にかかって、その時に霊の仕業だって言ってお金を取られたとか」


 ふうん、としか言いようがなかった。

 その辺りは、予想の範囲内だ。


 アツヤはこの先、大丈夫なんだろうか。また心霊写真の現場なんかに行って、死ぬ危険なんかに陥らないか。


「それより、本当だったのかな。おばあちゃんの話」

 一番の心配はその部分だ。


「ん?」とミズナちゃんが首をかしげる。

「おばあちゃんは本当に、人を騙すようなことをしてたのかな」

 そのせいで、地獄に落ちたんだろうか。





「なあ、パルメザンさんよお」

 家に戻ると、タケユキがソファに寝そべっていた。


 舌打ちというのは、こういう時に出るんだろうか。

 タケユキはよくやっていたけど、僕はそのやり方がわからない。


「お前さ、俺と手を組まないか。俺さ、ずっと練習してんだけどうまく行かねえんだよ。幽霊である俺が触れたら、人を呪い殺せんのかなって思ったんだけど、なんか全然うまくいかないんだわ」

 ソファから体を起こし、僕に対して目を細める。


「やっぱり、俺がここにいるって気づかせないとダメなのかなって。だからさ、お前も俺に協力しろよ。お前にとっても、悪い話じゃないだろ?」

 どこがだよ、と背中を向ける。


「おい、無視すんな。俺の話、聞かなくていいのか? お前が知りたいと思ってること、俺なら答えられるんだぞ」

 いつもと違い、今日は少しだけ腰が低い。


「じゃあ、こうしないか? ばあちゃんのことでもいい。その他、霊とか呪いに関することでもいい。俺が知ってること、お前に聞かせてやるよ。その代り、お前は俺が人を呪い殺すのを手伝う。そういう条件でどうだ」

 僕の傍まで歩いてきて、僕の顔を覗き込む。


「そういうわけで、手を組まないか?」

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